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ノア・スミス「同質性にいざなうセイレーンの歌」(#6)

[Noah Smith, “The siren song of homogeneity,” Noahpinion, April 30, 2017]

〔数回にわけて掲載しています.前回はこちら

代替理論: 信頼が同質性を生じさせる

再定義や人種間・民族間の婚姻をとおして同質性はうみだせるのだと認識すると,同質性と信頼の相関が現れうる理由について,すぐさま代替理論が思い浮かぶ:信頼が高いところほど,時がたつにつれて同質的になっていくんじゃないか.

これは,遺伝的に起こりうる.みんなが自由に交流し集団どうしの疑心暗鬼や憎悪がないとき,おそらく人々はもっとたくさん付きあって結婚するようになりがちになるはずだ.時がたつにつれて,信頼が地域の人々に行き渡ることで遺伝的に同質な集団へと変わっていく.

また,社会的にもこれは生じうる.まったく異なる集団どうしが共通目的のために結束したとして――たとえば隣国との戦争に勝利するという目的のために結束したとして――そうやって高まった連帯感と仲間意識から,そうした集団がじぶんたちをひとつの人種として考えるようになるかもしれない.

じゃあ,なにがどうなると信頼が生まれるんだろう? これまた大きく茫漠としたものが答えかもしれない:制度だ.これまでの研究から,軍隊・大学・公立学校といった組織によって人々が密接にふれあって協力するようになると,その人たちはじぶんとちがう民族集団の人たちを信頼しはじめるのがわかっている.たとえば,2006年の『アメリカ経済学レビュー』誌に掲載された論文「共感か反感か? 多様性の影響」のアブストラクトはこんな風に書いている:

人種や民族の境界線をこえて混じり合うと,集団間の理解が促進されることもあれば,緊張が高まることもある.大きいな州立大学の白人学生1年生たちに無作為にアフリカ系アメリカ人のルームメイトを割り振ったところ,人種格差是正策(アファーマティブアクション)を支持したり高品質の教育には学生集団が多様であることが欠かせないと考えたりする割合が高まった.標本サイズがあまりに小さいために確たる証拠にはなりえないものの,こうした結果から,じぶんのルームメイトが属す社会集団に対する学生の共感が強まることがうかがえる.

また,こちらはごく最近の論文「信頼・民族的多様性・個人的接触:実験的フィールド調査の証拠」のアブストラクトだ:

本稿では,実験室での実験とノルウェー軍におけるフィールド実験を組み合わせて,少数派との個人的接触が集団内と集団外の信頼にどう影響するかを研究する.多数派の兵士に,民族的少数派がいる部屋といない部屋とを無作為に割り振り,インセンティブつき信頼ゲームを用いて信頼を計測した.第一に,少数派との密接な個人的接触によって信頼は高まることを本稿は示す.第二に,移民割合の高い地域の出身者は〔そうでない地域の出身者に比べて〕少数派をあまり信頼しないという結果を再現する.最後に,少数派の割合と集団外への信頼とのあいだにあるこうした負の関係は,少数派民族の兵士と密接につきあうよう無作為に割り振られた兵士の場合には逆転する.したがって,本稿の研究からは,対人的な接触が関わる社会統合は民族的多様性が信頼におよぼす負の影響を軽減できることが示される.

ここでとても大事な点は,前の方で引用した多様性と信頼に関する論文の大半とちがって,こうした研究は無作為化実験だというところだ.

無作為化実験なので,こうした研究はどうしても小規模にならざるをえない.ここで示されているのは,ほどほどの短期的な効果だ――学校や軍隊のような制度が人種の境界線を何十年にもわたって消し去ることができるのかどうかを本当に知ろうとすると,もはや対照実験の射程を超えてしまう.だから,こうした論文は本当にただの示唆でしかない.

とはいえ,この考えはアメリカ史にぴったり当てはまるように思える.南北戦争は,反カソリック感情の噴出に終止符を打ち,アイルランド系と南部ドイツ系アメリカ人が社会的にも遺伝的にも新興の白人に統合されるようになったと思われる.また,第二次世界大戦後に,イタリア系・ユダヤ系・ポーランド系のアメリカ人の民族外婚姻は加速した.どちらの場合にも,ともに武器を取ってとてつもない決死の苦難を肩を並べて協力しながら1つの国の一部となる経験は,おそらく戦前まで長らく続いていた疑心暗鬼や偏見などの多くを消し去ったのだろう.

ともあれ,この代替理論は信頼と同質性の相関を説明するだけの力がある――高水準の信頼をつくりだす制度のある場所は,時間経過とともにいっそう同質になっていく傾向がある〔ので信頼と同質性が相関する〕と説明できる.

#7 に続く


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