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マーク・タイラー「19世紀のイギリス貴族とアメリカ成金の同類婚」

Mark Taylor “The Downton Abbey effect: British aristocratic matches with American business heiresses in the late 19th centuryVOXEU,  September 5,  2021

19世紀後半におけるイギリスの農産物価格の下落は、貴族に加え、土地を所有する「平民」の収入もまた縮小させた。良縁の結婚によって資金を得るという伝統を続けるため、イギリス貴族は大西洋の対岸であるアメリカの、多額の持参金はあるがアメリカ基準においてすら全く名門ではない女性相続人に目を向けた。本稿では、アメリカの大実業家の娘たちをイギリス貴族との結婚に導いた社会・経済的な力について検討する。


グランサム伯:金目当ての男と結婚してたら彼女は幸せになってたっていうのか?
グランサム伯夫人:かもしれないわ。私がそうだったもの。

ダウントン・アビー シリーズ1、エピソード1

世界中で人気のテレビドラマ、ダウントン・アビー1 (Fellowes 2012)の初回における、いい子ぶる夫に対するコーラ夫人のこの軽いお叱りは、先祖代々の邸宅とグランサム伯爵家を破産から救ったのが、1880年代に彼女がこのイギリス名家に嫁ぐために自分の故郷である工業都市ピッツバーグから田舎のヨークシャーに持ってきた多額の持参金であったことを思い起こさせることを意図している。この架空のストーリーは現実世界の傾向に基づいたものだ。第一次世界大戦勃発以前の40年間で、アメリカの大実業家たちの娘100人が爵位持ちのイギリス貴族と結婚している(Montgomery 1989, De Courcy 2017)。別の言い方をすれば、「1870年から1914年の間、優に10%の(男子)貴族の結婚がこの新たなパターンを辿った」(Cannadine 1990)のだ。一般的にイギリス貴族階級は、世界で最も排他的な集団(イギリス王室を除く)であるとみなされていたことを踏まえれば、これは特筆すべき現象だ。

筆者の最近の論文(Taylor 2021)の前提となっているのは、貴族の所領の収入のみならず土地を保有する「平民」(つまりは非貴族)家系の収入を縮小させた19世紀最後の四半世紀におけるイギリスの農産物価格の急速な下落が相当割合の男子貴族をして、従来の収入源、すなわち所領はあるが爵位はないイギリスの家系の花嫁の代わりに、潤沢な持参金のあるアメリカの女子相続人と結婚するように仕向けたというものだ。

イギリスの農産物価格は、アメリカにおける鉄道・大草原の開発や、蒸気船の登場といった複数の理由によってイギリス市場が安価な大草原産小麦で席巻されたことで、1870年代半ばに下落を始めた。その一方、アメリカでは上流社会は金ぴか時代(Gilded Age)に富を築いた裕福な新興実業家を敬遠していた。東海岸の上流社会は、オランダやイギリスからの最初期の入植者にまで遡る一族たちが用心深く守ってきたものであり、彼らは成金の実業家とその家族を社会的に排斥していた。さて、それでこうした裕福な新興一族はどうしたか。彼らは社会的に名家となるための手段として、費用を顧みずにイギリス貴族に嫁いだのだ。

この傾向は、1874年にニューヨークの金融家レオナルド・ジェロームの娘、ジェニー・ジェロームと第7代マールバラ公爵の三男ランドルフ・チャーチル卿との結婚(ウインストン・チャーチルを生み出した組合せだ)に端を発するとみられる。レオナルド・ジェロームはこの結婚の持参金として50,000ポンド(現在の価値で約650万ドル)を支払った。その2年後、西インド諸島の砂糖プランテーションで富を気付いた後にロードアイランド州ニューポートに移住したアントニオ・イズナガのの娘、コンスエロ・イズナガがマンチェスター公爵の嫡男と結婚し、王室を除けば最高位の社会階級がアメリカの実業家一族の手の届くうちにあることが示された。この時の持参金額は200,000ポンド(現在の価値で約2,600万ドル)だった。

この期間においておそらく最も名高い(あるいは悪名高い)アメリカ人とイギリス貴族の結婚は、この傾向がピークに達した1895年に起きたものだ。アメリカの鉄道王ウイリアム・K・ヴァンダービルトの一族が、彼の娘コンスエロが第9代マールバラ公爵に嫁いだことでイギリスにおいて最も名高い貴族一門の一つに名を連ねることになったのだ。この持参金額は250万ドル(現在の価値で8,200万ドル)で、マールバラ公爵家の資産を回復し、壮麗なマールバラ先祖代々の邸宅であるオクスフォードシャーのブレナム宮殿を文字通りに修復(restore)したのである。

図1は、1700年から1899年にかけて生まれたイギリス人男性の20年毎のコホートについて、イギリス貴族と非貴族の間の婚姻(外婚)の割合と、その33年後におけるロンドンの小麦の実質価格の20年平均(33は18世紀と19世紀におけるイギリス貴族の平均結婚年齢)を示している2 。小麦価格の下落と土地持ちの一族からの貴族家への嫁入りの割合の間の正の相関は衝撃的だ。小麦価格が下落するにつれて、外国人との「外婚」が増えるのも同様だ。

図1:イギリス貴族と外国人、イギリスの「土地持ち」・実業家一族との「外婚」と小麦の実質価格

注記:イギリス貴族男子の外国人、イギリスの「土地持ち」・実業家一族との「外婚」の割合に関する時系列データはThomas (1972)による。RWheat(+33)はロンドンにおける小麦の平均実質価格(1クオーター当たりの価格(シリング)、消費者物価指数で調整後)を出生コホートの期間に合わせた20年間隔、ただしその33年後のもの。したがって、例えば、1740年から1759年にかけての数値は、1773年から1792年にかけてのロンドンにおける小麦の平均実質価格であり、これは1740年から1759年にかけて生まれたコホートの結婚が見込まれる期間における小麦の平均実質価格に相当する。小麦価格のデータの出典は1700念から1769年が Clark (2004)、1770年から1914年がSolar and Klovand (2011)による。小麦化価格のインフレ調整に用いた消費者物価指数の出典はClark (2018)による。

論文において筆者は、単純な確率理論を用いてこの長期間にわたるこれらの相関が純粋な偶然によって表れる尤度が僅少であることを示している。また、貴族によるアメリカの女性相続人との結婚は、小麦価格が下落した19世紀の大半にわたってアメリカ以外の外国人女性との結婚もイギリスの非貴族土地所有一家の女性との結婚にとって代わったというより広義の、目立たない現象の一部であることも筆者は示している。さらに筆者は、18世紀と19世紀全体を通じて、実業家一家との結婚が土地所有一家との結婚に取って代わったという重要な証拠も見出している。図1に示されている通り、この傾向は外国人花嫁の受入れ割合と比して目立たないものの、それでも2世紀をの間上昇を続けたのだ。

経済学上の用語で言えば、この結果は結婚市場における「同類婚」(Becker 1973)を花婿への一時払いの資金移転(つまりは持参金、Becker 1991を参照)で補完したものと整合的だ。農産物価格が下落していた期間、所領に依拠する貴族が一番お金を必要としていた際に土地所有一家は一時払いの資金移転を行うのには資金繰り上の制約があったため、非土地所有ではあるが裕福な一家が土地を所有していないことによる地位の低さを埋め合わせるための高額な一時金を提供することを良しとしたのかもしれない。この現象は「ダウントン・アビー効果」とも呼べるだろう。

参考文献

●Becker, G S (1973), ‘A Theory of Marriage: Part I’,  Journal of Political Economy 81(4): 813–846.
●Becker, G S (1991), A Treatise on the Family, enlarged ed., Cambridge: Harvard University Press, 126–129.
●Cannadine, D (1990), The Decline and Fall of the British Aristocracy, New Haven: Yale University Press, 347. 
●Clark, G (2004), ‘The Price History of English Agriculture, 1209–1914’, Research in Economic History, 22: 41–124. 
●Clark, G (2021), ‘What Were the British Earnings and Prices Then? (New Series)’ Measuring Worth. 
●De Courcy, A (2017), The Husband Hunters: American Heiresses Who Married into the British Aristocracy, New York: St Martin’s Press. 
●Fellowes, J (2012), Downton Abbey: The Complete Scripts, Season One, New York: William Morrow. 
●Montgomery, M (1989), Gilded Prostitution: Status, Money and Transatlantic Marriages, 1870–1914, New York: Routledge. 
●Solar, P M and J T Klovland (2011), ‘New Series for Agricultural Prices in London, 1770–1914’, Economic History Review 64(1): 72–87. 
●Taylor, M P (2021), ‘The Downton Abbey Effect: 18th and 19th Century British Aristocratic Marriages and Agricultural Prices’, CEPR Discussion Paper 16209.
●Thomas, D N (1972), ‘The Social Origins of Marriage Partners of the British Peerage in the Eighteenth and Nineteenth Centuries’, Population Studies 26(1): 99–111.

  1. 訳注;イギリスのテレビドラマ。第7代グランサム伯であるロバート・クローリーの妻、コーラ夫人(=グランサム伯夫人)は元々アメリカの富豪の娘。 []
  2. 訳注;例えば、グラフ横軸の1700年から1719年の部分は、この時期に生まれた男子の外婚率を橙、青、灰の線で示すとともに、これらの男子の平均的な結婚時期である1733年から1752年にかけての小麦の平均価格を緑の線で示している。 []

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