アティフ・ミアン, アミール・サフィ「信用供給と住宅投機」(2018年8月19日)

Atif Mian, Amir Sufi, “Credit supply and housing speculation“, (VOX, 19 August 2018)


「資産価格バブルというものは、信用の成長に依存する」、と。本稿は、合衆国で2003年の晩夏にみられた合衆国民間ラベルモーゲージ証券化市場の加速に着目する。この出来事は、モーゲージ貸付に関して伝統的に預金受入型ファイナンスに依拠してこなかった貸し手のファイナンシングコストを、アンバランスに減少させた。この種の貸し手に対する露出がより大きかったzipコードにおける貸付の急増、これが住宅価格の好況と恐慌をうみだしたのである。より容易に調達できるようになった信用は、住宅価格と建築の双方で好況を体験したバブル都市を説明するうえでも、決定的に重要な因子であるようだ。

チャールズ・P・キンドルバーガー。世界を牽引したこの金融危機の専門家は、かつてこう記している。「資産価格バブルというものは、信用の成長に依存する」、と (Kindleberger and Aliber 2005)。ノーベル経済学賞を受賞したバーノン・スミスも、幾つかの実験環境から得たエビデンスを記述しつつ、バブルの規模は個人が借り入れを許されたとき拡大することを明らかにした (Porter and Smith 1994)。さまざまな経済理論家がこの教訓を真摯に受け止め、〈信用調達の容易化が、投機的買いの増加をとおして資産価格の高騰を助長する〉 モデルを書き記している (Allen and Gorton 1993, Allen and Gale 2000)。

信用とバブルをめぐるこの理論の中核にあるのは、〈信用調達の容易化は、資産評価の高めな楽観主義者が攻め気の資産購入をおこなうこと、したがって住宅価格の押し上げることを許してしまう〉 との発想である (Geanakoplos 2010, Simsek 2013)。たとえ楽観主義者は全体人口のほんの一部にすぎないとしても、信用調達の容易化はこの小集団が市場に大きな影響を及ぼすことを許してしまうのだ。くわえて、この楽観主義者がある日突然信用へのアクセスを失えば、もっと悲観主義的な個人が資産の購入をする気になる前に、資産価格は暴落するだろう。以上のひとつの帰結として、信用利用可能性の変動は、資産価格の変動の振れ幅を増幅させるのである。

我々の最近の研究はこの発想を検証するもので、2000年から2010年にかけて合衆国でみられた住宅価格の好況と恐慌に焦点を合わせている (Mian and Sufi 2018)。本研究でのフォーカスは或る自然実験に置かれている: 2003年の晩夏にみられた民間ラベルのモーゲージ証券化 (PLS) 市場の加速である。PLS市場の突然の高騰。それはより広いグローバルな文脈においてこの時期にみられたシャドウバンキングの勃興の一部をなすものだったのだが、この出来事は、モーゲージ貸付に関して伝統的に預金受入型ファイナンスに依拠してこなかった貸し手によるファイナンシングコストを、アンバランスに減少させた。本研究が明らかにするところ、伝統的に非預金型ファイナンスに依拠してきた貸し手、例えばCountryWideやAmeriquest Mortgage Companyなどは、2003年の晩夏になると突如としてモーゲージ貸付を増加させるが、PLS市場に加速が生じたのも、ちょうどこの時期だったのである。

この突然の信用利用可能性の増加が住宅市場にもたらした影響を検証するため我々が利用したのは、これら貸し手の2002年時点での拠点について、合衆国における諸般の地理エリア間でみられた差異である。貸し手が伝統的に非預金受入型ファイナンスに依拠してきたzipコードでは、モーゲージ貸付の突然かつ相対的にみて大きな増加が、ちょうど2003年にPLS市場の加速が生じた時期に目撃されている。本研究で示す幾つかの結果は、以上が健全な実験であったことを示唆する – これらzipコードにおける突然かつ大きなモーゲージ貸付の増加はPLS市場の加速に由来するもので、該当zipコードで生活していた人の側に、所得見込の変化または住宅価格に関する考えの変化といった何らかの別のファクターがあったためではなかったのである。

信用利用可能性が資産価格に作用するようなモデルとも整合的だが、これらzipコードにおけるモーゲージ貸付の急増は、住宅価格の好況と恐慌をうみだした。実際に2002年の時点における非伝統型の貸し手に対する露出度は、2006年から2010年にかけての住宅価格崩壊の深刻度を予告していたのである。

またさらに、合衆国の都市のなかでもこれらの貸し手に対する露出が大きかったところほど、好況期をとおして住宅価格と建築活動の双方に同時的な増加がみられる傾向が高くなっていた。ところで、ラスベガスやフェニックスをはじめとするこの種のバブル都市は、経済学者の悩みの種となっている。というのも、標準的モデルの殆どでは、さらなる住宅単位の建築が容易に行える状況は、住宅価格成長に上限を画すものとされるからだ。本研究結果が示唆するところ、信用調達の容易化は住宅価格と建築の双方で好況を見たバブル都市を説明するうえで、決定的に需要な因子だった。さらに我々は、こうした都市では2006年から2010年にかけてとりわけ苦痛に満ちた恐慌が目撃されていたことも明らかにしている。

本研究独自の長所としては、信用調達の容易化が市場に呼び込んだ限界的な住宅購入者を追跡できた点があげられる。PLS市場に対する露出がより大きかったzipコードでは、2003年から2006年にかけて取引高の相当な増加が目撃されているが、この取引高の増加は、ほぼ全面的にフリッパー (flippers: すなわち、複数の住宅を短期間のうちに売り買いする者) に牽引されたものだったのである。この種のフリッパーは全体人口のわずかな部分を占めるに過ぎなかった – 我々の推定に従えば、2005年と2006年ではフリッパーは成人人口全体の1%に満たない。全体人口のごくわずかな部分に過ぎないフリッパーが、それにもかかわらず住宅市場に対しアンバランスに大きな影響を及ぼしえたのは、信用が容易に調達できたからである。

これら研究結果は、〈信用調達の容易化が、攻め気の買手からなる小集団に対し市場全体へ作用を及ぼす力を与えることで、資産価格を押し上げうる〉 ようなモデルを支持する。調達容易な信用が現存する場合、住宅価格の大きな上昇を生みだすのにも、住宅市場をめぐる楽観主義の全般的な昂揚は必ずしも必要ないのである。

ミシガン大学消費者サーベイ調査 (Michigan Survey of Consumers) からのエビデンスもこの結論を支持する。先行研究で明らかにされてきたように (Piazzesi and Schneider 2009)、全体人口のなかで 「家を買うのに良い時期だ (it is a good time to buy a home)」 と述べた人の割合は、実際のところ2003年から2006年にかけての住宅ブームをつうじて 低下 している。我々はさらにこのエビデンスに加えて、個人のうち 「いまが家を買うのに良い時期だ (now is a good time to buy a home)」 と述べた者の割合の低下が最も大きかった都市では、PLS市場の煽りを受けた住宅価格の大きな上昇がみられていたことも明らかにしている。平均すると、PLS市場によりフリッパーのトレード狂騒が激化した都市では、個人は住宅市場についてどんどん 悲観主義的 になっていったのである。つまり調達容易な信用は、一部都市においては、該当都市の平均的な個人が住宅市場に愛想を尽かせているような場合でさえ、個人の小集団による住宅価格の押し上げを許してしまったのである。

PLS市場によって過熱したフリッピング行為は、モーゲージデフォルト危機を勃発させた要素として決定的に重要なものだった。PLS市場に対する露出が最大規模であったzipコードでは、早くも2007年にはフリッパーのデフォルト率が20%を超えていた。モーゲージデフォルトのうち、PLS市場に対する露出が最大規模であったzipコードが全体で占める割合は、2007年になって増加した。2008年・2009年までにはデフォルトは国全体で増加しはじめていたが、我々のエビデンスが示唆するところ、モーゲージデフォルト危機の引き金はPLS市場に端を発するデフォルトだったようだ。

この恐慌は信用と資産価格の相互作用について幾つもの重要な教訓を与えてもいる。PLS市場に対する露出が最大規模であったzipコードの買手は、その殆ど全てが、2003年から2006年にかけての住宅の購入にモーゲージを利用していたが、2007年およびそれ以降になると現金での買手の割合が急増する。この傾向は、〈価格暴落が起きた理由の一端は、信用の緊縮化が楽観主義者にセルオフ (sell-off) 期の住宅購入を敬遠させたところにある〉 との発想と整合的だ。つまり、より悲観主義的な、現金による買手が、限界的な価格の決定者となったということである。緩和的な信用が好況期の価格を押し上げ、緊縮的な信用が恐慌を悪化させた。信用の変動と資産価格の変動は、緊密に繋がっているのだ。

参考文献

Allen, F and D Gale (2000), “Bubbles and crises,” The Economic Journal 110(460): 236-255.

Allen, F and G Gorton (1993), “Churning bubbles,” The Review of Economic Studies 60(4): 813-836.

Geanakoplos, J (2010), “The leverage cycle,” NBER Macroeconomics Annual 24(1): 1-66.

Kindleberger, C P and R Z Aliber (2005), Manias, panics and crashes: A history of financial crises, Palgrave Macmillan.

Mian, A and A Sufi (2018), “Credit Supply and Housing Speculation,” NBER Working Paper 24823.

Piazzesi, M and M Schneider (2009), “Momentum traders in the housing market: survey evidence and a search model,” American Economic Review 99(2): 406-11.

Simsek, A(2013), “Belief disagreements and collateral constraints,” Econometrica 81(1): 1-53.

 

Total
16
Shares

コメントを残す

Related Posts