ノア・スミス「シリコンバレー銀行はなぜ経営破綻したのだろう?」(2023年3月11日)

なぜこうした事態になったのか? そしてこれがどのような影響をもたらすかについて少し解説してみよう。

そして、今回の事件はスタートアップ企業や金融システムにどのような影響を与えるのだろう?

現在、テック・金融業界の双方で大きなニュースとなっているのが、シリコンバレー銀行の経営破綻だ。SVB(シリコンバレー銀行)は、知られているように、スタートアップ企業(「スタートアップ」とは認知度がまだ高くないテック企業)に多額の資金を融資し、スタートアップ企業や他のテック企業に様々な金融サービスを提供していた銀行だ。ここに良いまとめ記事がある。

「何が生じたか」と過去形を使ったのは、木曜日(つまり昨日)、多くの人が、SVBから預金を引き出したからだ。SVBは、お金の返却を求める人たち全員に支払うだけの現金を保有していなかったため、経営破綻することになった。銀行の経営破綻の予防と救済を行っている政府機関FDIC(連邦預金保険公社)は、SVBを管理下に置いた

これは何を意味しているのだろう? まず、SVBは、FDICによる預金保険制度下の銀行だったので、SVBに預金していた人は、その預金口座(当座預金口座等)から25万ドルまで保証される。SVBに預けている預金額が25万ドル以下であれば問題なく、預金者に預金が現金で政府から支払われる。今問題となっているのは、SVBの預金口座のほとんど(報告によると93%)が、25万ドルの限度額を超えていたため、FDICの保証の対象外になっていたことだ。SVBへの預金額は、一部〔保証適用範囲の25万ドル〕まではFDICによって払い戻され、続いてFDICはSVBの資産を売却し、預金者には「事前配当」が支払われる

なぜこうした事態になったのか? そしてこれがどのような影響をもたらすかについて少し解説してみよう。

今回の事件は、非常に珍しい銀行による、あまりにありふれた経営破綻劇だ

まず、銀行の経営破綻についての基本をおさらいしよう。(もう知っている人は、次のセクションまで飛んでもらって問題ない)

基本的に銀行とは「短期で借りて、長期で貸す」ことで生計を立てている企業だ。例えば、当座預金〔訳注:小切手ですぐ引き出せる銀行口座。日本での普通預金に当たる〕とは、銀行が預金者から借り入れたお金だ。当座預金については、銀行は、預金者の希望に応じてすぐにお金を預金者に返却しなければならならない。つまり、ATMや窓口で預金を引き出せば、その場ですぐにお金を手に入れられるわけだ。銀行は、口座預金等の短期の預金には、あまり高い利子を払っていない。一方、銀行は長期的な資産、例えば住宅ローンや企業向け融資など、高いリターンを得られるが、すぐに精算できない(少なくとも全額精算できない)資産に融資を行っている。

長期資産からの高いリターンと、短期負債の低いコストの差は、「金利スプレッド」と呼ばれ、銀行の利益獲得における最重重要手段だ。しかし、これによってビジネスをリスクの高いものにしている。資産は流動性の低く長期なものであるため、すぐに完全な価値で売却できない。そのため、銀行にお金を貸している人たち(例えば預金者)が一斉にお金を引き出そうした時、銀行はその全額を応じられない。このリスクを「マチュリティ・ミスマッチ(満期不整合)」と呼び、預金者が一斉に預金を引き出すことを「銀行取り付け騒ぎ」呼ぶ。

2008年の金融危機では、銀行やそれに類する業種で、取り付け騒ぎ騒ぎのような非常に込み入った危機や破綻が何度も発生した。経済学者たちは、こうした奇妙な出来事を説明しようと、従来までの銀行破綻のモデルを何年もかけて修正してきた。しかし、今回のシリコンバレー銀行の破綻劇は、映画『メリー・ポピンズ』や『素晴らしき哉、人生!』で描かれたような、まったく普通の典型的な銀行取り付け騒ぎだ。経済学者は、こうした銀行破綻を適切に把握している。実際、ダグラス・ダイアモンドとフィリップ・ディビッグは、こうした銀行破綻のモデルを作成したことで、本年度のノーベル賞を受賞した。〔訳注:本サイトでの、ポール・クルーグマンによるこのノーベル賞の解説をここで読める〕

この典型的な銀行取り付け騒ぎの鍵となっているのは、「シーケンシャル・サービス(順次の預金支払いサービス)」と呼ばれるものだ。基本的に、典型的な取り付け騒ぎでは、最初に銀行から預金を引き出そうとした人は、全額の引き出しが可能で、後発の人は銀行の破綻によって〔お金を引き出せなくなり〕お金を失う。つまり、取り付け騒ぎとは、自己成就的な予言によって生じるのだ。ある銀行に取り付け騒ぎが起こりそうだと多くの人が信じ込んだ瞬間、人は誰より早く預金を引き出そうと銀行に殺到する。この殺到によって、取り付け騒ぎが実現してしまう。

通常、FDICによる預金保護によって、こうした取り付け騒ぎは予防される。〔銀行に預金している人は〕誰もが、連邦政府が自分の預金を保護してくれることを知っているので、通常のケースでは預金を失う心配はなく、預金の引き出しを急ぐ必要はない。なので、取り付け騒ぎは起こらず、資金繰りの悪化は生じない。通常の銀行では、預金の50%がFDICの保険の適用範囲となっている

しかし、SVBの預金の93%は、FDICの保険の適用外となっていた。そのため、SVBは、典型的で、教科書的な銀行の取り付け騒ぎに対して財弱な構造となっていたのである。

どうして、SVBは、FDICの保険適用外の預金を大量に抱えていたのだろう? それは、預金のほとんどがスタートアップ企業からの預金だったからだ。スタートアップ企業は通常、収益があまりなく、ベンチャーキャピタルに株式を売却して調達した資金から、従業員への給与等の支払いを行っている。そして、スタートアップ企業は、その調達した資金を、支払うまでの間、どこかの銀行の預金しておく必要がある。そして、多くの企業が、シリコンバレー銀行の口座に預金していたのだ。

スタートアップ企業の創業者はなぜ手持ちのお金を、JPモルガン・チュースのような安全な銀行や、財務省短期証券で運用せずに、SVBのような小規模の奇妙な銀行に預金していたのだろう? 実は、これが今回の事態における最大の謎なのだ。企業によっては、SVBに現金を預けていたのは、SVBから借入しており、SVBにお金を預けることが融資を受ける条件になっていたようだ。まだ、SVBは創業者に様々な金融サービスを提供していたため、企業によっては利便性からSVBに現金を預けていたとも指摘されている。単なる、業界慣行や右に倣えーー「スタートアップ企業ならSVBを使うべきだ。当然じゃないか!」だったかもしれない。集団浅慮だったかもしれないーー報道によると、スタートアップ企業の約半分がSVBを利用していたようだ。友人や知人がSVBを使っていたので、SVBに現金を預けていたかもしれない。

しかし、ともかく、SVBは、個人や中小企業からではなく、スタートアップ企業から巨額の預金を受け入れることで、極めて奇妙な銀行となり、取り付け騒ぎに陥りやすくなってしまっていたのだ。

何が破綻のきっかけになったんだろう?

次に、何がSVBの破綻を引き起こしたのか、という問題に移ろう。基本的に、以下の3つの可能性が取り沙汰されている。

  • 自己成就的予言
  • SVBの資産価値に対する疑念
  • ベンチャーキャピタルの投資状況が悪化したことによる預金の引き出し

自己成就的予言から始めよう。技術的には、銀行で取り付け騒ぎが起こるのに、真に根本的な原因は必要とされていない。取り付け騒ぎに必要とされているのは、ある臨界数の人々が、ある臨界数の人々によって預金が引き下ろされようとしているのではないか? と不安に駆られることだけだ。SVBの経営破綻は、ピーター・ティールのベンチャーキャピタル企業であるファウンダーズ・ファンドが、投資先企業にSVBから資金を引き揚げるように助言したことに端を発している。「スタートアップ企業は、有名ベンチャーキャピタルの発表に付和雷同する傾向にあるため、こうした助言が一度あるだけでも、右へ倣えの殺到に陥る可能性がある」とマット・レヴィンは指摘している

ついで、失礼な言い方となるが…地球上でシリコンバレーのベンチャーキャピタリストほど群れをなす動物はいない…。もし、預金者全員が、似通った一握りのベンチャーキャピタリストが役員を努めるスタートアップ企業からなっていて、それらベンチャーキャピタリスト達が互いに、「追加価値と影響力」や「今なすべきこと」を喧伝しながら、投資先企業に「おい、聞いたか、みんなシリコンバレー銀行からお金を引き出している。君のところもそうすべきだ」と電話をかけてきたら、全ての預金者が、同時に預金を引き出すことになってしまうだろう。

なので、〔今回の事態について発端となった〕ティールや他のベンチャーキャピタリストを批判する人がいるかもしれない。ティールは、数日前の仮想通貨銀行シルバーゲートの破綻に怯えていただけかもしれないし、SVBに何か不満を持っていたかもしれない、ただ憂鬱な気分で目覚めただけだったかもしれない。

ただし、僕としては、今回の事態は単なる偶然の出来事ではなかったと考えている。ティールらは、SVBの支払い能力に、心底不審感を抱いていたのだと考えられるからだ。

一般的に取り付け騒ぎの引き金となるのは、人々がその銀行の資産価格が負債の水準を下回っていると懸念することから始まる。むろん、銀行は債務超過に陥ったからといって、自動的に死に至るわけではない。資産が増加し、支払い能力が回復する可能性もある。しかし、銀行が債務超過に陥っていると信じるに足る根拠があれば、銀行は長期存続しない可能性が高まるため、預金の引き揚げが起こる可能性が高くなる。

SVBの資産価格が下落した理由はいくつかある。ひとつは、ここ数ヶ月で金利が大幅に上昇したことだ。SVBは、固定金利の債権やローンに多く投資していたため、金利が上昇すれば、固定金利の債権やローンの価格の低下に繋がってしまう。もうひとつは、この一年間で、テック業界が大暴落に見舞われたことだ。これは、金利の上昇も要因の一端となっているが、局地的なバブルや、他の長期的な要因も作用している。これによって、スタートアップ企業の多くが資金不足に陥り、SVBの融資がデフォルトを引き起こす可能性が高くなったのだ。

3月8日水曜日、SVBは資産の大幅な評価損を計上し、資金調達のための〔保有〕株式の売却を発表したため、SVBが債務超過に陥っているとの懸念が高まった。評価損の計上発表は、それだけで、銀行が債務超過に陥ったり、それに近い状態になることを意味するものではないが、おそらくもっと大きな評価損が近く計上されるのではないかと一部の人々を怖気づかせたのではないかと考えられる。SVBの株式売却の発表が不器用なものだったことで、最大限の恐怖がもたらされた、と指摘している人もいる。

SVBは、キャップレイズ〔保有資金の上昇〕によって財務基盤を強化するという責任ある決断を行った。
これは理にかなっていた。
しかし、そのコミュニケーションは悲惨な有様だった。具体的には以下の4つで失敗している。
(1)発言内容 (2)聴衆の想定 (3)タイミング (4)表現方法

いずれにせよ、金利の上昇による巨額の損失懸念や、テック業界のバブル崩壊が要因となっている可能性も取り沙汰されている。

さらに、SVB銀行には追加の要因があったかもしれない。平時の通常の銀行では、預金者の預金の引き出しタイミングはほぼランダムだ。つまり、通常の銀行では、統計的に見て、特定の月や年の純引き出し額が、問題を起こすほど巨額になる可能性は低い。しかし、SVBの預金者の多くはテック系のスタートアップ企業だったため、今回の取り付け騒ぎが起こる前から、預金の引き出しに状況によって、取り付け騒ぎを起こす可能性が高くなっていたのだ。

スタートアップ企業による現金の引き出しには、大きな波があるとする自明の理由として、最近のテック業界のバブル崩壊による、ベンチャー企業の資金調達の崩壊が挙げられるだろう。

ベンチャー企業の資金調達額が9年ぶりの低水準に:
 – 第4四半期のベンチャー企業企業の資金調達額は206億ドル。これは前年同期比で65%減で、第4四半期の調達額としては、2013年以降で最低水準となる。
 – 投資事業有限責任組合(LPs)は、2021年の第4四半期には620のベンチャーキャピタル・ファンドに投資したのに対して、2022年第4四半期では226のファンドにしか投資していない。

スタートアップ企業の多くは、ベンチャーキャピタルからの資金が底をついたため、「ランウェイ」(保有現金を使って従業員に給与を支払う等、市場が回復するまでの待機期間)を使って生き残る必要に迫られた。しかし、「ランウェイ」よって、多くのスタートアップ企業が、SVBから大量の資金を引き出し、新しいベンチャーキャピタル・ラウンド〔ラウンド(循環)において投資が活発に行われる期間〕ではないため、SVBへの新規預金は途絶してしまっていた。

SVBは、「ランウェイ」を使い果たしたスタートアップ企業からの現金需要に対応するため、資産の売却に迫られたのである。むろん、最も流動性の高い資産を最初に売却したため、流動性の低い資産が大量に残ることなった。そのため、取り付け騒ぎに対して、さらに脆弱になった。そして、この資産売却によって、一部の預金者は本当にSVBが債務超過に陥っていると錯覚し、実際の銀行破綻の引き金となった可能性が取り沙汰されている。

つまり、SVBは、テック業界のバブル崩壊による犠牲の一端に過ぎず、伝統的な銀行破綻に沿う形で破綻したのである。

スタートアップ企業、テック企業、金融システムにはどんな影響をもたらすのだろうか?

ここからは、SVBの破綻の影響について考察しよう。

スタートアップ企業の創業者や従業員が真っ先に思い浮かべるであろう最初の疑問は、SVBに預けられていた預金は、どのタイミングで、どれだけ回収できるのだろうか? というものだ。

月曜日になれば、SVBに口座を開設していた預金者には、25万ドル返却される(預金額が25万ドル以下だと、その金額が返却される)。その後、FDICは、SVBの保持する流動性の低い資産を売却し、売却資金から保険適用外の預金を可能な限り払い戻そうとするだろう。

さて、この資産売却には、いくつかの方法がある。ファンダメンタルズが不確実な流動性の低い資産を、過去の評価額の数分の一で即時売却する「ファイヤー・セール」をまず脳裏に浮かべる人もいるかもしれない。今回も、その可能性はある。そうなれば、SVBに預金を預けていた企業は、預金保護適用外の預金を何%か失うかもしれない

これは最悪のシナリオだ。しかし、2008年とは違い、大手銀行の多くが一斉に破綻するような状況にはなっていない。少なくとも今のところは、経済の片隅にある、奇妙な銀行1行だけだ。なので、ゴールドマン・サックスやJPモルガン・チェースのような別の大手銀行が、SVBの資産の大部分、あるいは全てを買い取り、預金口座を引き続ぐかもしれない。資産の買い手が見つかれば、売却は迅速に行われ、パニックや伝播の可能性を低下させられるため、FDICは現状でこうした処置に取り組んでいるのは間違いないと思われる。

売却が成立した場合、預金者の資産価値の目減りはどの程度になるかについてだが、預金がほとんど消えてしまうような状況ではないようだ。SVBの資産の一部は、スタートアップ企業への融資となっており、その評価は難しいかもしれない。一方で、SVBの資産の多くは国債となっており、国債は非常に評価しやすく、その資産価値の大部分は保全される。よって、保険適用外の預金も、全額保全される可能性は非常に高い。政府はパニックと伝播を防ぐために、SVB保有資産の買い手(達)を手助けするだろうとマット・レヴィンは考えている。

私は、投資や銀行にアドバイスする立場にないが、「[SVBの資産の売却される場合には、その金額]は…1,880億ドル[つまり預金総額]よりも高額になるだろう。FDICが、著名な大規模銀行を破綻させ、無保険の預金を預けいてた預金者にまで大きな損失を与えることは、良いことではないよう思える…。」

もし、[SVBの預金者]が、預けていた預金を失うことになれば、さらに多くの銀行で取り付け騒ぎが起こる可能性がある。(…)私見に過ぎないが、FDICもFRBも、そしてSVBの買収を検討している民間銀行も、実際のところそれを望んでいないのではないかと思う。SVBの買収を検討している銀行が、買収先の銀行の資産を詳細に分析した結果、1,800億ドルの価値があると判断したとして、FDICに「この銀行を買収して、保険適用外の預金者に1ドル95セント支払います」と報告すれば、FDICは「1ドル100セントじゃないのか」と返答し、銀行は「そうですね。たしかに100セントですかね」と応じるようなものである。

政府は、金融の健全性を確保したいとの意図から、無秩序と破壊的な方法で銀行を破綻させることがある。その最たる例が、2008年のリーマンの破綻だ。しかし、最近のパンデミックにおける政府の対応を見ると、政府は2008年の経験から重要な教訓を学んだように思える。パニックや伝播を防ぐ必要性は、多くのスタートアップ企業に奇妙でリスクのある銀行に資金を預けた代償として現金の5%または20%を失わせる必要性よりもはるかに重要なのだ。

スタートアップ企業によって、もう一つの大きなリスクとなっている(そして彼らがパニックになっている理由でもある)のは、来週の給与払いができなくなる可能性だ。たしかに、これは紛れもない惨事だが、そこまで大きなリスク性はないだろう。まず、そうした企業の多くは、25万ドルで1〜2週間やっていけるほど小規模である。次に、FDICは、来週、SVBの預金者に「前払い配当金」を支払うことを約束しており、これは給与支払いの助けとなるだろう。そのため、〔FDICの対応として〕以下の2つのケースを想定できる。
(A)SVBの全資産の買い手をすぐに見つける。
(B)SVBが保有する市場性の高い債権の一部を売却し、売却の完了まで、預金者が給与の支払いを続けられるのに十分な現金を送付する。
FDICは、〔給与支払いで経営破綻に追い込まれるかもしれない〕スタートアップ企業の従業員に直接給与を支払いできない一方で、そうしたスタートアップ企業の経営破綻を避けようとする強い意思を持っていると思われる。スタートアップ企業にとって、厳しい1、2週間となりそうだが、僕からのアドバイスはとしては、パニックにならないことだ

従業員については、一週間の給与の遅延が発生したとしても、大量離職という最悪のシナリオはありえないだろう。こうした〔給与の不確実性〕こそが、スタートアップ企業のリスクなのだ。これは、決済処理会社自体が倒産し、スタートアップ企業が新たな事業者に移行する必要性にかられた際にも同様にリスクが生じる。

SVBの破綻による、テック産業分野全般への長期的な影響は、マイナスとなる可能性が高いが、破滅的なものとはならないだろう。今回の事態と、それが引き起こす一般的な混乱と不確実性は、2022年初頭から蔓延している悲観主義に拍車をかけるかもしれない。SVBは、他にも多くの金融サービスを企業に提供しているため、そうしたサービスを提供する新しい事業者を探す手間も、悲観ムードを産むかもしれない。さらに、SVB自身もテック産業の投資家だったため、スタートアップ企業全体の資金繰りを悪化させるかもしれない。ある意味これは、第二次ITブームの緩慢なる下落の渦中での、片翼飛行への移行に過ぎないのだ。(明るい側面があるとすれば、悲観論が強まり投資家がこのセクターを敬遠する中で、投資意欲と投資能力の双方を備える人は高いリターンを求めてこのセクターに関心を向けることだ)。

最後に、大きなリスクとなっている、「金融危機の伝播」について話そう。2008年のリーマンの破綻を契機に、世界的なシステミック・メルトダウンが起こったトラウマは未だに多くの人に残っている。今回もそうなる可能性は十分にあるため、FDICや他の政府機関は、SVBの預金者の資産が目減りしないように、賢明に対策を行うだろう。

しかし、リーマンショックと異なる面も多い。まず、2008年には、全ての大手銀行は互いにエクスポーズしていた。つまり、不透明で流動性の低い住宅ローン担保資産に基づいた融資を行い、それを互いに売り買いしていたのである。これは、今回のSVBのケースではまったく当てはまらず、金融システム全体が、SVBの負債や、帳簿上の資産状況に特に影響されるような状態にない。SVBの報道を受けて、大手の銀行株は下落したが、これは感情的反応に過ぎないだろう。

追記:伝播のリスクについて十分に説明できていなかったと思うので、もう少しきちんと説明しておこう。SVBは、2008年に連鎖反応を引き起こしたような、他の金融システムとの繋がりはなかったが、それでも昔ながらのパニックからの伝搬が起こる可能性は残っている。パニックは合理的な理由なく発生するため、銀行取り付け騒ぎでは、自己成就的な予言として実現してしまう。

僕のみたところ、大手銀行のバランスシートはリスクが低く、暗黙の政府保証があるため打撃を受ける可能性は低く、中小銀行も預金のほとんど全てに保険が適用されるため、打撃を受けることはないと思う。しかし、パシフィック・ウェストやファースト・レパブリックのような中規模の地方銀行では、顧客である企業や富裕層の多数がパニックに陥れば、取り付け騒ぎが起こる可能性がある。そうした事態を防ぐためにも、FDICはSVBの資産を預金総額よりも高い価格で売却することを急ぐだろう。もしこれがうまくいかなければ、政府は新しい保険基金を作って預金保護に踏み切るだろう。この案件については、この後の僕の記事〔訳注:まもなく本サイトで翻訳投稿予定〕を参照してほしい。

概して私見となるが、システムによってSVBの影響を封じ込められるであろうことに楽観的だ。これまでのところ、アメリカ経済は、テック部門が低迷に陥っているにもかかわらず、歴史的な雇用改善と、力強い成長を遂げてきている。今回の取り付け騒ぎで、その基本的なパターンが変わるとする見解は説得力に欠けており、政府は〔経済の成長軌道を〕変更させない対策を取るであろう様々な根拠があるからだ。

さらに追記:ブラッド・デロングコナー・グレイアダム・トゥーズジェイ・ポリターノらが有益な分析記事を書いている。アルマッド・ドマレウスキは、この状況について最も優れたツイッターの呟きを行っている。ツイッターでの情報源のリストは近日中に作成予定だ。ブルームバーグ通信の一連の報道は特に素晴らしい内容となっている。〔訳注:デロング、トゥーズらの記事も本サイトで翻訳作業中〕

Why was there a run on Silicon Valley Bank?
And how will this affect startups and the financial system?
Posted by Noah Smith
Noahpinion, March 11, 2023.
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