ファーマン&パウエル 「合衆国の失業率、いまだ高止まり中」(2021年3月5日)

(訳者:アメリカの景気回復が急速にすすむ、あるいは進んでいきそうに見える現在、今後の物価水準や金利の変化を考える上で今のアメリカの供給余力を見ることは重要になりそうかなとおもい、PIIEにあった失業についての記事を訳してみました)

ジェーソン・ファーマン (PIIE)

ウィルソン・パウエル3世 (ハーヴァード・ケネディースクール)

原文

2021年2月、雇用者が37万9000人分の職を追加し、労働市場は改善した。これで経済はパンデミック以前のトレンドを1190万人分下回るだけとなった。同時に、失業率は6.2%に低下した。このパンデミックの間、公式の失業率は分類のミスと労働力からの何百万人もの人々の異常なほど大規模な離脱によって低く抑えられてきた。2月の失業率についての我々によるよりリアルな推定値は8.2%となっている。これは労働参加率の異常に大きな減少と人口動態の変化を調整したコンセプトによるものであり、2007-09年の金融危機では最高で10.0%に達した公式失業率に歴史的に比較可能となるように設計されている。また別のコンセプトであり、ジェイ・パウエル米連邦準備制度理事会議長とジャネット・イエレン財務長官が引用している固定参加率失業率は9.5%となっている。このコンセプトは金融危機のピークで11.8%となっていた。

 

よりリアルな失業率は2月に少し低下したが、それでもまだ高止まりしている

公式の失業率は2月に6.2%となり、1月の6.3%からわずかに低下した。このコンセプトは平時にはうまく機能するが、パンデミックの状況下においてはいくつかの欠陥がある。この特殊な状況に対応するために6月以降、図1に表されている我々が「リアルな失業率」と呼ぶ失業率を毎月更新しその情報を公表し続けている。

 

図1 合衆国の失業率は2月にわずかに低下したが、公式失業率は過少な推計を続けている

ソース:Bureau of Labor Statistics via Macrobond; 著者の計算による。

リアルな失業率は、「その他の理由で仕事に就いていない」と分類される75万7000人の労働者を失業者として追加し、全般的な景気の低迷を考慮し変化の調整を行った上でも労働参加率の低下は異常に大きいという事実を反映する為に260万人の労働者を労働力に追加している(これは2020年2月以降に労働力から離脱した420万人の労働者の一部に過ぎないことに注意)。2月の指標は8.2%であり、これは公式失業率と歴史的に比較可能であるように設計されている。2月の値は1月の改善の継続を表しているが、ペースは遅くなっている。夏に急速に下落した後、秋以降は改善が緩やかになっている。

このところ、イエレンやパウエルを含む多くの人々が、”固定参加率失業率 “と我々が呼ぶものを引用するようになってきている。この指標は1月の9.7%から2月の9.5%へと低下した。このコンセプトは「リアルな失業率」よりもわかりやすいものになっている。2020年2月以降に労働力から離脱した労働者をすべて失業者として扱えると単純に想定しているからだ。このアプローチの利点の一つは、雇用が危機前の状態に戻るまでに、経済がさらにどれだけ改善しなければならないかを測っている事だ。これの欠点は、過去の不況期の公式失業率と比較できない事だ。これはその仕組み故に、公式失業率よりも高くなる為だ。前回の不況においてでは、「固定参加率失業率」は11.8まで上昇していた。(「固定参加率失業率」のまた別の欠点は、人口動態の変化を考慮していないことだ。高齢化が進むと労働力参加率が低下することが予想されるのに。とはいえこれは1年などの短い期間では比較的小さな問題であるが。)

昨年の夏以降、私たちは「フルリコール失業率」という別のコンセプトも利用してきた。これは一時的にレイオフされた労働者と労働参加率の異常に大きな低下を調整したものだ。この指標は、一時的なレイオフとなった労働者の数が減少してきているためだんだんと重要ではなくなってきているが、漏れをなくす事をめざしてこの指標も下に含めている。リアルな失業率と固定参加率失業率の算出方法の詳細はこちら(PDF)を参照されたい。

注:p.p.は%ポイント。Changeは四捨五入していない数字による。

ソース:Bureau of Labor Statistics via Macrobond; 著者の計算による。

 

失業率が高止まりするなか、就業率はパンデミック前の値を3.5%ポイント下回っている

先月、民間の成人人口に占める就業者の割合である就業率はわずかに増加したが、全体としては2020年2月の61.1%から先月の57.6%まで低下してきている。就業率のこの変化は、失業の変化と労働参加率の変化の両方によるものであり、よって雇用の変化を完全に捉えるものになっている。失業についての我々の代替指標は、仕事探しを止めた人達の数の尋常ではない大きな増加を捉えている。しかし、固定参加型失業率と同様、就業率は労働力非参加の減少の全てを説明するものになっている。

 

図2 就労率は幾分上昇したが、いまだにパンデミック前のレベルを下回っている

就労率、%

ソース:Bureau of Labor Statistics via Macrobond

 

雇用は全体として危機前のトレンドを7.7%下回っており、労働者一人あたりの労働時間の増加はこの低下のほんの一部を説明するに過ぎない

雇用市場は2020年4月に底をうち、その後は上昇を続けている。労働者が以前の仕事に呼び戻された事による当初の回復は非常に急速なものだったが、ここ半年間の雇用の伸びは鈍化してきている。その結果、現在の非農業部門雇用者数はパンデミック前のトレンドを7.7%下回っている。これは1190万人分の雇用に相当する。

同時期に、民間部門労働者の平均週労働時間は、パンデミック前の年の34.4時間から2月の34.6時間へと上昇した。0.7%の増加だ。一般的に不況時には平均週労働時間は減少するものなので、これは非常に珍しいことだ。労働時間の増加は、雇用者が労働時間の短い労働者の仕事を減らしたことによる構成上の影響もあるが、多くの労働者について労働時間が増加したようにもみられる。

その結果、週の総労働時間はパンデミック前のトレンドから7.2%減少した。これは、トレンドと比較しての産出の約4%と見込まれる減少よりも大きい。おそらく、雇用の減少が低生産性セクターに偏っていたのだろう。

 

図3 経済はパンデミック前のトレンドと比べていまだ雇用1200万人分低いまま、被雇用者はより長く働いている

注:雇用と週間総労働時間のトレンドは2020年2月までの12ヶ月間と同じ成長率が2020年2月以降もつづいたらと仮定したもの。平均週時間のトレンドは2020年2月までの平均値。雇用数は非農業部門就業者数であり、これはビジネスオーナー、自営業者、給与なしの家族労働者やボランティア労働者、農業労働者、そして家庭内労働者を除いたものである。

ソース:Bureau of Labor Statistics via Macrobond; 著者の計算による。

 

結論

データの理解は労働市場の回復の軌跡を予測するのに役立つ。2020年の晩春から夏にかけて、経済活動の再開に伴い最初のうちは失業率が急速に低下して労働市場では「部分的な反発」が当初は見られたが、秋にかけて回復のペースは鈍化し、12月には一時的な反転もおこった。

労働市場の今後の見通しは、ウイルスの推移と今後の政策対応、そして仕事を持たない人のうち、時間のかかる転職や別の産業への就職に挑むのではなく手早くすむ以前の職への復帰をする人がどれだけいるかに依存している。ウイルス感染者数、入院者数、死亡者数は減少を続け、そしてワクチン接種のペースは上昇を続けている。12月のConsolidated Appropriation Actに盛り込まれたCOVID-19の救済措置が、今年のこれまでのところの消費の急増に貢献している。

ウイルスがコントロール下に置かれ、米国議会が1.9兆ドルのアメリカ救済計画のようなものを可決すれば、経済は2021年に急速な成長を支えるのに十分な総需要を持つことになるだろう。この需要は、何百万人もの労働者を職場に戻し、さらに何百万人もの労働者を労働力に戻すことによって満たされる事になるだろう。

 

データ・ディスクロージャー

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