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パトリック・ブラントム&ロラン・ポール「中国の一帯一路構想:欧州にとっての機会と課題」

Patrick Branthomme et Laurent Paul “Les nouvelles routes de la soie : opportunités et défis pour l’Europe” le 15 octobre 2019, Bloc-notes Eco, Banque de France

2013年9月に中国政府が打ち出した「新シルクロード」はアジアとヨーロッパの連結を高めることを目指している。欧州は自身の経済的利益と多国間枠組みを最大限守らなければならない。融資の透明性,質の高いインフラ,環境・社会基準の遵守という原則を設定した最近のG20での進展がその助けとなりえるだろう。


一帯一路の陸と海の交易路 出典:香港貿易発展局(HKTDC)調査

中国によるアジアと欧州を結ぶ一方的な行動

一帯一路とも呼ばれる「新シルクロード(NRS)」は,6つの陸の交易路(シルクロード経済ベルト)と1つの海交易路(海のシルクロード)に巨大なインフラネットワークを開発することで,アジアと欧州,そしてアフリカとの間の輸送(海,陸,空)を向上させることを目的としている。この主要目的の背後で,中国は欧州への中国の輸出量を増加させる,そうした輸出を確保するための輸送チェーンを支配する,エネルギー供給ルートを守る,人民元の国際的な使用と中国式の契約方法を促進するという一連の多くの利益を追求している。

一帯一路イニシアティブは,大部分が中国の公的銀行や2014年に主に中国の外貨準備を資本に立ち上げられた「シルクロード基金(SRF)」による非常に大規模な融資プログラムを基礎としている。その金額に関しては現時点で公式な数字は明らかにされていないが,欧州議会による試算では2016年末までに2,920億ドルが実施され,この先も1,300億ドルの資金が拠出されるものとみられており,これらは主に地元関係者への長期貸付けや株式投資という形をとっているという。

ひとつとても重要な点は,これらの投資が中国と関係国の二国間交渉で行われているということだ。この関係により,外国の投資を求めている国々は相手との経済力に大きな不均衡がある中で合意交渉をせざるをえず,中国はこれらの国々に対して無理強いできる立場になっている。

EUにとって一帯一路イニシアティブはチャンスとリスクが共存

工業・製造業製品の交易はすでに中国側に傾いた形で構造的に不均衡になっており,交通路の整備は中国の輸出を促進する可能性がある。上述の欧州議会の調査では,2016年には1,100万個のコンテナが中国からヨーロッパに輸送されたが,その逆は500万個だった。

EUの対中国貿易赤字は2002年の中国のWTO加盟以降一貫して増加しており,二国間貿易EUの戦略・商業利益の防衛のためには,パートナーたる中国との相互性がまずは必要だ。それには,欧州委員会と欧州上級代表の連名による2019年3月12日付声明が強調しているように,中国市場のより一層の開放が含まれる。

図1:財の取引(輸入/輸出)とEU・中国間の経常収支(香港を含む)(単位:10億ユーロ)
出典:Eurostat,計算は筆者による
破線:輸出,赤線:輸入,緑線:貿易収支,紫線:経常収支

確かに,中国の投資の大部分は現在までのところEU圏外(アジア,アフリカ,旧CIS)で行われている。EU内では,東欧(チェコ,ハンガリー,クロアチア)または近年財政上の困難に直面した南部(ポルトガル,イタリア,ギリシャ)諸国に集中している。

協力をさらに推し進めるために中国と中東欧16カ国によって2011年に立ち上げられた「16+1フォーマット」は,欧州の分断にさらなるリスクをもたらしている(cf.「ドゥブロブニク・ガイドライン」)。このフォーマットは,毎年のEUと中国の首脳会合と並立しているが,制度上の調整は想定されていない。

G20の新原則は中国による一方的アプローチによるリスクを制約しうる

すでに,中国の一方的アプローチが投資プロジェクトの受け手となる国にとってリスクとなることが示されている。一部のインフラプロジェクトは,各国の必要性にほとんど合っていないことが明らかになった。そうしたプロジェクトの一部は,時に多角化され過ぎ,必ずしも効率的でない上,財政的な脆弱性の原因となっている。たとえば,スリランカはハンバントタ港整備のための借款を返済できなかったため,中国に対して99年にわたって運営権を譲らざるをえなかった。グローバル開発センターの調査によれば,ほかの国も近いうちに同様の過剰債務状況に陥りかねないという。

実際,一帯一路イニシアティブの枠組みで実施されたインフラプロジェクトの一部は,複雑な金融スキームのせいでバランスシート外の債務に関する包括的な記録が欠けており,「隠れ」債務が発覚するという事態となった。

こうした逸脱の可能性に対し,国家債務の持続性と投資プロジェクトの透明性を確保するため様々な国際機関が共通の国際ルールを定めている。その中でも特に2017年にG20が定めた運営ガイドラインはより厳密で公正な融資の確保を可能とするものであり,これは2019年5月7日のパリフォーラムでも改めて述べられている。最近の福岡におけるG20首脳会合1 においては,インフラ投資による過剰債務リスクの防止とそのグッドガバナンスを確保しつつ,インフラ投資の質を改善することを目的とした新たな原則を打ち立てた。

近年,中国財政部は各国の債務持続性の分析枠組みを作ることで一帯一路の枠組みで供与される融資の透明性を高める方向に向かっているように見られ,これはこうした国際基準に歩み寄るものではあるものの,その実施については未だ確認されていない。

持続可能な開発目標と社会包摂を統合する必要性

一帯一路イニシアティブは,とりわけアジアと欧州間の財の貿易を増大させることを目指している。そうした貿易は現在のところほとんど一切が海路で行われており,世界銀行の分析によればその環境コストは今後増大するとされている。

気候変動に絡む問題が高まっていることを念頭に置きつつ,G20はインフラプロジェクトが持続可能な開発のための2030アジェンダに基づきエネルギー移行を確保するための国家戦略に沿ったものである必要性を改めて表明した。したがって,インフラプロジェクトは環境要因を内部化する必要がある。NFGS(気候変動リスクに係る金融当局ネットワーク)による作業に足並みをそろえる形で,グリーンファイナンスを用いることが推奨されている。

G20はほかにも,インフラ投資において社会的問題のほか,グッドガバナンス,腐敗対策,公共調達分野における透明性を考慮に入れることを目的とした新たな標準を導入した。

中国による一方的手法から欧州との真の対話へ

この問題について中国政府と欧州委員会の間で特別の対話がないことは,一方では中国による投資と欧州間輸送網(TEN-T)の投資の間で必要となる調整,もう一方では欧州のプライオリティと一致しない投資のリスクという点について,効率性とガバナンスの問題を生じている。

中国との関係において,EUは「EU中国協力のための2020戦略アジェンダ」の枠組みで投資に関する合意を締結しようとしているものの,この交渉は2013年以降ほとんど進展が見られない。

欧州はそのパートナーたる中国の戦略目標にのみ利することのあってはならない事業について,自身の利益をもっと守るために一体となって声をあげることができなければならない。そのためには,新任された欧州委員会の総力を傾ける必要がある。

  1. 訳注;原文ママ。正確には福岡で行われたのは財務大臣・中央銀行総裁会議 []

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