Stephanie Kelton, “MMT≠QE”, The Lens, Aug 26, 2021
MMTは、政府のために中央銀行に「お金を刷らせる」という話ではないし、一度もそんな話はしていない。
「ストーニー・ブルック(大学)のステファニー・ケルトンは、世界を変えました。現代貨幣理論(MMT)を世に出したのです。しかも私たちは今ある種のMMTの実験をしているところですが、金融メディアはこのことについて十分に報道していません。誰もが心なしか、この理論がなくなってしまえばいいと願っているからです。これほどの影響を与えているものに対して不公平な扱いです。」
議論の続きでは、MMTの「実験」には、パンデミックに対抗するための大規模な財政支援(と多額の財政赤字)だけではなく(これについては私は同意する)、支出を「可能」にし続けるための中央銀行による債券購入(QE)という形で金融支援も含まれていることを二人とも示唆している。
マクロ経済学の領域で、特に政府財政の仕組みや政府支出の限界について、議論の条件をシフトさせるのに貢献したという称讃は喜んで受け入れるが、MMTを「世に出した」ことで称讃されるべきなのはウォーレン・モズラーだ(もっとも、MMTという呼び名は何年も後に付けられたものだが)。
私がMMTの核となる考え方の多くに初めて出会ったのは、25年ほど前にモズラーの『Soft Currency Economics〔未邦訳〕』を読んだときだった。その後、モズラーの初期の洞察に基づいて、私を含めた少数の経済学者たちが研究に取り組んできた。私にとって、モズラーの本の中で最も魅力的な主張の一つは、政府の課税、借入、支出の順序に関するものだった。
ほとんどの人と同じく、私も課税と借入は、政府が支出を賄うのに必要な資金を手に入れるための2つの競合する手段だという考えを培ってきた。「課税と借入が先、支出が後」だと。
「(課税+借入)→支出」
このモデルは、すべての主流派マクロ経済学の教科書で受け入れられていて、そこで学生は政府の予算制約の概念を学ぶ。家計とほぼ同じように、政府は財政上の制約があるから、支払いをする前に資金を確保する方法を見つける必要があると学生に教えている。「お金を刷る」という三つ目の資金調達の方法がよく言及されるが、これは本質的にインフレを引き起こすものだとすぐに却下され、学生は政府が支出するには税収か借金に頼る必要があると考えてしまう。
「政府はお金を支出し、その後に課税しない分を借り入れる。なぜなら、〔課税されない分の〕赤字の支出額が借入で相殺されないと、フェデラル・ファンド(FF)レート〔銀行間の貸出金利の一種〕 [1] … Continue reading が下がってしまうからだ。」
ここで私が言っているのは、MMTは議論の一番初めから、政府財政の実際の仕組みを説明する(より優れた)記述の枠組みを提供してきたということだ。MMTは、「お金を刷れ」とか「中央銀行に大規模な資産購入(LSAPs)を勧めろ」といった提案は一度もしていない。実際、MMTの学者たちは、「量的緩和(QE)」に最初から懐疑的だった。
私たち〔家計や企業〕と違って、議会〔政府〕は、支出を増やせるかどうかを判断するのに、銀行口座の残高を確認する必要は一切ない。通貨の発行者である議会は、お金が足りなくなることを心配する必要はない。自国通貨で手に入るもの、売られているものなら何でも買うことができる。道路や橋、軍備、病院や学校などへの支出も含まれるだろう。支出法案を通すための票を手に入れるのは難しいだろうが、お金を手に入れるのは決して問題ではない。議会はただお金を作るだけだ。
仕組みはこうだ。議会と大統領が支出を増やすことに合意すると、政府の銀行であるFRB(連邦準備銀行)がFRB以下の金融システム〔主として他の銀行〕と協力して、私たちの口座にお金を振り込む。すべては電子的に行われるから、物理的にお金を「刷る」ことはない。今年の初めに連邦政府から1,400ドルの小切手を受け取った人や、人件費やその他の経費を賄うためにお金を受け取った会社は、私たちの経済を支えるために新たに創造されたデジタル・ドル [2] … Continue reading を手にしたことになる。このプロセスには納税者は関わっていない。パソコンのキーボード一つですべてが行われたのだ。