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ジョセフ・ヒース「インテリは保守の首相になぜヒステリーを起こすのか?」(2015年8月24日)

Stephen Harper versus the intellectuals
Posted by Joseph Heath on August 24, 2015 | politics

スティーブン・ハーパー1 が首相だった時代を振り返ると、彼が統治に関して2つの重要な「発見」を行ったことがわかる。1つ目は、ケベックでの一切の支持がなくとも国を統治する方法を発見したことだ。2つ目は、インテリ層からの一切の支持がなくとも国を統治する方法を発見したことだ。

後者の芸当は、もちろん前者よりはるかに首尾よく実行できる。なぜなら、インテリは多数の票に影響を与えず、ごく少数の票田にクラスターとして群がるからだ。アメリカの共和党は、ずっと昔にインテリを見限っている。(2004年の大統領選の直前に、アメリカのインテリ達が集まって「ジョージ・W・ブッシュの再選を阻止しよう!」と訴えたニュヨーク・レビュー・ブックスの痛々しい号を今でも私は思い出すことができる。これは何も変えることができなかった。)

カナダで、インテリがハーパーに敵意を持つ理由は多岐にわたる。留意すべきは、インテリのハーパーへの敵意は、過去の政権(進歩的な保守政権も含む)への敵意よりより遥かに根深いことだ。私には保守派の同僚(保守といってもいろいろ)がいるが、彼らは誰一人としてハーパーを擁護する言葉を口にしない。(私が一番よく聞くのが「まあ、リベラルだってそこまで素晴らしいわけじゃないしなぁ」というものだ。)

なぜこんなことになっているのか本当に理解できていない人が世の中には存在する。(今日のグローブ&メイル紙でコンラッド・ヤコブスキは「理性的な人がハーパーに関してだけは『ヒステリー発作』を発症してしまう、これを理解するにはそのうち精神科医の助けが必要になるんじゃないか」と述べている。)他には、アカデミアに存在する保守的な言説を締め出すためのなんらかの陰謀だ、と決めてかかっている人もいる(この陰謀論は、メディアにも相当に広がってしまっているようだ)。

オーケー、こういった言説のいくつかは単なる「ためにする議論」に過ぎない。インテリがハーパーを心底嫌う理由をまったく理解していない人や、もっと本気で理解したい人には、最近Policy Options誌に掲載された以下の論文を読むことを強くお勧めする。〔この論文で〕アンソニー・ドゥーブとシェリル・ウェブスターは、「刑事司法政策におけるハーパー革命」と呼ばれるものを扱っている。論文内で、著者2人は、「ためにする議論」と「ヒステリー」の両方を避けようと必死だ。しかしながら、ドゥーブとウェブスターは独自の計測手法で、ハーパー政権が刑事司法分類において行ってきたものーーそして〔その分類に基づいて〕行ってきた多くーーは理路整然とした政策目標に紐付いた合理性に一切基づいていない、と主張しようとしている。ドゥーブとウェブスターは、人が合理的不一致の領域として考えるであろうものを概略することから始めているーーその領域内では、右派は「犯罪に厳しい」立ち位置に、そして「犯罪の根本原因」には相当に寛大なポジションにいる。言い換えれば、ドゥーブとウェブスターは、「僕たちが正しいと考える見解は○○です」と言及することを出発点にしていない。彼らは、「この問題を真面目に受け止め、エビデンスをきちんと研究する人達の立ち位置の範囲は○○~●●なんです」と言及している。その上で彼らは、ハーパー政権がどのような立ち位置に立ってきて、どのような政策を導入してきたか、そしてその立ち位置と政策は合理的不一致の余地からして一貫性に欠けているだけでなく、目的の観点からも極めて不可解であることを示そうとしている。

ドゥーブとウェブスターの議論内には底意に絶望があることを見て取ることができるので、本質性と「メタ」レベルの両面で興味深い論説だと私は思う。彼らが政府に関して非常にフラストレーションを感じているーーこのことで、彼らは少し常軌を逸しつつあるーーのは、政府からなんらかの知的な牽引力〔知性に基づいた一貫行動〕を得られないからだ。これらの問題に取り組む学者が気にしていること(例えば、異なる政策の相対的な有効性)に、政府は一切関心を払っていないので、何を言っても無駄になっている。法学の教授がはるばるオタワまで出向いて、C-51法案2 に懸念を表明したら、保守党の委員会メンバーにぽかんと見つめられ、「すると君はテロリストに街を闊歩させるべきだと言うのかね」と言われるようなものだ。この件には一体どこから着手すれば良いんだ? と。

スティーブン・マーシュがニューヨークタイムズ紙に「カナダ的精神は閉ざされつつある」と不満の意見記事を掲載したことで、この〔インテリの〕一触即発な不満が今週は一斉沸騰することになった。当然のことながら、誰もがエキサイトし、自己防衛過剰になった。何しろ、かのニューヨークタイムズ紙だったからだ。まずデビッド・フラム3 が口火を切って、アトランティック紙に「カナダ的精神とやらは妄想」との脊髄反射した記事を載せた。フラムの記事は、ハーパーを全面的に擁護し、マーシュに批判的であるかのように見えた。しかしながら、特に「ハーパーの実績には多くの批判すべきものがある」とフラムが渋々認めた時から、フラムの意見は中途半端に意気消沈し始めることになった。言い換えると、フラムは、「ハーパー政権には何の問題もないわけじゃないが、マーシュは自分の記事で政権の問題を具体的に何も述べていないじゃないか」とこの騒動をメタ見地から混ぜっ返したのだが、フラムはカナダ国外にずっといるので、この人は騒動について本当に何も分かっていないんだな、とオチてしまったわけである。

対照的に、ヤコブスキのコラムは最初はフラムのコラムのコピー(このコラムも、マーシュへの返答であり、ヤコブスキはマーシュを単なる「興奮しやすい批判者」と呼んでいる)であるかのように見えたのだが、実際にはもっと踏み込んでおり、(「自由党も同じくらい酷かったじゃないか!」とか「ハーパーは従来からの動向を単に悪化させだけだ!」といった大量の言葉を伴って)ハーパー政権の実績を中途半端に擁護している。

ヤコブスキによると、「メディアやアカデミアのエリート達は、自身が所属している進歩的なニッチ集団より、保守党の支持者を進化的に劣った種であると見なしている。なのでエリート達は自身の影響力が喪失したことで我を失っている」ことに問題がある、とのことだ。これはなんらかの真実があるかもしれないーー結局のところインテリ達も、あらゆる人と同じように階級的関心を持っているからだ。そういうわけで、この問題に関心がある人は、上でリンクを貼ったドゥーブとウェブスターの論文を読むことを勧める。読みながら自問自答してほしい、ドゥーブとウェブスターが、自己影響力の喪失を非常に気にしている人間のように見えるかどうかを。

フラムとヤコブスキの双方の主張を突き詰めれば、インテリは党派性と階級的関心を混合してハーパーに敵意を感じている、というものだ。私はこれが正鵠を射ているとは思わない。グローブ&メール紙の該当記事では、私も「ハーパー発狂症候群」を患っていると批判されている。認めざるをえないが、ハーパーの言ってることや、やってることの多くは、本当に私を発狂させる。ただ、私は、影響力を失っているので錯乱に至っているとは感じてはいない(なぜなら、私はどの政党にも影響力を持ったことは一切ないからだ)。発狂してしまうのは、政権のやっていることの非常に多くが、私にとっては意味不明だからだ。

一例を上げてみよう。「気候変動への行動が緩慢」であることでハーパーを嫌う人がいるかもしれない、とフラムは示唆している。「行動が緩慢」というフレーズは、この件でカナダが対処してきた問題の重要性を正確に捉えていないと私は思う。ハーパーはそもそも行動していないばかりか、行動している州を批判し攻撃しているからだ。そして、ハーパーは気候変動への取り組みが被った様々な挫折を祝福してきた。「私は地球温暖化を支持している」とマーク・ステインはよくジョークを言っていたが、実際ハーパーは地球温暖化を支持する人間のように行動している。例えば、最も奇っ怪な場面の一つが、「雇用を奪う炭素税」を廃止したオーストラリアの首相トニー・アボットを、ハーパーがわざわざ褒め称えた場面だ。

さて、これを分析してみよう。オーストラリアの首相が炭素税を廃止したことを、なぜカナダの首相が喜ばないといけないのだろう? つまり、もし炭素税が失業を生み出すと仮定するなら(経済学を学んだ人は誰もそうは思わないが、とりあえずひとまず脇に置いておく)、カナダは炭素税を導入すべきでない、という理由は理解できる。〔炭素税導入の〕コストはここカナダが負担することになり、一方で炭素排出量が減少したことの便益のほとんどは他国が享受するからだ。逆に、もしオーストラリアが炭素税を導入すれば、この論理に従って、オーストラリアはコストを負担する一方で、我が国や他国は便益を得ることになる。よって、我が国は何か問題を被るのだろうか?

これは、ハーパーの考えを理解しようとすれば、少なからず発狂してしまうことの良い例だ。ハーパーが地球温暖化の問題を解決するために、カナダは他国と協調すべきだとは考えていないことは、ハッキリ表明されている。これは道徳的に批判されるべきだが、カナダは化石燃料資源を持っていることで、フリーライドするインセンティブがあることを考えればそんなに驚くべきことではないかもしれない。しかし、ハーパーは、理路整然としたフリーライダーのポジションに立っているわけではないのだーーもしそうなら、彼は、カナダが何もしない間に他国が炭素削減に従事することを望むだろう。すると、ハーパーは何を考えているのだろう? 炭素価格付けは社会主義者の陰謀であり、地球温暖化より危険だ、と考えているのだろうか?それとも、ハーパーは何の見解も保持しておらず、アルバータ州の石油産業への利益誘導をやっているだけなのか? それとも、フォーカス・グループ4 でテストされた最適文章を、理論整然とした見解に纏めようと意図しないまま、口にしているだけが全てなのだろうか?

私はこのエントリで政治的な点数を得ようとしているのではない。ハーパーが私のような人間を発狂させる理由を明らかにするために、私の思考過程を読者にリハーサルしている。私はインテリとして、事象には把握して分析できる何らかの意思があって欲しいのだ。様々な種類の保守派が存在するが、彼らの意思は、私には完全に理解できる。リバタリアンは理解可能だ。キリスト教の社会的保守派は理解可能だ。右派のエコノミストは理解可能だ。デヴィット・フラムでさえも理解可能だ。私はこれらの人々に同意はできないかもしれないが、どういった動機から何を考えているのかは完全に理解することができる。ところが、ハーパー政権はまったく理解できない。それでいて、全てを意図的に嘘をついている策略だと見なしてしまうのはためらわれるーーたとえそれが理にかなっているとしても。なので、私は以下のキャラのように感じてバグってしまう。

  1. 訳注:第28代カナダ首相(在任2006~2015年)。極右政党「カナダ改革党」を出自に持ち、後に2004年のカナダ保守党に結党に関与し党首に就任。2006年の総選挙後にカナダ首相に就任。 []
  2. 訳注:2015年にハーパー政権下で制定された「テロ対策法」。2014年のケベックでのテロ事件を受けて制定された。テロ対策として、予備拘禁等、基本的人権を規制する対策が含まれていたことから、リベラルな見地から様々な批判が寄せられてることになった。 []
  3. 訳注:ネオコンを自称しているカナダ出身のアメリカで活躍している法律家。ジョージ・W・ブッシュ政権でスピーチライターを努めており、北米では保守の論客として非常に有名。本サイトでインタビューの翻訳を読むことが可能。 []
  4. 訳注:企業や官庁が意見表明する前に、発信先の想定市場・有権者等反応を事前に調査する活動 []

Comments

  1. ”単なる「ためする議論」””「雇用を奪う単素税」” 策略だと見なしてしまうためらわれる>しまう(のは)ためらわれる”「発見」を行ったことをわかる>ことがわかる”統治するする方法を発見”

  2. WARE_bluefield says:

    ご指摘ありがとうございます。非常に助かりました。
    また何かあると指摘してもらえると幸いです。

  3. お世話になります。

    >これは、ハーパーが考えているを理解しようとすれば
    「ハーパーが考えている(こと)を」ではありませんか?

    >ハーパーが私のような人間を発狂にさせる理由
    「発狂させる理由」

    • WARE_bluefield says:

      ご指摘ありがとうございます。訂正しました。非常に助かりました。また何かあれば、ご指摘いたいだけると幸いです。

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