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ボールドウィン & エヴェネット「COVID-19 と通商政策: pt.4」(2020年4月29日)

[Richard Baldwin & Simon J. Evenett, “Introduction,” in COVID-19 and Trade Policies. VoxEU, April 29, 2020]

[pt.3 はこちら

さまざまなショック,さまざまな保護主義

保護主義をとりたくなる誘惑は,さまざまなかたちをとって現れうる.「保護主義」という用語には〔よくない印象の〕負荷がかかっている.さらに,「保護主義」というともっぱら輸入制限ばかり連想されることも多い.そこで,もっといいアプローチをとりたい.それは,〔ある国の〕政府の行動が外国の通商に関わる利益関係者に反する差別となるパターンを網羅することに傾注するアプローチだ [n.9].そうした利害関係者には,輸入者・輸出者・製造業者・外国投資家・知的財産の外国の朱勇者・外国の労働者・外国データの所有者がいる.

大恐慌では,保護主義はもっぱら反輸入のかたちをとった.貿易保護は,関税というかたちをとった.なぜなら,その目標は需要を国内の生産者に向かわせることにあったからだ.関税を設ければ,輸入品の値段が上がって,国内製品に需要が向かうはずだと人々は考えていたが,これは裏目に出た.たしかに海外の生産者から需要を奪うことで〔国内製品への〕需要は高まった.だが,外国も同じように関税を設けて報復した.こうして,保護主義の応酬が過熱していった.近視眼的に需要を高めようと試みると,国々はそろって同じ道を歩み始める.その道がゆきつくところは,あらゆる国で総需要が破壊されるという結末だ.

2008-9年のグローバル金融危機のあと,保護主義は自国への輸入を遮断することよりも自国からの輸出を増やす方向に進む傾向があった (Evenett 2019).図2 が示すように,貿易大崩壊のさなかにも,(そしてとくに)そのあとにも,関税引き上げに影響を受けた産業は安定して増加した.だが,大恐慌のときのように,保護主義の応酬が過熱していく事態はまったく見られなかった.最大にして最速の貿易措置は,輸出インセンティブだった.ここで重要なのは,21世紀になっても貿易差別は依然として健在だがおうおうにして「ステルス状態で飛行中」だということをこの顛末が教えてくれている点だ.現代の貿易差別は,多様であいまいなかたちをとっている.このグラフが示しているように,トランプ政権が「貿易戦争」を初めていらい,関税の役割にはライバルが登場している.

図2: さまざまな貿易歪曲にさらされた産業の割合,2009年-2020年

〔タテ軸は,当該の年(ヨコ軸)に貿易歪曲に直面した世界の産業の割合.グラフの折れ線は,いちばん上から貿易歪曲全体(緑の線).輸出インセンティブ(水色の線),輸入関税の引き上げ(濃い茶色の線),輸入と競合する企業への助成金(薄い茶色の線),輸出制限(濃い緑の線).〕

COVID 危機に関連した各種の保護主義的政策は,大半が反輸入のかたちをとっている.このように介入の方式が(1930年代や2000年代に比べて)急激に変化したのは,理解しやすい.今日の問題は,〔ある一国の〕地域内での供給がないことであって,1930年代のような需要の欠如でもないし,2000年代のような地域内生産の超過でもない.だが,こうした施策も同じくらい近視眼的だ.1930年代に関税が引き金となって需要をつぶしあう関税報復措置の応酬が起きたのと同じように,今日の輸出制限も他国による報復措置の引き金となって,最終的には供給をつぶす結末となるリスクがある.これは,大いなる愚行だ.

WHOの推計 (2020) によれば,COVID-19 感染患者の医療に必要となるキットを医療スタッフに装備させるためには,〔マスクなどの〕個人防護具 (PPE) の産出を全世界で 40% 増やす必要がある.この数字はとてつもなく大きい.1ヶ月当たりで 8,900万枚のマスク,7,600万点の検査用手袋,そして 160万個のゴーグルが全世界で必要となる.この部門では,貿易が決定的に重要となる(表1).

個人防護具の貿易総額は,2017年に800億ドルに達している(現時点では,2017年までしか世界すべての国々のデータは利用できない).そして,この市場では――たいていの市場がそうであるように――世界で指折りの経済大国たちが輸入の大部分を占めている.表1 を見てみよう.左端の2列を見ると,個人防護具の輸入上位5ヶ国には合衆国・EU・中国・メキシコ・日本が並んでいる.その右横の2列を見ると,合衆国は中国からの最大の輸入国でもあることがわかる.アメリカは,中国から 64億ドル分も購入しているのだ.表の右端2列を見ると,中国が合衆国から 14億ドル輸入しているのがわかる.

全体として国々がお互いに依存していることの難問が,ここにある.合衆国は個人防護具の輸入に大きく依存している一方で,個人防護具の大手輸出国でもある.同じことは中国にも言える.それどころか,合衆国は中国にとって最大手の顧客であり,中国は合衆国にとって4番手の顧客だ.平たく言えば,合衆国と中国で個人防護具をめぐって報復の応酬を繰り広げれば,どちらの国も個人防護具の供給を滞らせてしまうだろう.

WHOの推計 (2020) によれば,COVID-19 感染患者の医療に必要となるキットを医療スタッフに装備させるためには,〔マスクなどの〕個人防護具 (PPE) の産出を全世界で 40% 増やす必要がある.この数字はとてつもなく大きい.1ヶ月当たりで 8,900万枚のマスク,7,600万点の検査用手袋,そして 160万個のゴーグルが全世界で必要となる.この部門では,貿易が決定的に重要となる(表1).

個人防護具の貿易総額は,2017年に800億ドルに達している(現時点では,2017年までしか世界すべての国々のデータは利用できない).そして,この市場では――たいていの市場がそうであるように――世界で指折りの経済大国たちが輸入の大部分を占めている.表1 を見てみよう.左端の2列を見ると,個人防護具の輸入上位5ヶ国には合衆国・EU・中国・メキシコ・日本が並んでいる.その右横の2列を見ると,合衆国は中国からの最大の輸入国でもあることがわかる.アメリカは,中国から 64億ドル分も購入しているのだ.表の右端2列を見ると,中国が合衆国から 14億ドル輸入しているのがわかる.

全体として国々がお互いに依存していることの難しさが,ここにある.合衆国は個人防護具の輸入に大きく依存している一方で,個人防護具の大手輸出国でもある.同じことは中国にも言える.それどころか,合衆国は中国にとって最大手の顧客であり,中国は合衆国にとって4番手の顧客だ.平たく言えば,合衆国と中国で個人防護具をめぐって報復の応酬を繰り広げれば,どちらの国も個人防護具の供給を滞らせてしまうだろう.

2017年のデータから判断すると,もしも合衆国が中国への輸出を削減したのと同じように中国が合衆国への輸出を削減したら,合衆国各地の病院で,洪水のように押し寄せるCOVID 感染患者たちの医療を行うのに必要な個人防護具を手配するのがいっそう難しくなるだろう.これは決定的に重要な点だ.なぜなら,合衆国の COVID 感染患者数は――したがって最終的には COVID 感染患者の入院数も――急速に増加中だからだ.

こうした全体の数字を見れば,パンデミックのさなかにあって各国が「自国だけでやれる」と考えてしまう愚行が懸念される.だが,真の邪悪は細部に宿っている.この愚かしさが本当に腑に落ちるのは,生死に関わる医療製品の国際的なサプライチェーンを製品別に詳しく分析したときなのだ.

pt.5に続く


原註

[7] https://www.ft.com/content/c30eb13a-f49e-4d42-b2a8-1c6f70bb4d55
[8] https://www.lefigaro.fr/flash-eco/thierry-breton-estime-necessaire-l-emission-d-obligations-pour-faire-face-a-lacrise-20200402
[9]言葉ではなく行動を強調しているのに留意されたい.言葉で言うのは簡単で,政府の意図をそこから推論するのは難しい.
[10] 2018年から,合衆国はその主な貿易相手国からの鉄鋼・アルミニウム輸入に一方的な関税を設け始め,その大部分で報復を受けている.トランプ政権が中国の輸出品に大きな関税を強制してこれに中国が報復したことで,輸入品にかかる税は大幅に上昇しつづけている.


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