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タイラー・コーエン 「一国の通貨にはいかなる特徴を備えた図柄を描き込むべきか?」(2005年12月17日)

●Tyler Cowen, “What is currency good for?”(Marginal Revolution, December 17, 2005)


素敵なレストランで友人とディナー。楽しいひと時を終えて勘定を払いにレジへと向かう。財布から200フラン紙幣を取り出すとそこにはエイズウイルスが描かれている。

・・・てな事態がスイスで現実のものとなるやもしれない1。とは言え、中央銀行には拒否権があるとのことなのでどうなるかはまだわからない。詳しくはこちらを参照されたい(フラン紙幣の新デザイン案の画像もいくつか紹介されている)。ところで、スイスの通貨は昔からお気に入りの一つだ。中でも一番のお気に入りはオイラー紙幣(数学者のレオンハルト・オイラーの肖像が描かれた旧10フラン紙幣)。物理学者や数学者の肖像が描かれている紙幣の例についてはこちらを参照のこと。

ついでにもう少し一般性のある問いについても検討してみるとしようか。一国の通貨に描かれる図柄はどんな特徴を備えている(どんな役割を担う)べきだろうか? 考え得る候補をいくつか列挙するとしよう。

1. 通貨に「麗しさ」を添える図柄;時が経つにつれて麗しさが増していく(そのような方向に世評が高まっていく)となおよし。そうなれば(通貨を身近に置いておきたいという思いが日増しに高まっていくために)貨幣需要も年々高まることになって結果的にミルトン・フリードマンが説くところの最適通貨量に近い状態に落ち着くことになるかもしれない。

2. 愛国心を高揚させて国民の結束(国家としての一体感)を高めるのに役立つ図柄

3. 不愉快な真実を思い出させる図柄;エイズウイルスの絵を紙幣に描き込んでしまえと思い立ったのもまさにこのことが動機となっているのかもしれない。これだけのお金があればどれだけの命が救えるだろうか? これだけのお金を支払うだけの価値はあるだろうか? エイズウイルスの図柄が入った紙幣を出して何かを買おうとする度にそう考えさせられるわけだ。スイスの売春婦に対価を支払う時なんかはエイズのことが頭をよぎったりするだろうかね? インドネシアの紙幣には鶏の死骸を描き入れるべきだろうか?

4. 高い芸術性を備えた図柄;(アメリカの1ドル紙幣に描かれているジョージ・ワシントンの肖像の作者でもある)ギルバート・スチュワートは実は大変優れた画家なのだ。多くの人はそう思ってはいないだろうけれどね。

5. 「P > MC」(「価格 > 限界費用」)である(限界費用を上回る値がついている)ような(あるいは、露出が抑えられている結果として「P > MC」となっているような)図柄を使う。例を示せって? 駆け出しの頃にヌードになってそれ以降脱がない女優がいるけれど、あれなんかもそうかもしれないね。

6. その国の特色(お国柄)が伝わる図柄を描き入れて外国人にもその国がどんな国かわかるようにする。そうしておけばどこに移住するかを決める時のヒントにもなるし、「あの国とは争わないようにしよう」と思い直させる後押しにもなるかもしれない。

7. 現役の政治家で国家元首候補の肖像を描き入れる。顔を売る(宣伝する)のが目的だ。1930年代後半のドイツではどの切手にもヒトラーの肖像が描かれていたという話をどこかで読んだのを思い出すものだ。

8. 地図だとかといった実用性を備えた図柄を描き入れる;九九表(掛け算表)なんかもありだろうか? 多言語国家の場合は主要な単語がそれぞれの言語でどのように言い表されるかをまとめた一覧表を載せるのもいいだろう。

9. 短くて歯切れの良い文言――例えば、「インフレーションはいつでもどこでも貨幣的な現象である」(by ミルトン・フリードマン)――を挿入する。

10. 偉業を成し遂げた歴史上の人物の肖像を描き入れる。過去の偉業を讃えることで(「お札に顔が載るくらい立派で有名な人間になってやるぞ」と)名声の獲得に向けて邁進する機運を盛り上げるのが目的だ(小鳥の図柄入りの通貨を発行している国は平等を追い求める国ってなことになるのかね?)。

11. (マイノリティ出身の人物の肖像を描き入れる2ことで)好戦的なマイノリティを宥(なだ)める

12. シルビオ・ゲゼル(Silvio Gesell)はスタンプ(印紙)を買って貼らないと無効になる現金を導入せよ(現金に課税せよ)と求めた。貨幣の流通速度を高める(お金の溜め込みを防ぐ)のがその目的だが、一定期間を過ぎると自動的にバラバラになる仕様の通貨を導入するという手もありだろう。

ちなみに、個人的に最下位の通貨はユーロだ。ユーロに描かれている図柄は何も語っていないに等しいように思えるからだ。まあ、それでいいのかもしれないけどね。今はなきフランスフランが恋しいものだ。標準的な財布にはうまく収まらないんだよね。

スイスでの騒動に気付くきっかけをくれたhttps://kottke.orgに感謝。何か意見があればコメント欄に書き込んでね。

  1. 訳注;2005年にスイスで新紙幣の導入にあわせてデザインコンぺが開催され、紙幣の図柄としては一風変わったデザインの作品がグランプリを獲得したことがある。この話題については本サイトで訳出されている次の記事も参照されたい。 ●マーク・ソーマ 「アートとしてのお金」(2018年11月25日) []
  2. 訳注;ニュージーランドの50ドル紙幣にはマオリ族出身の政治家であるアピラナ・ヌガタ(Apirana Ngata)の肖像が描かれている。 []

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