タイラー・コーエン 「『世界の技術を支配するベル研究所の興亡』 ~技術革新の源泉としての戦争~」(2012年3月19日)/「『War:What is it good for?』 ~技術進歩および平和の源泉としての戦争~」(2014年6月28日)

●Tyler Cowen, “*The Idea Factory*”(Marginal Revolution, March 19, 2012)


今回取り上げるのは、『The Idea Factory』(邦訳『世界の技術を支配するベル研究所の興亡』)。大好きな一冊だ。本を開いて、そのまま一気に最後まで読み通してしまった。著者は、ジョン・ガートナー(Jon Gertner)。副題は、「ベル研究所とアメリカにおけるイノベーションの黄金時代」(“Bell Labs and the Great Age of American Innovation”)。ほんの少しだけ中身を引用しておこう [1] 訳注;以下は拙訳

「戦争に勝てたのは、レーダーのおかげ。原爆は、戦争を終わらせただけに過ぎない」とはレーダーの研究に携わっていた科学者たちの間でしばしば交わされた冗談だが、あながちピント外れでもない。軍事用レーダーの開発プロジェクトは、(原爆の開発が使命の)マンハッタン計画に引けを取らぬほどの難題であることがやがて判明するに至ったわけだが、両者の間にはいくつか違いもある。まず何よりも、米政府が投じた予算の額が違う。原爆の開発には20億ドルの予算が投じられたが、軍事用レーダーの開発に投じられた予算の額はそれを大きく上回っている。軍事用レーダーの開発には、推定で合計30億ドルの予算が投じられたと見積もられているのだ。さらには、レーダーは汎用性が高くて、複数の装置が合体しているようなところがある。似たような技術が応用されていながら、地上で使えるタイプもあれば、水中で使えるタイプもあれば、空中で使えるタイプもある。似たような技術を応用して、数多くの異なるタイプのレーダー探知機が開発されたのだ。

戦争は数多くのイノベーション(技術革新)を刺激する可能性を秘めているというのが、本書が説く教訓の一つだ。ガートナー本人がニューヨーク・タイムズ紙に寄稿しているこちらの記事で、本書のテーマが簡潔に述べられている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙でも、本書の書評が掲載されている。こちらがそれ。科学史/技術史/イノベーション史に興味があるようなら、是非とも買って目を通すべき一冊だ。

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●Tyler Cowen, “The FT summer book reading list”(Marginal Revolution, June 28, 2014)


War: What is it Good for? The Role of Conflict in Civilisation, from Primates to Robots』(「戦争:戦争は何の役に立つ? 文明の歴史における闘争の役割 ~霊長類からロボットへ~」) by イアン・モリス(Ian Morris)

「戦争は、技術進歩の源泉であるだけではなく、平和の源泉でもある」と説く注目すべき一冊。著者は、歴史家のイアン・モリス。戦争は、強力で腕の立つ(高い機能を備えた)国家(政府)の誕生を後押しすることで、そこに暮らす人々に平和の恵みを施してくれた(時には平和を押し付けた)というのだ。妙に説得力のある主張だ。しかしながら、核時代の現代にあっては、列強の国々はこれまでとは違う工夫を編み出す必要があるだろう。

フィナンシャル・タイムズ紙がお薦めする「この夏に読みたい本」のリスト(一覧)はこちら。モリス本の他にも、第一次世界大戦後の世界情勢がテーマのアダム・トゥーズ(Adam Tooze)の新作も薦められている。トゥーズ本はついさっき読み終えたばかりだが、私好みの一冊。読みながら、「まるでサムナーみたいな切り口の本だなあ」と感じたものだ。アダム・ミンター(Adam Minter)の『Junkyard Planet』(「廃品まみれの惑星」)もリストに名を連ねているが、これもまた素晴らしい出来の一冊だ。

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1 訳注;以下は拙訳
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