ピーター・ターチン「2020年」(2020年6月1日)

2020
June 01, 2020
by Peter Turchin

アメリカが燃えている。全米各地の数十の都市に、1968年のマーティン・ルーサー・キング・ジュニアの暗殺事件が原因となった暴動以来、観察されていなかったレベルでの夜間外出禁止令が出されている。ほとんどの解釈は、既に6日続いている暴力の波の直接的な原因に焦点を合わせている。実際、ジョージ・フロイドがゆっくりと絞め殺されていく映像を、怒りと悲しみを感じずに視聴するのは難しい。しかし、私の仕事は、いうなれば、事件の表層からは解しかねる、深い構造的原因を調べることだ。


ミネアポリス警察の第3分署を襲って燃やしている抗議者達(写真出典元

反乱や革命を引き起こす原因は、地震や山火事の引き起こすプロセスと多くの点で似ている、と私はいろんなところで書いてきた。革命と地震に関しては共に、「圧力」(徐々に蓄積されていく構造的条件)と、「トリガー」(社会的もしくは地質学的暴発の直前に突如勃発する事件・事象)を区別することは有益だ。政治的動乱で、何が具体的なトリガーになるのかを予測することは難しく、なんらかの正確な予測を行うのはおそらく不可能だ。毎年、警官はアメリカ人(黒人と白人、男性と女性、大人と子供、犯罪者と法を守る市民)を数百人殺害している。アメリカの警官は、2020年に入った最初の5ヶ月だけで、既に市民を400人殺害している。ジョージ・フロイドの殺害は、なぜ抗議行動の波を引き起こしたのだろう?

トリガーとは異なり、構造的圧力はゆっくりと、より予測可能な形で蓄積されるので、分析と予想に適している。また、トリガーとなる出来事の多くは、最終的には、出口を求める抑圧された社会的圧力、つまりは構造的要因によって引き起こされている。このブログの読者は、社会的レジリエンス(復元力)を蝕んでいる主要な構造的圧力(市民の窮乏化エリートの内輪での諍い〔本サイトでの翻訳はここ〕、国家機関への信頼の喪失)についてよく知っている。詳細は、私のイオンマガジンでの論文や、「不平等と幸福の二重らせん」)で参照可能だ(もちろん、自著『不和の時代』で最も包括的に扱っている)。

こういった構造的動向は、2000年代初頭に明らかになったので、私は2010年に「次の10年は、米国と西欧において不安定さが増大する時代になる可能性が高い」との予想を発表した(「2020年代における政治的暴力の定量的予測」も参照)。

2010年の私のこの予想は、当時(2010年)の社会的不安定性の動向を、将来に向けて単純に予測投影したものではなかった。事実、当時の主な欧米諸国の社会的不安定性は2010年以前だと減少しているのだ(以下のグラフを参照)。私のこの予想は当時の動向の単純予測投影と違い、不安定性の主要な構造的原因(窮余化、エリートの内輪での諍い、国家(非)能力 [1]訳注:国家能力(state capacity)とは、政府が意図した政策目標を達成することができるかの能力を数値化した指標。 )を、社会・政治的不安定性と強く相関している政治的ストレス指数(PSI)に入力変換した定量的モデルに基づいていた。PSI曲線は、2010年に上昇が算出されているが、これはその後の10年において、社会・政治的不安定性が増大することが示唆されていた。

最近、アンドレイ・コロタエフと私は、2010年の私の予想を(科学論文誌で査読中の論文で)再検討した。様々な不安定性指標のデータを分析した結果、2010年以降、ほとんど全ての不安定指標の動向が実際に上昇していることが判明している(我々の一連のデータは2018年で終わっているが、2019年の数値もすぐに利用可能になるはずだ)。欧米の主要6カ国の暴動発生率に関する結果は以下である。

合衆国に焦点を絞り、さらに長期で見てみると、現在の不安定性の波は、1960年後半にピークを迎えた前回の波の水準に既に達していることが分かる。

 

残念ながら、私の2010年の予測は正しかった、というのが我々の結論だ。私は「自己破滅的な預言 [2] … Continue reading 」になることを遺憾ながら強く望んでいたが、明らかにそうなっていない。

進行中の抗議と暴動の波に関して、何か意味を見いだせるのだろうか? このような動的プロセスの性質は、明日には沈静化する可能性もあれば、エスカレートする可能性もあり、どちらの結果もありえる。豊富な燃料の渦中で、火の粉が着火しても、立ち消えになることもあれば、大火災に拡大する可能性もある。

それより、より確実なのが、不安性を構造的に突き動かしている要因は、弱まることなく作動し続けていることだ。さらに悪いことに、COVID-19パンデミックは、一連の不安定性の原動力の内のいくつか悪化させることになっている〔本サイトでの翻訳はここ〕。つまり、ジョージ・フロイドの殺害によって引き起こされた現在の憤りの波が治まった後も、我々の社会の安定性を蝕んでいる構造的な要因が長期に渡って豊富な燃料を提供し続ける限りは、大量の火種が別の潜在トリガーとして存在し続けることになる。

References

References
1 訳注:国家能力(state capacity)とは、政府が意図した政策目標を達成することができるかの能力を数値化した指標。
2 訳注:自己破滅的預言とは、予測・預言したことが対象に何らかの作用を与え、予測が成立しなくなることである。危機が予測されると、場合によって人々は事前にその危機に対応するので予測は成立しなくなる。代表的な事例はコンピュータの2000年問題である。2000年にコンピュータが大量クラッシュすると予測された結果、人々はそのクラッシュの危機に事前対応した為に2000年危機は起こらなかった。
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