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バウアー他「集団意思決定の暗黒面:外部の人間への敵意」

Michal Bauer, Jana Cahlíková, Dagmara Celik Katreniak, Julie Chytilová, Lubomír Cingl, Tomáš Želinský “The dark side of decision-making in groups: Nastiness to outsiders“, VOXEU, January 5, 2019

集団は個人よりもより利己的に行動し,それがその構成員の意思決定にも影響を与えるということについて経済的な合意がある。本稿では,単にある集団の構成員になるだけで私たちは外部に対してより反社会的になってしまうという社会心理学上の別の仮説を支持する,スロバキアとウガンダにおける実験から得られた新たな証拠について述べる。ある組織において,集団内部の結束は暗黒面ももたらしうるのだ。外部の人間への敵意を強化するという形で。


プラトンは民主主義の限界について書き,合衆国憲法起草者たちも同様のことを書いた。より最近では社会科学者もまた,ある集団の一部になることが外部の人間を害し,社会的厚生を破壊する動機を高めるのではないかと集団意思決定の動態について懸念してきている。意思決定に対する集団への所属の因果効果は,行動経済学において過去20年間有力な研究テーマとなってきたが,その理由の一つには政治,軍事,ビジネスにおける決定の大多数が個人よりも集団によってなされるからだ。

研究室内での多くの実験を通じ,あるパターンが見出された。集団意思決定は,個人の意思決定と比べて社会親和性が低く,非協力的なのだ。集団は社会的厚生を高めるためや公正な分配を達成するために自らの資源を犠牲にすることに対してより後ろ向きだ。この点に関する一致した解釈は,集団はより利己的に振る舞うというものだ。集団は自身の利益を最大化し,他人の厚生を顧みない傾向が強い(Charness and Sutter 2012, Kugler et al. 2012)。

集団の構成員は彼らの間で意思疎通を行い,それによって利潤最大化戦略の識別を図る。この解釈は,集団意思決定は個人の意思決定より合理的で「行動的(behavioural)」でない形でモデル化しうることを示唆しており,このことは経済理論とって大きな意味を有する。

なぜ集団は個人よりも非協力的なのか
私たちの最近の論文(Bauer et al. 2018)では,集団の協力的行動と個人のそれとの違いについて,別の説明を用いている。社会心理学者は,単にある集団の構成員になるだけで競合的な非社会的行動が積極的に鼓舞されるという仮説を長きにわたって保持している。

この仮説は,集団が非協力的なのは利己的だからではなく,自身にコストがかかるとしても外部の人間を害する傾向があるためであることを意味している。反社会的な行動とは,非戦略的で破壊的な行動であり,意志決定者にとってコストがかかり,他人の厚生を減少させるもので,不平等や相手の敵対的な行動に対する反応ではないものと私たちは定義する。囚人のジレンマゲーム,信頼ゲーム,独裁者ゲームをはじめとする過去の研究における実験は,人間の社会的行動のプラス面を計測しようと設計された。これらはしかしながら,協力や共有を行おうとする意志の欠如が,自己中心性の高さによるものなのか,もしくはこうした反社会的行動によるものなのかを区別しない。

こうした区別は,自己破壊的な対立に参加する意思を予測したい場合に重要となる:

  • 反社会的であることと利己的であることは大きく異なる。純粋に自己の利益によって動機づけられた経済的主体は,自身が利益を得る場合にのみ他社の資源を破壊する。しかし,相対的な地位から効用を引き出したり,相手をやっつけることから喜びを感じるのであれば,他社を害する余地はずっと大きくなる。
  • 単にある集団内に置かれることが「私たち対彼ら」という心理状態を作り出して集団構成員の行動に影響を及ぼすのか,もしくは〔個人と集団の間の〕行動の違いは〔集団においては独りの場合と違って他の構成員と慎重に相談を行えるので〕熟考の結果であるのかを理解するのは重要だ。もし集団内で意思決定を行うという単なる事実が他人を害する個人の意志を増大させるのであれば,反社会的な行動が行う傾向は幅広い状況において生み出されうる。

反社会的行動を計測する
私たちの実験は,ウガンダ(N=1,679) とスロバキア (N=630)という非常に異なった環境下の青少年の大規模かつ多様なサンプルに対し,比較可能な設計を行ったうえで実施された。私たちは個人の(反)社会的な行動と,ランダムに選ばれた個人3人からなる集団のチームとしての意思決定を比較した。

この実験は利己性と反社会的動機を区別するとともに,全体的な集団効果を集団意思決定の効果と個人の行動に対して集団という状況が及ぼす効果に分解するよう設計されている。

そのために,私たちは協力する意思を測定する標準的な実験である囚人のジレンマゲームを,反社会的行動を暴き出す実験である破壊の喜びゲームで補完した。

  • 囚人のジレンマゲームでは,2人のプレーヤーは同額の寄付を受け取り,自身の収入を25%増加させるために相手の収入の50%を取り去るか(非協力的選択),自身の収入をそのままにする(協力的選択)かどうかを同時に決定する。
  • 破壊の喜びゲームでは,2人のプレーヤーは同額の寄付を受け取り,収入をそのままに保つか,相手プレーヤーの収入を50%減少させるために自身の収入の10%を犠牲にするかを同時に選択する。この場合,他人の収入を減少させることは意思決定者にとってはコストがかかり,したがって純粋に利己的な個人は破壊的な行動には出ない(Abbink and Herrmann 2011, Abbink and Sadrieh 2009)。

また,集団という状況が個人の行動に与える効果と集団による熟慮と意思決定による効果を分けるため,集団による熟考とその最終決定より前に,隔離された状況での個人の選択と集団の決定に対する個々の構成員の好みを調べた。

集団は個々の意思決定者よりもより反社会的に行動する
囚人のジレンマゲームにおいて,集団は個人よりも協力する傾向が薄く,これは過去の実験による結果とも整合的だ。しかしより重要なのは,破壊的行動に出ないことが利己的な主体にとっては支配戦略となる破壊の喜びゲームにおいても,集団は相手を害する傾向も強かったのである。これは主に,集団において反社会的行動がよりよく見られることによる。

個人と比較して集団の反社会的行動がより強いことは,信念,相互的な動機,不平等の嫌悪,個人的責任感の拡散〔1人じゃできないけどみんなでなら罪悪感も薄れる〕といったことでは説明されない。集団は害をなすために支払いを行う意思が個人よりも強く,これは実験における相手方から親切な行動を受けたことに対して反応する場合や,資源を破壊することが不平等を増大させる場合においてさえ変わらない。

さらに,集団状況における反社会的行動は外部の人間との競争に乗り出す意志も同様に増加させる。これはウガンダにおける競争性ゲームで計測された(Niederle and Vesterlund 2007)。合わせて考えれば,これらの発見は集団内の個人はより攻撃的に競争することを示している。

全体的な集団効果の分解は,集団という環境と集団構成員の間での熟考の両方が重要であることを示している。集団環境は個人の反社会的行動に乗り出すという意思と競争を行うという意思を高め,一方で集団意思決定は利己的選択の割合をわずかに高める。

こうした効果のすべては,スロバキア人とウガンダ人のサンプル双方で驚くほど似通っており,集団において決定する場合に攻撃的に競争することを選好するというのが深く根差した反応であることを示唆している。

図1 スロバキア:破壊の喜びゲームと囚人のジレンマゲームにおける選択に対する集団意思決定の効果〔縦軸は破壊的ないし非協力的選択の割合,3本×2セットの棒は左から個人,集団,集団による熟考前の個人〕

出典: Bauer et al. (2018).

図2 ウガンダ:破壊の喜びゲームと囚人のジレンマゲームにおける選択に対する集団意思決定の効果〔縦軸は破壊的ないし非協力的選択の割合,3本×2セットの棒は左から個人,集団,集団による熟考前の個人〕

出典: Bauer et al. (2018).

結論
アイデンティに関する過去の研究は,団結力の高いチームを作ることは,集団内の協力を容易にすることで軍隊やビジネス向けの組織における効率性を強化することを示した(Akerlof and Kranton 2005, Goette et al. 2006, Costa and Kahn 2001)。私たちの結果は,それが他の集団の構成員に対する攻撃的な競争性と引き換えのものである可能性を示唆している。

このことは,集団間の暴力がありとあらゆる場所に見られること (Blattman and Miguel 2014)や,企業内や企業間での相互破壊的な競争を説明する一助となりうる。また,これは狭い世界のアイデンティティーを和らげる政策の根拠を強化するものでもある。

また,競争性は個人のキャリア選択を決定するにあたって重要な役割をもつ。経済学者たちは個人における競争性を強化しうる因子を特定し(Gneezy et al. 2009, Andersen et al. 2013, Almås et al. 2015) ,競争しようとする意志の男女格差を縮めるための制度を設計しようと試みている(Sutter et al. 2016, Niederle et al. 2013, Balafoutas and Sutter 2012)。私たちの発見は,競争的な環境に飛び込む意志を増大させる因子は反社会的行動も上昇させることを示しており,したがって潜在的なトレードオフが存在することを示唆している。競争的な環境は一定の状況下では効率性を高めうるものの,より多くの社会的に害のある行動をももたらすかもしれないのだ。


参考文献
●Abbink, K, and B Herrmann (2011), “The Moral Costs of Nastiness”, Economic Inquiry 49(2): 631–33.
●Abbink, K, and A Sadrieh (2009), “The Pleasure of Being Nasty”, Economics Letters 105(3): 306–8.
●Akerlof, G A, and R E Kranton (2005), “Identity and the Economics of Organizations”, Journal of Economic Perspectives 19(1): 9–32.
●Almås, I, A W Cappelen, K G Salvanes, E Ø Sørensen, and B Tungodden (2015), “Willingness to Compete: Family Matters”, Management Science 62(8): 2149–62.
●Andersen, S, S Ertac, U Gneezy, J A List, and S Maximiano (2013), “Gender, Competitiveness, and Socialization at Young Age: Evidence from a Matrilineal and a Patriarchal Society”, Review of Economics and Statistics 95(4): 1438–43.
●Balafoutas, L, and M Sutter (2012), “Affirmative Action Policies Promote Women and Do Not Harm Efficiency in the Laboratory”, Science 335(6068): 579–82.
●Bauer, M, J Cahlíková, D Celik Katreniak, J Chytilová, L Cingl, and T Želinský (2018), “Antisocial Behavior in Groups”, CEPR Discussion Paper DP13315.
●Blattman, C, and E Miguel (2014), “Civil War”, Journal of Economic Literature 48(1): 3–57.
●Costa, D L, and M E Kahn (2003), “Cowards and Heroes: Group Loyalty in the American Civil War”, The Quarterly Journal of Economics 118(2): 519–548.
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●Gneezy, B U, K L Leonard, and J A List (2009), “Gender Differences in Competition: Evidence From a Matrilineal and a Patriarchal Society”, Econometrica 77(5): 1637–64.
●Goette, L, D Huffman, and S Meier (2006), “The Impact of Group Membership on Cooperation and Norm Enforcement”, American Economic Review 96(2): 212–16.
●Hewstone, M, M Rubin, and H Willis (2002), “Intergroup Bias”, Annual Review of Psychology 53: 575–604.
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●Kugler, T, E E Kausel, and M G Kocher (2012), “Review of Interactive Decision Making in Groups”, Cognitive Science 3(4): 471–782.
●Niederle, M, C Segal, and L Vesterlund (2013), “How Costly Is Diversity? Affirmative Action in Light of Gender Differences in Competitiveness”, Management Science 59(1): 1–16.
●Niederle, M, and L Vesterlund (2007), “Do Women Shy Away From Competition? Do Men Compete Too Much?”, The Quarterly Journal of Economics 122(3): 1067–1101.
●Plato (n.d.), “Republic”, in B Jowett (Ed. & Trans.), The Dialogues of Plato, Oxford University Press.
●Sambanis, N, J Schulhofer-Wohl, and M Shayo (2012), “Parochialism as a Central Challenge in Counterinsurgency”, Science 336(6083): 805–8.
●Sutter, M, D Glätzle-Rützler, L Balafoutas, and S Czermak (2016), “Cancelling out Early Age Gender Differences in Competition: An Analysis of Policy Interventions”, Experimental Economics 19(2): 412–32.


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