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ジェームズ・ハミルトン 「昨今の原油価格の下落をもたらしている要因は何か?」

●James Hamilton, “Lower oil prices”(Econbrowser, October 12, 2014)


過去3年間の原油価格の動向を振り返ると、北海ブレント原油(以下、ブレント原油)は概ね1バレルあたり100ドル~120ドルの間で取引されており、ウェスト・テキサス・インターミディエイト(WTI)はそれよりも5ドル~20ドル程度安い価格で取引される状況が続いていた。しかしながら、先月(9月)に入ってブレント原油の価格は(1バレルあたり)100ドルの大台を割ることになり、現在のところ1バレル90ドルで取引されている。それに加えて、ブレント原油とWTIとの価格差も縮まってきている。ここ最近の原油市場における変化の背後にはどのような要因が控えているのだろうか? 以下ではその要因をいくつか探ってみることにしよう。

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【1バレルあたりの原油価格(ドル建て)】(期間:2005年1月4日~2014年10月6日)/データの出所:EIA

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【ブレント原油とWTIの価格差】(期間:2005年1月4日~2014年10月6日)

これまでの1年の間に価格が下落しているのは原油だけに限られない。その他の多くの産業用商品の価格も同様に下落傾向にあり、特に銀や鉄鉱といった商品は原油よりも価格の下落率が大きくなっている。その背後にある要因の一つはヨーロッパと日本におけるコモディティ需要の弱さである。景気の低迷が続くヨーロッパではコモディティ需要も同時に抑えられる格好となっているわけだが、それに加えてドル高も一役買っている。例えば、ドル建ての原油価格はこの間大きく下落しているわけだが、同時にドル高(円安)が進んだために円建ての原油価格はドル建ての原油価格の半分程度しか下落していないのである。

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【各商品の価格変化率(ドル建て)】(期間:2013年10月~2014年10月)/データの出所:Oil-Price.net, Wall Street Journal, x-rates

昨今の原油市場の動向に影響を及ぼしている特殊要因の中でも重要なものの一つはリビアで原油の生産が急速に回復していることである。OPEC(石油輸出国機構)が発表したばかりの最新の月刊オイル・マーケット・レポートによると、リビアでは今年の夏以降に1日あたりの原油の生産量が(日量およそ25万バレルから日量およそ79万バレルへと)50万バレルも増えているということだ。伝え聞くところでは、リビアは今月中に1日あたりの原油の生産量をさらに20万バレル上積みし、来年の初頭までにはそこからさらに20万バレル上積みすることを目標にしているという。リビアの情勢は依然として極めて不安定な状態が続いているとは言え、仮にその目標通りに事が進んだ場合には(原油の供給過剰をもたらすことで)原油市場にかなり大きな影響が及ぶことになるだろう。

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【リビアにおける原油生産量】(単位は1000バレル/日)/データの出所:peakoilbarrel

しかしながら、昨今の原油市場の動向を説明する上で最も肝心な要因はやはりアメリカである。地下の硬質な地層から原油を取り出すことを可能とする最新の掘削技術(水平掘削)に支えられてアメリカでは2013年の1日あたりの原油生産量が2011年と比べて200万バレルも増えることになったのである。エネルギー情報局(EIA)が公表したばかりの短期エネルギー見通しによると、今後2年間のうちにアメリカにおける1日あたりの原油生産量はさらに200万バレル増える見込みだということだ。現段階で既に原油価格に影響を及ぼすに十分なニュースだと言えるだろう。

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【アメリカにおける原油生産量】(青色の直線:1900年~2013年までの実際の原油生産量(データの出所:EIA)/緑色の点線:2014年~2015年における原油生産量の予測(データの出所:短期エネルギー見通し))

以前も指摘した(pdf)ことだが、アメリカにおける原油の生産量が今後も順調に増えていくかどうかについては疑問もある。現在のアメリカにおける原油生産の驚異的な伸びを支えている(原油採掘の)手法はコストがかなり高くつく性格のものであり、掘削業者が原油価格の低下にどこまで耐えられるか意見が分かれているのだ。例えば、 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は次のように伝えている。

エネルギー問題を専門とする経済学者のフィリップ・バレジャー(Philip Verleger)氏は次のように語る。「かなり大きな痛みが発生する可能性があります。原油価格の下落が続くようだと、各業者は原油を掘り進めるペースを大きく落とすことになるでしょう」。

ウォルフ・リサーチでエネルギー問題の分析にあたるポール・サンキー(Paul Sankey)氏の見立てでは、原油価格の下落が続くようだとノースダコタ州のバッケン油田(バッケン・シェール)で掘削にあたる業者を皮切りとして開発・生産体制の見直しを検討し始める動きが出てくるのではないかということだ。 「今のところはまだそういう段階にはありません。しかし、原油価格がここからさらに(1バレルあたり)4ドルないしは5ドル下がるようなことになれば、事業規模の縮小を余儀なくされる業者も出てくることでしょう」。

原油価格がさらに下がってもアメリカ国内には依然として掘削業者にとって魅力的であり続ける油田がいくつか残っていると語るアナリストもいる。ロバート・W・ベアード&カンパニーのとあるアナリストによると、テキサス州のイーグルフォード・シェールやバーミアン盆地といった油田では原油価格が1バレル53ドルまで下がっても利益を上げる(採算を取る)ことが可能だという。

ブルームバーグでは次のように報じられている。

「シェールオイルは従来のケースと比べて採掘コストがかなり高く、原油価格がある程度高い水準に保たれていないと採算が取れない」。シティグループでコモディティ調査の責任者を務めるエドワード・モース(Edward Morse)氏は電話取材に対してそのように答えた。パリに拠点がある国際エネルギー機関の推計によると、中東や北アフリカでは原油1バレルを採掘するために10ドル~25ドルの費用がかかるが、シェールオイルを1バレル採掘するためには50ドル~100ドルの費用を要するとされている。

「原油価格が突如として1バレル60ドルまで下げるようなことにでもなれば、原油生産の伸びがマイナスに転じる可能性も出てくることでしょう」。モース氏はそう付け加えた。

格付け会社のフィッチ・レーティングスは本日発表したレポートの中で「ブレント原油の価格が1バレル80ドルまで下落することになればアメリカ国内においてシェールオイルの生産を縮小する動きが本格化するかもしれない」と述べている。

今後もヨーロッパで景気低迷が続き、アメリカにおいてシェールオイルの生産が現在の驚異的なペースで伸び続け、リビアで目標通りに原油の増産が実現した暁には、一体誰が正しかったのかすぐにでも判明することだろう。


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