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ポール・クルーグマン「イラクの妖怪」

Paul Krugman, “The Specter of Iraq,” Krugman & Co., July 11, 2014.
[“The Iraq stain,” The Conscience of a Liberal, June 30, 2014.]


イラクの妖怪

by ポール・クルーグマン

TUNIN/The New York Times Syndicate

TUNIN/The New York Times Syndicate

近頃はぼくもイラクがらみの話をめっきり書かなくなってるけど,先日『ニューヨークタイムズ』にジェイムズ・リズン記者が書いたレポートを読むと,あのおぞましさがよみがえってくる.ぼくが言わんとしてるのは,たんに,アメリカ人がウソで戦争に引きずり込まれたってことだけじゃない.ぼくらのメディアと政策エリートたちの大半が,先を争ってイラク討つべしの合唱に加わった.そして,この企ては多くの人命とお金を無駄に費やすことになった.

そればかりか,イラクは道徳的な掃溜めでもあった.虚偽の弁解にもとづいて戦争に引き込まれたばかりか,部分的には国内の政治的利益のためになされたのは明白だった.イラク占領は,一国の名誉がかかった厳粛なタスクとしてではなく,身内・オトモダチに報酬を与える機会として扱われた.そうそう,拷問の件もお忘れなく.

さて,信じられないことに,政治的なコネのある傭兵が重用されただけでなく,その傭兵どもが役人を暴力で脅してたってわかったところで,ある意味で,とんでもなくビックリ仰天ってことはない:「2007年にブラックウォーターの護衛がバグダッドのニソア広場で17名の市民を銃撃して死傷者をだすほんの数週間前に」――とリズン氏は書いている――「国務省はこの軍事会社のイラクにおける業務実態の調査をはじめた.だが,ブラックウォーターの最高経営者が脅迫をかけた後,この調査は打ち切られてしまった.自分は政府の主任調査官を「殺そうと思えば殺せる」,「誰もその件についてなにもできないし,なにもしないだろう」と言ったのだと国務省のレポートは記している.

で,さらにこうくる:「2007年8月に調査をめぐる論争が激しさを増すと,バグダッドのアメリカ大使館当局は,調査官ではなくブラックウォーター社の側についた.これまで非公開だった文書にはそのことが示されている.」

そうは言っても,衝撃の内容にはちがいない.背信行為がどこまで根深いのか,この件は思い起こさせてくれる.

© The New York Times News Service


【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する

明るみにでたブラックウォーターの実態

by ショーン・トレイナー

6月29日,『ニューヨークタイムズ』に,ジェイムズ・リズンによる暴露レポートが掲載された.アメリカによるイラク占領に大きく関わった民間軍事会社ブラックウォーターに対して2007年に行われた調査について彼は書いている.

リズン氏の説明によると国務省職員ジーン・C・リヒターは同社による不正行為を調査したが,「ブラックウォーター社の最高経営者が脅しをかけた後,その調査を放棄してしまった:政府の主任調査官を「殺そうと思えば殺せる」,「誰もその件についてなにもできないし,しないだろう」という脅迫をかけたというのだ.

リズン氏は,これまで非公開だった文書を入手した.ブラックウォーターの元従業員4名がバグダッドのニソア広場で市民17名に発砲した行動をめぐる裁判に関連した文書だ.この事件は,リヒター氏による調査のすぐ後に起きている.2007年8月31日付けの覚え書きで,リヒター氏は自分の経験を要約してこう記している:「イラクにおける我々の契約を管理・監視する管理構造は,当の請負人たちに従属するようになっている.(…)ブラックウォーターの請負人たちは,じぶんたちは法にしばられていないと考えていた.」

この事件の後,アメリカ大使館の当局は,調査官ではなくブラックウォーター社の側についた.ブラックウォーター社はさらに追加の政府契約で2億ドルを受け取るにいたった.

自社の「カウボーイ」文化やニソア広場の射撃事件で幅広い方面から批判されたブラックウォーター社は,イラク政府が2011年以降にアメリカ軍部隊が同国内にとどまることを拒否する際に大きな要因となった.

6月30日に Vox に書いた文章で,マックス・フィッシャー記者はこう論じている――「ブラックウォーターはがイラクであのようなふるまいをしたのは,無残なことだ.国務省がそのブラックウォーターをイラクに置いて,そのまま用い続け,さらには調査の手から守ってやったのは,それにもまして無残だ.」

© The New York Times News Service


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