ポール・クルーグマン「財政赤字に取り乱したって解決にはならないよ」

Paul Krugman “Panicking Over Deficits Is Not a Solution,” Krugman & Co., August 8, 2014.
[“Quadrillions and Quadrillions,” The Conscience of a Liberal, August 2, 2014.]


財政赤字に取り乱したって解決にはならないよ

by ポール・クルーグマン

MEDI/The New York Times Syndicate
MEDI/The New York Times Syndicate

先日,『ニューヨーク・タイムズ』にラリー・コトリコフが「うぇええ赤字こわーい」なコラムを書いてた.きっと,経済政策研究所 (Center for Economic and Policy Research) のディーン・ベイカーがそのうち反駁してくれるだろうと思ってたんだけど,いまのところ,彼が書いてるブログの記事ではじゅうぶん踏み込んでいない.

アメリカの隠れたクレジットカード請求書」と題したコラムで,コトリコフ氏は連邦政府のいろんなプログラムで生じると予想される資金不足の現在割引価値を計算してる.彼の指摘によれば,この数字はほんとにほんとにでっかいそうで,彼はアメリカの破産を宣告してる.

ディーンが言ってるように,こいつはバカげてるか,何か腹に隠してるか,その両方だ.アメリカ経済は将来たくさん成長すると予想されてる.その一方で,実質金利は成長率をほんのちょっぴり上回ると予想されてる.

ってことは,国内総生産の1パーセントにのぼる歳出と歳入の差額〔赤字〕がずっと続いたとして,これを現在価値に変換すれば,でっかい数になる.ところが,予想される将来の GDP の現在価値もやっぱりとてつもなくでっかい数になる――少なくとも,2,000兆ドルにはなるのよ.さて,この歳出と歳入の差額は,これに対応するのに利用できるリソース〔GDP〕と比べて,大きいってことになるかな? クリストフ氏は,判断する方法をなんにも述べてない.

ここで問うべきなのは,「これから財政収支が現実にどうなっていきそうか」ってことと,「なにかなすべきだとして,将来の展開をよくするためにいまなにをすべきなのか」ってことだ.

たしかに,現在の政策がなんの変化もないままずっと続けば,じゅうぶんに遠い将来まで見通せば,いつか維持不可能な財政赤字に直面する見込みはきわめて強くなる――永遠に続けるのは不可能な赤字になる.そこで,スタインの法則の出番だ:「永遠に続き得ないものはそのうち止まる.」 遅かれ早かれ,福祉削減および/または歳入増加をなんらかのかたちでやることになる.

だからって,これを指して「アメリカは破産だ」って言うのは誇張ってもんだ.そして,もっと大事なことは,手の打ちようがないわけじゃないってこと.じゃあ,いますぐぼくらがなすべきことってなんだろう?

財政破綻でたいへんだって錯乱してる人たちがそろって口にする答えは,ようするに「将来の福祉を削減すべし」ことだ.だけどさ,正確なところを聞かせてほしいんだけど,なんでそれがいますぐしなくちゃいけないことになるの? ここで想定されてる論理をはっきりと言葉にするなら,どうやらこうなりそう――「将来の福祉削減を避けるためには,将来の福祉を削減しなくてはならん.」 これまで何度も「もっと明快に言ってみてよ」と質問してきたんだけど,一度も答えてもらったためしがない.

「急激な変化は避けた方がいい」って議論もできる――持続可能になる方向へ,物事をじょじょに変えていく方がいいとは言える.だけど,いま飛び交ってる「破綻だ!」「危機だ!」って叫びから予想される主張と比べて,そいつはまたずいぶんと弱い主張だよね.

Dr.イーブルみたいに「2000億ドル」を振りかざしたって,なんの役にも立ちゃしない.いや,ホントの目標が,人々をおどかして,先制攻撃的に福祉国家の解体に追い込むことにあるなら,話は別だけど.

© The New York Times News Service

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