経済学101は主に皆様の寄付によって賄われています。温かい支援をお待ちしています

タイラー・コーエン 「見えざるゴリラ」

●Tyler Cowen, “Don’t miss the gorilla”(Marginal Revolution, February 13, 2004)


2つのチームが入り乱れながらバスケットボールをパスし合っている様子を収めた1分間のビデオを視聴しているものと想像してもらいたい。それぞれのチームは3人一組から成っている。一方のチーム(白チーム)は全員が白いシャツを着ており、もう一方のチーム(黒チーム)は全員が黒いシャツを着用している。それぞれのチームにはバスケットボールが一つずつ渡されており、狭い部屋の中で互いに入り乱れながら同じチームのメンバー目掛けてバスケットボールをパスし合っている。ビデオを視聴するあなたには一つの課題が課せられている。白チームがバスケットボールをパスした回数を数えてもらいたいのだ。複数の人間がゴチャゴチャと入り乱れている状況で正確にこの課題をこなすことはそう簡単な話ではない。ところで、ビデオが始まってから35秒後に不意に「ゴリラ」が姿を現し、白チームと黒チームが入り乱れながらボールをパスし合う中を歩いて平然と突っ切っていく。途中で立ち止まって自らの胸を叩いたかと思うとやがて部屋の外に退出していくゴリラ。その間9秒。さて、(白チームのメンバーが互いにバスケットボールを何回パスし合ったかを数えるという課題に意識を集中している)あなたはゴリラの存在に気付くだろうか?

実際にこの実験に参加した被験者のうち半分(50%)はゴリラの存在に気付かなかったということだ。

この現象は「不注意による見落とし」(inattentional blindness)と呼ばれているものであり、こちらの論文(pdf)で(「不注意による見落とし」に関する)その他の例や実験が紹介されている。この現象の肝心なポイントは何かというと、特定の課題に集中しているとその他の出来事(ダイナミックな動き)が見過ごされてしまう可能性があるということだ。「不注意による見落とし」は車を運転している最中に携帯電話を使用すべきではない理由の一つを提供していると言えるだろう。

冒頭の引用はサイエンティフィック・アメリカン誌(2004年)3月号からのものである。そしてこの記事で紹介されている元々の研究はこちら(pdf)である1こちらこちらもあわせて参照されたい。冒頭の引用で取り上げられているビデオはこちらだ。この文章を読んでいるあなたはビデオを視聴している最中にどんな事件が巻き起こるか、一体何を探すべきかをもう既に知ってしまっているわけであり、何とも残念な話だ。

「不注意による見落とし」は経済学に対してどのような示唆を投げ掛けているだろうか? 投資家にしても投票者にしても必ずしも手続き的合理性を備えているとは限らない。そういうことが言えるのかもしれない。手に入れる情報の量が多ければ多いほどよい結果が得られるという保証はないかもしれないのだ2。「不注意による見落とし」のために「明らかな」バブルも多くの投資家たちに気付かれないままに見過ごされてしまう可能性があるだけではなく、投票者たちは(選挙への)立候補者の特定の側面ばかりに執着してしまって彼ら(立候補者)の最も重要な側面がすっかり見逃されてしまう可能性があるのだ。

  1. 訳注;この論文の執筆者であるクリストファー・チャブリスとダニエル・シモンズは一連の研究成果を一冊の本にまとめている。次の本がそれである(ちなみに原書のタイトルは『The Invisible Gorilla』であり、今回のエントリーのタイトル(邦題)もここからとっている)。 ●クリストファー・チャブリス、ダニエル・シモンズ(著)/木村博江(訳) 『錯覚の科学』 []
  2. 訳注;情報収集に取り組む中で「不注意による見落とし」に陥り、自分が注意を寄せている対象以外への注意が疎かになってしまい、そのため判断にバイアスが生まれてしまう可能性があるため。 []

コメントを残す

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください