タイラー・コーエン 「マイケル・ウッドフォードがQEの縮小を支持しているのはなぜか?」(2013年9月13日)

●Tyler Cowen, “Why Michael Woodford supports monetary tapering (Kaminska wins)”(Marginal Revolution, September 13, 2013)


マイケル・ウッドフォード(Michael Woodford)が、FRBによるQE(量的緩和)の縮小(テーパリング)を支持しているのはどうしてなんだろう [1] … Continue reading と前から疑問に思っていたのだが、マシュー・クライン(Matthew Klein)がその疑問への回答のヒントとなりそうな大変優れた記事を書いている。こういった記事に、もっとお目にかかりたいものだね。それはともかく、クラインの記事から引用するとしよう。

----------(引用ここから)-----------

Fedのバランスシートが拡大するのに伴って、金融システムやマクロ経済には必然的にコストが課されることになる。たとえインフレが低かろうが、たとえ失業が高止まりしていようが、そのことに変わりはない。ウッドフォードにとって最も重要なポイントをまとめると、こうなりそうだ。ウッドフォードと直接やり取りした電子メールの中では、「コスト」の中身について具体的には語られていないが、彼が昨年のジャクソンホールシンポジウムで発表した論文(pdf)の中に、そのヒントを見出すことができる [2]訳注;元の記事では、論文のどのページから引用したかは明示されていないが、pp.66~67からの引用。

(適切に定義された)「安全資産」(“safe assets”)の稀少性が増すことで、安全プレミアム(safety premium)が高まれば(上昇すれば)、経済厚生の低下が招かれることだろう。国債がその保有者に対して、(準備預金を含む)他の資産には無い(安全性や流動性といった)有用なサービスを提供しているとすれば、市中に流通する国債の量が減少することは、そのような有用なサービスから得られる便益が減ってしまうことを意味するのである。

言い換えると、国債は、貯蓄家に対して(他の資産には無い)独特の有用性を提供している資産、というわけである。Fedのバランスシートの拡大(Fedによる量的緩和)に伴って、国債の価格が上昇することになれば――あるいは、Fedによる量的緩和に伴って、市中に流通する国債の量が減ることになれば――、マクロ経済は大して刺激されない一方で、貯蓄家に対して害が及ぼされる格好となる、というわけだ。加えて、新規国債の発行量が少ないために、レポ市場に混乱が招かれる結果ともなっている。

Fedの上層部も同じような意見を持っているのではないか。ウッドフォードはそのように考えているようだ。彼とやり取りした電子メールでは、QE(量的緩和)の縮小ペースは、マクロ経済の状態如何によってではなく、Fedのバランスシートのサイズ(規模)によってもっぱら決められることになるだろう(し、そうなるべきだ)、と語られている。

QEの縮小に踏み出すのは時期尚早。Fedの高官らは、春の段階ではそのように述べていましたが、最近になって、今年の後半には債券の購入ペースを縮小すべきタイミングがやってくるかもしれないと示唆しています。どういった理由で、そのような判断になっているのでしょうか? 雇用情勢の先行きについて自信を持って予測できているからというよりも、Fedのバランスシートの規模が今年の後半までにどの程度の水準に達するかをかなりの精度で予測できているために、そう判断しているのではないかというのが私の考えです。不測の事態が今後起こらない限り、今年の後半になれば、バランスシートをそのままさらに拡大させ続けてもよいものかと頭を悩ますに違いないことを、Fedの高官らは今の段階で既にわかっているのでしょう。

「ハト派」として知られる人物が、何の矛盾も無しに、QEの縮小を支持するのは可能。そのことをこの記事がうまく説明できていればと願うばかりだ。

----------(引用ここまで)-----------

クライン自身のコメントと、ウッドフォードのコメントとを区別しやすくするために、インデントの使用は避けさせてもらった。

なお、担保不足問題に関するイザベラ・カミンスカ(Izabella Kaminska)の考察もあわせて参照すべきだろう。

References

References
1 訳注;この点については、以下の記事も参照のこと。「世界の中銀変えた理論、生みの親は「無名」のエコノミスト」(ブルームバーグ、2013年9月10日)
2 訳注;元の記事では、論文のどのページから引用したかは明示されていないが、pp.66~67からの引用。
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