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エグザビア・ヴァイヴス 「スーパースター企業の登場:マクロ経済学において寡占を真剣に考える」(2021年1月20日)

(訳者注:コメントでの指摘を受けて、タイポを修正しました。)

Xavier Vives 2021年1月20日

Rise of the Superstar firms: Taking oligopoly seriously in macroeconomics

ビッグテック、そしてその他の「スーパースター企業」の支配によって、市場支配力が研究の分野においてもだけでなく、政治家達の問題としても戻ってきた。しかし、寡占市場はマクロ経済学や貿易モデルに導入されてはいるものの、それは主に産業分野の大きな「連続体」の中において、一企業が自身の分野においては市場支配力を持つが経済全体には影響を及ぼさないという設定によってである。このコラムは寡占がマクロ経済学のツールボックスに完全に組み込まれて然るべき時が来ていることを主張する。

市場支配力が研究の分野においてだけでなく、政治家達の問題としても戻ってきた。これは様々な市場におけるシェアの集中の高まり、利益マージンの上昇、労働分配率の低下、そして巨大テクノロジープラットフォーム、いわゆる「ビッグテック」と呼ばれるような「スーパースター企業」による支配といった要因によるものだ(Autor et al. 2020, De Loecker et al. 2020)。更なる要因としては、社会におけるビッグテックの高まり続ける影響力がある。これが規制当局において懸念をうんでいる。ヨーロッパ、合衆国、そして中国におけるビッグテックへの反独占禁止訴訟の増加はこの問題の広がりを示す証拠であるだろう。

寡占理論は既に確立されているという事実にも関わらず(Vives 1999)、マクロ経済学の分析は伝統的に、一企業はある程度の市場支配力を持つがその市場において小さな存在であるという独占的競争モデルを使っている。そうなっているのは、結果がきちんと分かるからという理由によってである。マクロ経済学の分析への寡占理論の統合の初期の支持者にはミカウ・カレツキ(1938)がいる。

より近年においては、寡占市場はマクロ経済学と貿易のモデルに取り込まれるようになってきている。しかし主に様々な分野にから非常に大きな「連続体」の中で一企業がその分野においては市場支配力を持つが経済全体には影響を及ぼさないという設定によってである(Neary 2003、Atkeson and Burnstein 2008)1。現代の経済においてこれは正当化できるものではない。極端な例を持ち出すなら、このアプローチはサムソンやヒュンダイが韓国経済においてなんの影響力も持たないという事を意味する。同じことは、合衆国におけるグーグル/アルファベット(訳者注:アルファベットはグーグルの親会社である持株会社)、アップル、フェイスブック、アマゾン、そしてマイクロソフト(いわゆる”GAFAM”)についても言えるだろう。例えば、最近、ダロン・アセモグル(2020)によってなされた主張、「経済成長と消費者厚生についてのビッグテックによる最も有害な影響は『反競争的そして排他的行動』からよりも、技術変化の方向決定において彼らが果たすより広い役割についての方が大きい」を考えてみたいと思うなら、我々はこういった企業が経済に影響を与える事が出来るモデルがどうしても必要になる。

そうすると、市場シェアの集中の進展を利益マージン、企業利益、そして労働分配率の進展についての証拠とどうやって整合性をもたせるかという問題が登場してくる。これはそんなに簡単なものではない。というのは対象となる反競争的ないくつかの市場における集中の上昇は穏やかなものだったりするからだ(Shapiro 2018)。独占的競争モデルにおいては、利益マージンの上昇の説明は製品の差別化の低下であるという事になる事を言っておきたい。しかし、比較的短いタイムスパンで(訳注:上記の事象が起こっていることを説明できるだけの)製品差別化の大きな変化が起こっているなどありそうにはない。

1970年代における寡占の一般均衡モデルへの導入は技術的な問題によりその応用に失敗した。たとえば、Gabszewicz and Vial (1972)は、企業の利益最大化を仮定しつつ一般均衡における寡占の問題に取り組む為に「クールノー-ワルラス均衡」コンセプトを持ち出している。しかし、そういった仮定には問題がある。そうすると均衡が「ニュメレール(価値尺度財)」の選択に依存することになるからで、非常に困った問題となる。実のところ、企業がプライステーカー(価格受容者)でない場合、企業には単純な目標はない。企業が財および要素価格に影響を及ぼせる場合、その所有者構造が問題になってくるからだ。先導的なモデルは、古典であるDixit and Stiglitz(1977)、あるいはAtkenson and Burstein (2008)、Neary (2003)、そしてBerger et al. (2019)における寡占モデルにおいても、すべての企業について市場ポートフォリオを所有している代表的家計を仮定している。そして、企業は利益最大化をはかる事が仮定されている。どの株式所有者も実のところそんな事を望まないだろうにも関わらずに。その結果、こういうモデルでは仮定されている所有構造と利益最大化の仮定が上手く噛み合わない事になる。

我々の新しい研究(Azar and Vives近々掲載予定)で、共著者と私はクールノー-ワルラス均衡において企業の経営陣が株式所有者達の効用の加重平均の最大化をはかるという仮定((Rotenberg (1984)やSalop and O’Brien (2000)と同様のもの。))の下で結果がきちんと出る一般均衡モデルを作った。企業の目的関数におけるウェイトは所有者それぞれの影響力によって与えられている。このアプローチは、間接効用が相対価格にだけ依存している事で「ニュメレール問題」を避ける事ができる。さらにこのアプローチにより、大きなファンドが経済全体の中でというだけでなく同じ産業内において複数の企業の所有権を持つ場合の、企業の変化する所有構造を取り扱う事もできるようになる。実際、機関投資家の増加によって、大規模な分散資産のマネージャー達が、特に合衆国において、企業の株式の大きな比率を占めるようになってきている。機関投資家の増加による共通所有というパターンの広がりによって、増大する市場支配力とマークアップについての懸念だけでなく(Azar et al. 2018, Banal Estañol et al. 2020)、さらに反競争政策と共通所有の規制への要望も高まってきている(Elhauge 2016, Posner et al. 近々掲載予定)。

私たちのモデルでは、企業は経済の中で大きい存在であり、価格や賃金に影響を与えるものとなっている。例えば、雇用についての意思決定を行う際、買い手独占の力を持つ企業は、雇用の増加は賃金の上昇によって、その企業の利益だけでなく、共通所有の下でその企業の株主のポートフォリオ内にある他の企業の利益まで減少させる事を認識する。想定されている所有権構造においては、投資家が産業内および産業間の両方に沿ってその投資を分散化することができるようになっている。この我々のモデルによって、経済を動かす主要なパラメータの特定ができた:産業間での代替の弾力性、労働供給の弾力性、それぞれの産業ごとの市場シェアの集中、そして投資家の所有構造(つまり分散投資の程度)だ。

我々は、規模についての収穫逓増がない一部門経済においては、企業数の減少によるのであれ、または投資の多様化(共通所有権)の増加によって生じ、修正ハーフィンダール・ハーシュマン指数によって測定さる実効的な市場集中の上昇は、雇用、生産、実質賃金、そして労働分配率を低下させることで経済を抑圧することを発見した。これは、ラリー・サマーズが推測した、市場独占の増大と潜在的な長期的停滞(secular stagnation)との間のリンクを提供するものだ。さらに、企業が規模に関する収穫一定である様々な技術を持っている場合、共通所有の増加はより高い市場集中へつながる事になる。これはより効率的な企業がより効率的ではない企業の犠牲のもとで市場シェアを高めるからだ。極端な場合、共通所有の増加は効率の悪い企業が市場から退出していくことにつながる。したがって、Autorら(2020)が述べているような市場の集中の増加と、小規模で低いマークアップの企業から大規模で「スーパースター」である高いマークアップの企業へと市場シェアが移っていくというパターンは、技術的要因によってだけでなく、機関投資や共通所有の増加によっても部分的に説明されうるものであることがわかる。

多部門経済において、共通所有の下では考慮しなければならない効果がより多くある。ある産業のある企業の経営陣がその雇用と生産を少しばかり増加させるかどうかを決定する時、彼らは3つの効果を考慮する必要がある:(i)生産の増加はその企業の製品の相対価格を低下させる、(ii)これは実質賃金を上昇させる、(iii)他の産業の製品の相対的な価格を上昇させる(全体的な消費が増加する為だ)。最初の2つの効果は反競争的でこの企業の積極性を削ぐことになるが、3つ目は競争促進的である。この3つ目の効果、これは分野間での「金銭的外部性」であるが、これはこの企業と他の産業の企業が共通所有の下にあるなら内部化される事になる。この場合、労働の限界生産と比べての実質賃金のマークダウンは、労働市場と製品市場における修正ハーフィンダール-ハーシュマン指数の値と共に増加し、(共通所有による競争相手の利益の内在化の程度で加重された)金銭的外部性と共に減少する。その結果は、産業内での分散投資が高まると共通所有は常に反競争的な効果を持つが、経済全体での分散投資が高まると共通所有は競争促進的な効果を持ちうるというものだ。後者は、労働力供給の弾力性が製品間の代替の弾力性に対して高い場合に起こる。この場合、製品市場における市場独占力のレベルについての利益の内在化の相対的な影響は労働市場においてよりも大きい。

我々の新しいモデルは主に手法についてのものであるが、製品市場と労働市場における集中の進展、および株式公開企業においての共通所有の増加による他企業の利益の内在化の推定に基づいて、合衆国における労働分配率の低下をシミュレートすることに成功している。我々は、Azar and Vives (2019a)のモデルを、貯蓄と資本を含むように拡張し、資本分配率の低下も近似した。我々は、共通所有が合衆国経済におけるマークアップとマークダウンの進展と労働分配率と資本分配率の低下の原因であると主張するつもりはない。しかし、これはそれらの進展と整合的であり、それらを説明するのに役立つ可能性があることは確かである。

得られた結果は、消費者余剰が王様であるような競争政策の伝統的な部分均衡分析を超える必要性を示しており、競争政策に影響を与えるものとなっている。一部門経済においては、競争政策は市場集中(規模における収穫逓増でない場合)のレベルを低下させることで、そして副次的なツールとして分散投資(共通所有)のレベルも低下させることで(あるいこれだけでも)、雇用を促進し、実質賃金を増加させるという結果につながる。規模に関する収穫逓増がないならば、市場の集中度を低下させることは有効なアプローチであり続ける。経済に複数のセクターがある場合、雇用を最大化する為には、産業内での分散投資は制限されるべきであるが、財市場における代替の弾力性が労働供給の弾力性に比べて低い場合には、経済全体での分散投資が最適となりえる。技術波及効果の内部化や生産性の向上といった分散投資(共通所有)のさらなる利点も考慮されるべきだろう(López and Vives 2019)。

まとめると、寡占はマクロ経済学のツールボックスに完全に統合されるべき時が来ているという事になる。道具は既にそこにあり、それを利用する時が来ているのだ。

参照文献

Acemoglu, D (2020), “Antitrust Alone Won’t Fix the Innovation Problem”, Project Syndicate, October.

Atkeson, A and A Burstein (2008), “Pricing-to-market, trade costs, and international relative prices,” American Economic Review 98(5): 1998–2031.

Autor, D, D Dorn, L F Katz, C Patterson and J van Reenen (2020), “The fall of the labor share and the rise of superstar firms,” The Quarterly Journal of Economics 135(2): 645–709.

Azar, J, M C Schmalz and I Tecu (2018), “Anti-competitive effects of common ownership,” The Journal of Finance 73(4): 1513–1565. 

Azar, J and X Vives (forthcoming), “General Equilibrium Oligopoly and Ownership Structure”, Econometrica

Azar, J and X Vives (2019a), “Common ownership and the secular stagnation hypothesis”, AEA Papers and Proceedings 109: 322–326. 

Banal-Estañol, J Seldeslachts and X Vives (2020), “Diversification, Common Ownership, and Strategic Incentives”, AEA Papers and Proceedings 110: 561-564.

Berger, D, K Herkenhoff and S Mongey (2019), “Labor Market Power”, NBER working paper 25719.

De Loecker, J, J Eeckhout and G Unger (2020), “The rise of market power and the macroeconomic implications”, The Quarterly Journal of Economics 135(2): 561–644.

Dixit, A and J E Stiglitz (1977), “Monopolistic competition and optimum product diversity”, The American Economic Review 67(3): 297–308.

Elhauge, E R (2016), “Horizontal shareholding”, Harvard Law Review 109(5).

Ferrari, A and F Queirós (2019), “Low Competition Traps”, mimeo.

Gabszewicz, J J and J-P Vial (1972), “Oligopoly “a la Cournot” in a general equilibrium analysis”, Journal of Economic Theory 4(3): 381–400.

López, A L and X Vives (2019), “Overlapping ownership, R&D spillovers, and antitrust policy”, Journal of Political Economy 127(5): 2394–2437.

Kalecki, M(1938), “The determinants of distribution of the national income”, Econometrica 6: 97–112.

Neary, J P (2003), “Globalization and market structure”, Journal of the European Economic Association 1(2-3): 245–271. 

Posner, E A, F M Scott Morton and E G Weyl (forthcoming), title pending.

Rotemberg, J (1984), “Financial transaction costs and industrial performance”, MIT Sloan, working paper.

O’Brien, D P and S C Salop (2000), “Competitive effects of partial ownership: financial interest and corporate control”, Antitrust Law Journal 67(2): 559–614.

Shapiro, C (2018), “Antitrust in a time of populism”, International Journal of Industrial Organization 61: 714–748.

Vives, X (1999), Oligopoly pricing: old ideas and new tools, Cambridge, MA: MIT press.

Wang, O and I Werning (2020), “Dynamic oligopoly and price stickiness”, NBER working paper 27536.

  1. 労働市場モデルについてはBerger et al. (2019)を、またFerrari and Queirós (2020) とWang and Werning (2020)のダイナミックモデルも参照されたい。 []

Comments

  1. フォーム、いわゆる「ビックテック」と呼ばれるような「 >ビッグ
    規模についての集会逓増がない一部門 >収穫
    経済に有効なアプローチである続ける。>あり続け

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