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ブランコ・ミラノヴィッチ「『資本主義だけ残った』ギリシャ語版出版記念インタビュー」(2021年1月16日)

On “Capitalism, Alone”: On the occasion of Greek-language publication
Saturday, January 16, 2021
Posted by Branko Milanovic

〔訳注:インタビュー対象となっているミラノヴィッチの書籍“Capitalism, Alone”は、『資本主義だけ残った――世界を制するシステムの未来』〔西川美樹訳、みすず書房、2021年〕として邦訳出版されている〕

――あなたが言っているように、資本主義にオルタナティブが存在しないのなら、フランシス・フクヤマが『歴史の終わり』について語ったのは正しかったのでしょうか?

完全に賛成してはいません。フランシス・フクヤマの「歴史の終わり」では、世界中が「リベラル資本主義」で支配されることが想定されていました。これは、私たちの観察事実と違っているでしょう。それどころか、〔資本主義の〕政治組織には様々な形態があり、1つの形態だけが存在するわけではありません。私が「政治的資本主義」と呼んでいる資本主義(中国、ベトナム、シンガポールなどが代表です)は、非リベラルな政治形態の一例となっています。もっとも、資本主義が、地理的にも価値観の点でも現状において優位であることに、議論の余地はないでしょう。ただ、そういった議論はいかなる時でも歴史的見地における発達過程として把握すべきであり、歴史の「終着点」として捉えるべきではありません。

――あなたの解釈によるなら、「共産主義(コミュニズム)はその役割を果たしている。共産主義は過去にだけ存在していた制度であり、未来はない」とのことです。具現化可能な社会主義体制は、共産主義だけだったのでしょうか? スターリン主義者だけが、〔社会主義は旧ソ連等の共産主義としての具現化しかありえなかったと〕主張します。こんなことを支持する現役マルクス主義者はほとんど見つけられないでしょう。それどころか、〔旧ソ連等の共産主義は社会主義の〕「具現化である」との考えは、社会主義思想への中傷である、との見解が〔現役のマルクス主義間では〕多勢です。

それは完全に間違った見解だと思いますね。「社会主義が実際に具現化した」としましょう。それが“社会主義”だったかどうかを判断するのに、マルクス成分が100%かどうかは判断材料にならないのです。「生産手段を非私有化すること」「経済的決定を中央集権化すること」、これが社会主義の本質的な特徴であり、マルクスをも含有する伝統的な社会主義の概念に完全に一致していたことに疑う余地はないでしょう。一方で、今日の資本主義が「資本主義」であることを私たちは否定していません。まあ、(例えば)「国家の役割が強すぎるだろ」とか、「労働組合が存在してるなんて」とか「税金が高すぎる」といった理由で、リバタリアンやフリードマン信者はそうは思わないかもしれませんがね。私たちが話題にしてきた「資本主義」「社会主義」「封建主義」にしたって、完全に「純粋な」理論的構築物としては、一切存在したことがなかったのです。キリスト教の教義に従っていなくとも、キリスト教の信者が圧倒的多数の社会が存在していることに、私達は異議を唱えないのと似たようなものですね。なので、「実際に具現化した社会主義」は、確かに社会主義だったのです。

――あなたは、現代資本主義には3つのモデルがあり、そのうちの1つである社会民主主義を採用してきた国々が、人類史上前例のないレベルでの繁栄と政治的自由を達成した、と主張しています。すると、「社会民主主義の採用」は、現代社会が直面している問題への解決策である、といまだに言えるのでしょうか?

答えはイエスです。社会民主主義を採用してきた国家は、経済的繁栄、政治的自由、社会的流動性という観点からでは、確かに成功を収めています。社会民主主義は未だに非常に優れたシステムですが、このシステムは、「同質的民族による国家」と「資本と労働の流れが規制された」世界によって「構築された」システムだと私は主張しています。資本と労働の移動が非常に大きくなったことで、社会民主主義的資本主義の核心部分である社会保障制度への圧力が高まっています。「移動する資本」は税金が高すぎると国を出ていく可能性があり、〔労働の移動が高まれば〕「移動する(外国人)労働者」が入ってくる可能性が高まります。資本の流出は社会保障制度への資金供給能力を弱体化させ、外国人労働者の流入は社会保障制度の起源となっている文化的同質性を薄めます。

――私たちは今日「リベラル資本主義」の転回を目撃しています。つまり、「リベラル資本主義」は権威主義的になりつつあり、「政治的資本主義」、あるいは一部の分析家が呼ぶ「中国的特徴を持った資本主義」に近接しつつある、と。この件についてはどうお考えですか?

そうですね、これはいくつかの国で起こっています。しかし、決定的に重要な問題に、政治的資本主義が、リベラル資本主義よりも高い経済成長率を生み出せるかどうかにかかっています。もし政治的資本主義のほうが高い成長率を生み出せれば、他の国々も成長を加速させたいと願い、政治的資本主義のテクノクラシー(技術化主義)的特徴からなんらかを模倣するでしょうし、政治的資本主義の国々の力が相対的に強くなるので、最終的には政治的資本主義が優勢になるでしょう。現在の米中貿易戦争の背景には、経済成長を巡るイデオロギー的な戦いが行われていると私は考えています。

――新型コロナウイルスのパンデミックという現状は、民主主義や社会的正義全般にどのような影響を与えると思いますか?

医療や教育など、公共サービスにおける国家の役割を見直す(高める)方向に各国を導くのではないかと思います。まず新自由主義と、それに続く緊縮財政政策によって、多くの公共サービスにおける人と機能が、実質的に骨抜きにされました。医療や教育は、他のビジネス活動と同じだと見なされてしまったのです。しかし、これらは同じではありません。大きな外部性を持っているからです。人々が皆医療や教育を受けられなければ、経済活動や経済成長はありえないでしょう。人々が満足に医療を受けられなければ、ごく少数が享受する経済成長など無意味です。医療や教育を、普通のビジネスと同じやり方で運営することはできないのです。病院をホテルのように扱い、ベッド数や患者数の最適化を図ることは許されません。このようなやり方を採用した結果、今回の危機において、医療従事者が多大な負担を負い、命を救えなくなっている多くの事例を生んでいます。

――気候変動は、おそらくですが今や人類社会が進化するにおいて、最も重要なパラメーター(制限要因)です。経済学者が、自身の理論において、このパラメーターを無視したり、まるで存在しないかのように扱うことは許されるのでしょうか?

もちろん、経済学者は気候変動に取り組まねばなりません。しかし、それには、「課税」、「補助金」といった伝統的な経済学の手段を用いるべきでしょう。炭素排出の原因となっている活動や製品に課税し、より環境に優しい代替案には補助金を出すわけです。脱経済成長を主張している人たちは、非現実的な知見に基づいています。脱経済成長の支持者達は、世界の成長を止められると信じています。しかし、これを可能とするには、絶望的な貧困状態にある世界人口の10~15%を永遠に貧困のままに留めておくか、豊かな世界の所得を最低でも1/3削った場合に限られます。可能性はこの2択しかないのですが、彼らはこれを受け入れたくないのです。この2つの選択肢は、どちらも望ましいものではないですし、何より実現不可能です。故に、脱経済成長のイデオロギーは間違えているのです。

〔訳注:本サイトの『資本主義だけ残った』に関するエントリは以下となっている。
ブランコ・ミラノヴィッチ「『資本主義だけ残った』:フランス語版出版に際して、マリアンヌ紙によるインタビュー」(2020年9月11日)
ブランコ・ミラノヴィッチ「『資本主義だけ残った』:ブルガリア語版出版記念インタビュー」(2020年12月26日)
ブランコ・ミラノヴィッチ「『資本主義だけ残った』の著者が明かす四つの重要な裏テーマ」(2019年9月24日)
ブランコ・ミラノヴィッチ「『資本主義だけ残った』よくある批判への回答:アリッサ・バティストーニの書評について」(2021年5月14日)
ブランコ・ミラノヴィッチ「『資本主義だけ残った』世界の芸術家の役割」(2021年2月8日)
ブランコ・ミラノヴィッチ「『資本主義だけ残った』 いくつかのマルクス主義的論点:ロマリック・ゴダンの書評への返答」(2020年10月4日)


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