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スコット・サムナー「日本では人生はより良いものになっているだろうか」

Scott Sumner ”Japan: Is life getting better?TheMoneyIllusion, August 30, 2018


今回は日本を題材にしたが,これはほとんどの先進国に当てはまるんじゃないかと思う。

タイトルの問いに対する答えとしては,「人生1 」をどう定義するか次第だ。つまり,

定義A:一般的な人生の総効用
定義B:一般的な年における人々の効用のフロー

経済学者は大抵定義Aに基づいて考えるけれども,広く使われている効用主義的な枠組みを厳密に適用するのであれば,定義Bのほうが適当であるという主張もできるだろう。

次の写真は1950年代の日本の一般的な情景だが,最近の写真と並べてみてみると2050年代の日本がどうなっているだろうかを偲ばせるものとなっている。この二つの写真のどちらのほうが「生活水準」が高いだろうか。

これはオレンジとリンゴを比べるようなものだとか,人生なんて若い時の方が楽しいに決まっているとか思うかもしれない。確かにそうだ。ただ,この二つの写真がさっきの定義Bの人生にうまくはまるとも言うこともできる。いずれの写真も,とある日,あるいはとある年での日本における一般的な日常の出来事を示している。

1960年,2020年,2050年における年齢ごとの日本の人口分布を見てほしい。

1950年代の日本の生活はほとんどが若い人のそれだったことが見て取れるだろう。2050年代には,日本の生活はほとんどが老人のそれになる。先の記事で私は,62歳である現在の自分が31歳のときの健康と元気を取り戻せるなら,いまよりもずっと低い所得でも喜んで受け入れると書いた。

はっきりさせておくが,1950年代以降の日本の驚異的な経済発展が何の意味もないなんてニヒリストみたいな主張をしているわけじゃない。実際,物質的な意味での生活水準は圧倒的に高くなっている。日本人はすごくお金持ちになっただけじゃなく,すごく長生きもするようになった。出生率を押し上げる出生主義的な政策を主張したいわけでもない。政府の介入を必要とする明確な市場の失敗は見て取れない。とはいえ,出生主義的な政策が有益であるという可能性を否定もしていない。ただ,子供を持つかどうかという人々の個人的な決定への介入をよしとする説得的な主張をこれまで全く見たことがないだけだ。というわけで今回の記事では,こうあるべきみたいな指針の類は全くなく,生活が過去よりも「より良くなる」というのが何を意味するかをみんなに考えてもらおうというだけのものだ。

もちろんこうしたことは,私が「人生」について定義Bのほうを好ましいと思っているから言えることだ。ほとんどの人はおそらく定義Aのように考えるからこうした向きに煩わされることがなく,平均的な一生涯が以前よりも良ければそれで良しということだろう。私の「フローアプローチ」は,自己の同一性というものを私が否定していることと部分的に整合している。私は人生とは経験の連続であると考えていて,今こうしてある「私」は8歳の時の私とは全くの別人だと思っている。1950年代の日本には大量の「若い人生」のフローがあった。

こうしたこと全部について私は不可知論者であるので,本当に若いほど幸せなのかということすら確信がない。幸福度調査がそうしたことを支持しているとも必ずしも言えない。とはいえ,直感的にはほとんどの人は若くなりたいと考えている。それはより若く見えるための美容製品の大規模産業を考えればわかるはずだ。「健康クラブ」でもいい。ただ,若さに対する賛美はバラ色の色眼鏡を通して見ているに過ぎないのかもしれない。

ところで,1960年の日本の人口ピラミッドは人類史のほとんどを通して見られたものと大体同じだ。前人未到なのはそれ以降の人口分布だ。若さが幸福と等価とすれば,マリやニジェールでの生活と日本のそれをどう比べたものだろうか。貧しい国では大抵の場合出生率が高く,国が豊かになるにつれて出生率はさがるため,日本の出生率が経済成長によって上昇することはない。現代の東アジアの家族は2人以上の子供を「賄う金がない」のだと喧伝されているが,シンガポールは日本の2倍豊かである一方で出生率は日本よりもさらに低い。まさしくCrazy rich Asians2 だ。

追記:左の写真の少女はiPhoneを持っていない。私は当時の生活がいかに悲しむべきものだったか覚えている程度には年を食っている。今の若い人たちには分からないだろうが。

  1. 訳注:この記事では訳出にあたって「life」という単語を文脈に応じて「人生」「生活」「生涯」と訳しているが,原文はlifeという同じ単語であることに留意されたい。 []
  2. 訳注:シンガポールの富豪の生活をテーマにした2018年公開の映画及びその原作小説のタイトル。アジア人が頭おかしいということを意図している訳ではない。 []

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