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フランシス・ウーリー 「税による資源配分の歪み ~窓税、レンガ税、固定資産税を例に~」(2012年1月3日)

●Frances Woolley, “The concrete impacts of taxes”(Worthwhile Canadian Initiative, January 03, 2012)


1695年から1851年までの期間にわたり、イギリスでは「窓」に対して税金が課されていた(pdf)。

窓税を賦課するのは比較的容易だった。一人ひとりの納税額を算出するのに、住まいにどれだけの数の窓があるかを数えるだけでよかったからである。窓税は「累進的」な性質を備えた税でもあった。というのも、所得が多い人ほど、住まいのサイズが大きい傾向にあったからである。住まいのサイズが大きいと、それに伴って、窓の数も多くなる。つまりは、窓税の支払額も多くなるわけだ。おまけに、窓税が課されたのは、窓の数が10個以上ある住まいだけに限られていた(その後、7つ以上に法改正された)。窓の数が9つ以下(法改正後は、6つ以下)であれば、窓税の支払いを免除されたのである。

(窓税が課されるために)窓の「値段」が高くなると、どうなるか? 窓に対する需要は減る。そう予想されるが、実際にもそうなった。市井の人々は、住まいにある窓をレンガで塞いだのである。イギリスを歩いて回ると、窓がレンガで塞がれている古い家を今でもあちこちで目にすることができる。

以下の左側の画像をご覧いただきたい。写っているのは1592年に建築された家(ハフ・エンド・ホール)だが、最上階の窓がレンガで塞がれているのが見て取れる。右側の風刺画では、(窓税の支払いを逃れるために、窓をレンガで塞いだ結果として、室内で浴びる機会がめっきり減った)日の光に思いを寄せる人々の姿が描かれている。

 

窓税が課された結果として、「死荷重」が発生することになった。窓税を徴収されて、自由に使えるお金(可処分所得)が減ったってだけじゃない。(窓税の支払いを逃れるために、窓がレンガで塞がれたり、そもそも窓が無い結果として)換気ができない暗い部屋で生活したり働いたりするのに伴って、あれやこれやのコストが発生することになったのである。厚生の損失が生じたのである。シャンタル・ステッビングス(Chantal Stebbings)の論文(pdf)によると、最も大きな打撃を被ったのは都市の貧困層だったようだ。都市の貧困層は、巨大な集合住宅(テネメント)を住まいとする傾向にあった。窓の数も7つ以上あったために窓税を支払わねばならなかったし、大勢が密集して暮らしていて衛生状態も悪く、そのため病気にかかりやすかった。ちょっと想像してみてほしい。(窓が無かったり、窓がレンガで塞がれているために)換気ができない部屋で、石炭を燃やして夕食を調理しなくちゃいけないのだ。(窓が無かったり、窓がレンガで塞がれているために)換気ができない部屋で、結核持ちの人間と同居しなくちゃいけないのだ。富裕層が暮らす家でも、犠牲を強いられたのは貧困層だったりした。上の左側の画像に写っている建物(ハフ・エンド・ホール)なんかまさにそうだが、レンガで塞がれているのは最上階の窓だ。最上階と言えば、大抵は使用人が寝起きする部屋がある場所だ。

窓税は、住宅の設計に対して「目に見える」インパクトを及ぼした最も有名な税金の例ではあろうが、唯一の例と言うわけではない。「レンガ税」というのもあったのだ。イギリスで1784年に導入された税がそれだが、建築資材として使われるレンガに(レンガ1000個あたり4シリングの)税金が課されたのである。レンガ税が導入された結果としてどうなったか? レンガ以外が建築資材として使われるようになった。あるいは、サイズの大きなレンガが使われるようになって、外壁を覆うレンガの総数が減らされた。レンガ税のインパクトをまざまざと捉えているのが左上の画像だ。両隣の建物の間で、外壁を覆うレンガのサイズに違いがあるのが見て取れる。「High St.」と書かれたプレートのある建物の方がレンガのサイズが小さい。「レンガ税」が導入される前に建てられたのが右側(「High St.」と書かれたプレートのある)の建物であり、「レンガ税」の導入後に建てられたのが左側の建物なのだ。

住宅の設計に工夫を凝らして、税金の支払いをできるだけ少なく済ませようとする努力の例は、カナダでも目にすることができる。右側の画像をご覧いただきたい。雪が積もった建物が写っている。オタワにある建物(ジョーンズ・ハウス)(pdf)で、建築されたのは1890年頃。第二帝政式のマンサード屋根(腰折れ屋根)になっているおかげで、一階の上に居住スペースをめいっぱい確保することができている。しかし、固定資産税を課される時には、「二階建て」ではなく、「中二階建て」扱いでいけるのだ。

こと税制に関しては、「悪魔は細部に宿る」との格言があてはまる。固定資産税の額が建物の物理的な特徴(例えば、窓の数だったり、何階建てかだったり)に応じて決まってくるようであれば、納税者の側も黙従なんてしないだろう。どれが窓でどれが窓でないかだったり、家の階数だったりをめぐって、真っ向から突っかかってくることだろう。

税金が絡むとなると、建物のサイズについても念入りに定義しておかなければならない。固定資産税の対象となるのは、建物の外観だけなのか? それとも、建物の内部も対象となるのか? 建物の面積はどう測るのか? 地面と接している部分の面積に応じて納税額が決まってくるのか? バルコニーだとか、張り出し部分だとか、ひさしだとかの面積も建物の面積に含まれるのか? 建物のどこにどのように税金が課せられるかによって、建物の設計に決定的な影響が及ぶ例をいくつか見ていこう。

左側の画像に写っているのは、オタワにあるメイフェア劇場。1944年に撮影されたものだ。一方で、右下の画像に写っているのは、今現在のメイフェア劇場。入り口のひさしが無くなっているのに気付くだろう。現在のオタワでは、建物のどこかが歩道にはみ出していると、その部分に対して税金が課されるのだ。メイフェア劇場の入り口のひさしが取り払われたのは、税金の支払いを逃れるため・・・と言いたいところだが、実はそうではない。理由は別のところにある。しかし、他の劇場では、税金の支払いを逃れるために、入り口のひさしが取り払われた(pdf)のだ。

今もなお、税金は住宅の設計に影響を及ぼし続けている。エジプトでは、住まいが完成していようがいまいが、固定資産税がかかる。ただし、未完成だと納税額は少なくて済む。その結果、作りかけのままっていう例が増えている。以下の画像にあるように、上階の部分が未完成のままなのに中に人が住んでいるというのがよくあるケースだ。

本エントリーで色んな画像を紹介したのは、税による資源配分の歪みの具体例を示したかったからだ。「死荷重」について(需要曲線と供給曲線が描かれたグラフ上の三角形の領域よりも)記憶に残るイメージを抱いてもらおうと思ったからだ。しっくりくるイメージを抱いてもらおうと思ったからだ。

本エントリーで紹介した一連の画像は、課税ベースの広い税金である所得税や消費税の強みを再認識させてくれてもいる。イギリスでは1842年に所得税が再導入されたが、そのおかげで(税収をある程度確保できたおかげで)、不人気極まりなかった窓税を撤廃する余裕が生まれた。付加価値税に頼れるなら、レンガ税に頼らないで済む。(建築資材として使う)レンガのサイズを大きくして納税額をできるだけ抑えようとあくせくしないでもよくなるのだ。優れた税制を構築するには、「課税ベースは広く! 税率は低く!」。


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