Bill Mitchell, “A response to Greg Mankiw – Part 3”, Bill Mitchell – Modern Monetary Theory, December 31, 2019
クリスマス前に、グレゴリー・マンキューの現代通貨理論(MMT)に関する論文「A Skeptic’s Guide to Modern Monetary Theory」(2019年12月12日)への回答を2回に分けて発表した。休み前に回答を仕上げようとしたのだが、第2部はすでに長くなりすぎてしまった。クリスマス休暇が明けてブログを再開したら短めの第三部を書こうと思ったので、問題をひとつ取り上げずに残しておくことにした。この部分は、公の記録に残す必要があると思う。この論点は、評論家は、MMTが何であるかを実際に理解するために、いかにさらなる努力が必要かを例示している。彼らは、MMTが不透明で理解するのが難しいと主張し、私たちの仕事に対する彼らの誤った解釈の責任を我々に押し付けようとしているが、私が今日議論する問題は、非常に簡単に理解できるものだ。この問題は前面かつ中核に出ており、多くの学術論文やその他の記事が書かれている。もちろん、私が言及しているのは、主流のフィリップス曲線に対するMMTの対応策としてのジョブ・ギャランティだ。この問題がMMTの枠組みの中でどのように位置づけられるかを理解していないのは、主流派の経済学者に限ったことではない。しかし、主流派はフィリップス曲線の文献と、フィリップス曲線が彼らのマクロ経済学の中でどのような位置を占めているかを全て理解している。故に、バッファー・ストックの枠組みの中でジョブ・ギャランティを理解し、MMTがそれにどのように対応するかを理解していないという言い訳は通用しない。
過去のブログ記事は以下の通り:
- A response to Greg Mankiw – Part 1 (December 23, 2019). [邦訳]
- A response to Greg Mankiw – Part 2 (December 24, 2019). [邦訳]
先週パート2が公開されて以来、(グレッグの最初の働きかけで)彼とのさらなるやりとりがあり、パート1で示された不明な点のいくつかが明らかになった。
彼は誠意を持って行動しており(私はそれを受容する)、「数ヶ月かけて…(私たちの)本を注意深く読んだ」と保証してくれた。彼はまた、私たちに手紙を出した当初の意図は、最終的に「懐疑論者の手引き」(Skepitc’s Guide)として作成されたものとは異なっていたと述べた。
その変化は締め切りに追われてのことだった。
これらのことを疑う理由はないが、それでも私は、批判の対象を公正に表現することは、学術的な批評家に課せられた義務だと考えている。
彼の『懐疑論者の手引き』が公正な表現であるとは思えないのは、第2回で説明した理由に加え、今日のこのパートでも説明する。
実際、彼の読者は、彼の論文を読んで、私たちの仕事についての非常に奇妙な解釈を持ち帰ることになるだろう。私は、彼らが好奇心を持って、意図的にせよそうでないにせよ、彼らがどのようにミスリーディングされたかを知るために元のソースに戻ってくることを願っている。
さて、彼の読者がMMTについて完全にミスリーディングされた1つのパターンを紹介しよう。
どういうわけかグレッグ・マンキューは、MMTが彼が愛する主流派から大きく逸脱していることを見逃していた
グレッグ・マンキューは批判的な「ガイド」(あるいは生憎ながら「非ガイド」)の中で次のように書いている:
- MMTの提唱者は、インフレに対して非常に異なるアプローチを行っている。彼らは、「紛争理論は、インフレの問題を、資本主義システムの中で政府によって媒介される労働者と資本の間の力関係(階級闘争)に内在するものとして位置づける」(MW&W, p255)と書いている。つまり、労働者と資本家がそれぞれ国民所得のより大きなシェアを求めて争うことで、インフレがコントロールできなくなるというのだ。この考え方によれば、政府による賃金や価格のガイドラインなどの所得政策が高インフレの解決策となる。MMTの提唱者は、これらのガイドライン、さらには賃金や価格に対する政府のコントロールを、進行中の階級闘争における一種の仲裁とみなしている。(MW&W, pp.264-265)
これは、インフレ抑制に対するMMTのアプローチについて全く不正確な説明であり、私たちの教科書(Macroeconomics)を忠実に読んでから書いたという彼の主張にも悪印象を与えている。
第17章の「失業とインフレ」では、インフレは労働者と資本の実質所得分配をめぐる分配闘争の結果であり、それぞれの主張者が名目賃金や価格を押し上げることによって起こるという文脈で、所得政策(第17.5節)を検討している。
我々は次のように述べている:
- 賃金価格スパイラルに直面し、分配闘争の闘士を懲らしめるような経済の急激な縮小を導入したくない政府は、時折、いわゆる所得政策の利用を検討してきた。
- プログレッシブな経済学者は、コスト圧力を抑制するための所得政策の使用をしばしば提唱しているが、これは支出全体を減らす必要性を避けるためである。(支出全体を減らすことは、高水準の非自発的失業を齎してしまう)
我々は、所得政策を用いてインフレを抑制しようとした各国の歴史的なエピソードを記録した。
その結果、一部の国(例えば北欧諸国)ではこのアプローチが成功しているものの、一般的には、歴史的傾向(制度など)が「所得政策の運用を困難にしている」と我々は結論づけた。
この議論のどこにも、インフレに対するMMTのアプローチが所得政策を用いることなどとは書いていない。
実際には、我々は議論を次のように締めくくっている。
- 第19章では、マクロ経済における雇用と失業のバッファー・ストックの概念を紹介し、物価安定維持のための政策によってどのようにマクロ経済をコントロールすることができるかを分析する。
そして、第19章では、冒頭で第17章の内容を振り返ってから、「主眼」である分析を進めている。
- 持続的に低い安定したインフレを実現する(インフレ亢進防止)ための2つのアプローチがある。インフレ・スパイラルに陥る可能性のある総需要圧力を回避するために、政府の政策によって作られた2種類のバッファ・ストックーを比較する形で議論を展開しよう。
そして:
- ここで比較する2つのバッファー・ストックは以下の通りだ:
- – 失業バッファー・ストック:自然失業率(Natural Rate of Unemployment: NRU)、またはインフレ非加速失業率(Non Accelerating Inflation Rate of Unemployment: NAIRU)とも呼ばれる解釈のもとでは、金融・財政の引き締めによってインフレが抑制されているため、失業のバッファー・ストックが発生している。これは、物価安定を目指す政策立案者にとって、非常にコストがかかり、信頼性の低い目標である。
- – 雇用バッファー・ストック:不換紙幣発行システムの財政力を利用して、雇用バッファー・ストックに基づく完全雇用を導入する。ジョブ・ギャランティ(JG)モデルは、このタイプの政策手法の一例である
- インフレ抑制のためのバッファー・ストック・アプローチは、いずれもインフレ・アンカーと呼ばれるものを導入する。NAIRUの場合、アンカーは失業であり、労働市場を規律し、インフレ的な賃金要求が追求されるのを防ぐ役割を果たす。ジョブ・ギャランティの場合、インフレ・アンカーは、政府が提供する無条件の固定賃金の雇用保証という形で提供される。
そして、本章の残りの部分の目的を述べた上で、次のように結論付けている。
- 最後に、インフレを抑制するために設計された2つのバッファー・ストック・スキームの概要と対比を行う。我々は、完全雇用と物価安定の両方を促進する雇用バッファー・ストックを提供するのは、ジョブ・ギャランティー・アプローチのみであることを示す。
これ以上の明確な表現はないだろう。
ニューケインジアン(マンキュー)マクロ経済学の中心的組織概念はNAIRUである。
MMTの中心的な概念は、ジョブ・ギャランティーである。
後者は、前者とは丸っ切り別物にデザインされているものだ。
後に、それぞれの「バッファー・ストック」の枠組みを具体的に紹介しながら、我々は次のように述べている。
- 我々が示しているように、ジョブ・ギャランティー(JG)は、MMTの論理の中心にある。これは緊急政策でも民間雇用の代替でもなく、むしろ民間雇用を恒常的に補完するものとなる。直接的な雇用創出プログラムは、他に仕事を見つけられない人たちに基本的な賃金での雇用を提供することができる。他の方法では、きちんとした賃金の仕事へのアクセスを保証することはできない。さらに、JGのアプローチは、完全雇用に対する主な反論、すなわち、完全雇用の維持は持続不可能なインフレ率を引き起こすというフィリップス曲線の議論にも同時に対処できるという利点がある。
19.6節では、先ほど詳しく分析したジョブ・ギャランティーの導入が、従来のフィリップス曲線に取って代わる様子を示している。
インフレと失業の関係であるフィリップス曲線が主流派マクロ経済学の枠組みの中で中心的な役割を果たしていること、そしてその枠組みの中にNAIRUの概念が組み込まれていることを考えると、雇用バッファー・ストックがNAIRUに取って代わるという主張がなされているこのトピックのセクションは、我々の研究を理解しようとするニューケインジアンの興味をそそるものであったと考えられよう。
教科書の図19.3では、「JGの導入によりフィリップス曲線が消し去られる」という説明した。これは非常に重要な言明であり、「懐疑的なガイド」を作成しようとしている主流派の評論家がコメントなしで通過できるようなものではない。
下の図は、失業率が低いほどインフレ率が高くなるフィリップス曲線の世界と、雇用のバッファー・ストックが用いられる経済のダイナミクスを対比させたものだ。
本文では、現在の失業率がURA、インフレ率がIA、完全雇用の失業率が摩擦的失業を示すURFULLというフィリップス曲線の世界からスタートするとしている。
ここで、政府は失業率を下げたいと考えており、総支出を増やせばコスト圧力がかかり、インフレ率がIBまで上昇することを知っていると仮定すると、フィリップス曲線の世界では、ポイントAからポイントBに至ることになる。
完全雇用は得られるが、インフレ率は高くなるわけだ。
NAIRUモデルでは、インフレ率はBで安定しない。なぜなら、交渉主体(労働者や企業)は、新たに上昇したインフレ率を期待値に組み込み、フィリップス曲線は外側へと動き始めることになっているからだ。
この問題については、教科書の第18章で詳細に検討し、主流派の理論的アプローチを忠実に表現した。
次に、経済がAのときに政府がジョブ・ギャランティーを導入した場合、図19.3で何が起こるかを考えてみよう。
ジョブ・ギャランティーは、URAとURFULLの差に見合った仕事に労働者を吸収することができるが、実際には、より多くの仕事が得られるようになると、労働力外の労働者(隠れ失業者)も無収入のままでいるよりも、ジョブ・ギャランティーの仕事に就こうとする。
しかし、最初にジョブ・ギャランティーのプールに吸収される労働者の量がどれほどであっても、経済はAからBではなく、AからAJGへと移行するだろう。
このように、ジョブ・ギャランティーが機能していれば、完全雇用と物価安定が両立することがわかる。
これが、ジョブ・ギャランティーがフィリップス曲線に代わる主要な概念装置であり、政策適用であるとMMTが考える理由である。
これは小さな問題ではない。
結語
グレッグ・マンキューが近日中に米国の主要な会議で発表する「懐疑論者のガイド」を変更してくれることを願っている。
彼は明らかに我々の研究を大きく誤った形で伝えており、これは学術的な環境では許されるべきではない。
今日はここまで!
Very interesting, thanks for sharing!