●Tyler Cowen, “Economists who support the arts”(Marginal Revolution, August 29, 2012)
拝啓 タイラー・コーエン殿(ちなみに、Facebookでは「友達」同士ということになっています)
新しく立ち上げたばかりのブログに投稿する予定のエントリーのために調べ物をしている最中です。そのエントリーでは、アートの支援に際立ったかたちで力を注いだ経済学者のエピソードを取り上げようと思っています。今のところは4つの例に思い当たってます。一つ目の例は、故ノートン・ダッジ(Norton T. Dodge)教授のケースです。彼は、ロシアの前衛芸術(ロシア・アヴァンギャルド)の支援に力を入れていました。二つの目の例は、故アレクサンダー・ガーシェンクロン(Alexander Gershenkron)のケースです。彼は、ウラジミール・ナボコフによる『エヴゲーニイ・オネーギン』(プーシキンの小説)の滅茶苦茶な英訳に対して大変優れた批評を行っています。三つ目の例は、カリフォルニア大学バークレー校に籍を置くグレゴリー・グロスマン(Gregory Grossman)教授のケースです。彼は、ポーランドの詩人であるアレクサンドル・ヴァット(Aleksander Wat)を支援しており、バークレー校にも呼び寄せています。そして、ヴァットがバークレー校に滞在している最中にあの傑作の『My Century』を仕上げる手助けをしています。最後の例は、ケインズです。ケインズは、オペラやバレエ、ダンスの支援に肩入れしていたことは有名です。他に何か適当な例を御存知でしょうか? こういうテーマを扱った論文なり書籍なりに心当たりはないでしょうか?
敬具
Julian Berengaut
リチャード・ケイブス(Richard Caves)はピカソの絵を蒐集しているし、ウィリアム・ランデス(William Landes)はチャールズ・バーチフィールドの作品を集めている。ウィリアム・ボーモル(William Baumol)は木の彫刻をたくさん集めていたはずだ。今挙げた三人が、今も生存している同時代のアーティストの「パトロン」1もしているかどうかまではわからない。アサール・リンドベック(Assar Lindbeck)は、本人自身が絵描きとしても活躍している。ロバート・マンデル(Robert Mundell)も同じくそうだ。スペンサー・マッカラム(Spencer MacCallum)(経済学者ではないが、経済問題について意見を数多く発表している一人)は、メキシコ産の陶器のパトロンかつ宣伝役として重要な一人だ。かくいう私もメキシコアートのパトロンの一人だが、そのあたりの詳しい話は、「メキシコアートの経済学」をテーマとした拙著の中で論じているところだ。
ロデリック・ディーン(Roderick Deane)はニュージーランド在住のビジネスマンであり経済学者でもあるが、同国(ニュージーランド)のアーティストの支援活動に力を入れている。経済学者のマリー=ジョゼ・クラヴィス(Marie-Josée Kravis)は主にカナダのアーティストの支援活動に力を入れている。ジョージズ・メニル(Georges Menil)はパリ在住の経済学者だが、アートの蒐集家として名高いあのメニル家の一員だ。ウェイン・コックス(Wayne Cox)は、経済学者ではないが税金の問題についてコメントしているのでとりあえず(「経済学者」という)条件はクリアしているということにしておくと、彼はジャマイカの直感アートの支援活動に力を入れている一人であり、蒐集家としても重要な人物だ。経済学者のヘンリー・カウフマン(Henry Kaufman)はアートを支援するために多額の寄附をしている。19世紀の話になるが、経済学者でもあったフランシス・ホーマー(Francis Horner)は、ヘンリー・レイバーンに自分の肖像画を描いてもらっている。しかしながら、レイバーンに報酬を支払ったのはホーマーの弟だったようだ。おそらく兄弟の間で、ベッカー流というかコース流のやり取りが交わされたのだろう。
故リチャード・ボディグ(Richard D. Bodig)は、「経済学者」兼「歌手」兼「ルネサンス音楽の研究者」だった。次のようなニュースの見出しがたまたま目に入ったが、これも勘定に入れていいだろうか? 「ジャズ歌手のオレーシャ・ヤクニナが語る。ジャズが、経済学徒の未来に控えるキャリアから我が身を解き放ってくれた。それはいかにしてか?」2 (『ヤバい経済学』コンビの片割れである)スティーブン・ダブナーはロックバンドの一員として活躍していた過去がある。
思い付くのはこんなところだ。誰か見落としていないだろうか?
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