クシシュトフ・クラコウスキー&アンセルム・ヘイガー「監視は国家統治において有効なのだろうか?」(2022年6月3日)

監視が、反対意見を阻止する有効な手段かどうかについては、社会科学における長年の問題となっている。ところが、これは答えをだすのが難しい問題である。

Does Surveillance Work?
Posted on June 3, 2022 by Krzysztof Krakowski & Anselm Hager

2006年にアカデミー賞を受賞した映画『善き人のためのソナタ』では、二人のシュタージ〔東ドイツの秘密警察〕の捜査官が、劇場の公演を監視している。一人は双眼鏡を覗きながら、安心した様子で、監視対象の劇作家を「どうやら彼は反体制派の作家ではないようだ」と結論を下す。もう一人の捜査官は、「彼の監視は必要だ」と返答する。こうしてドラマは展開する。劇作家は盗聴され、街で見知らぬ人に尾行され、手紙は検閲される。劇作家は、ブラックリストに載った親友が自殺したことで、耐えられなくなり、反体制派に加わる。劇作家を、反対体制的な言動にコミットさせたのは、監視だったのだろうか?

監視が、反対意見を阻止する有効な手段かどうかについては、社会科学における長年の問題となってきた。ところが、これは答えをだすのが難しい問題である。一つに、監視は通常、隠蔽されていることだ。また、監視は無作為に行われていないこともある。さらに、独裁的な政権は、監視の痕跡を隠そうとあらゆる手を尽くす。例えば、ベルリンの壁が崩壊したとき、シュタージは手持ちの資料のほとんどを破棄してしまった。とはいえ、中国やベラルーシ、そして東欧諸国では監視組織の規模が巨大であることから、独裁政権では、監視が反体制勢力との戦いに役立つと信じているようである。

理論的には、監視は有効である

理論的には、監視は「有効である」と考えるのに十分な根拠がある。反体制運動の効率化には、良好なコミュニケーション、効率的な組織、信頼が必要だ。監視は、この3つの要素を阻害する。監視によって、政府は情報の伝搬を撹乱し、反体制勢力のネットワークに潜入し、おそらくもっとも重要だが不信感を植え付ける。ゆえに、研究者の多くは、監視が抵抗運動を抑え込むのに有効であると主張している。

集団レベルでは、監視は国民に恐怖を植え付け、それによって個人レベルで政権に抵抗しようとする衝動を適切に抑制できる可能性がある。監視された経験は、ほとんどの場合で、脅迫的に法律を遵守するように人を追い込む。共産主義時代ポーランドで、反体制活動家だったエウゲニウシュ・ガトナルは、回顧録の中で以下のように述べている。「秘密警察に尾行されていることは知っていた。私はいつも自分に言い聞かせていた。赤信号で道路を横断してはならない。路面電車では切符を切れ、と。」

理想 vs. 現実

監視を効果的にするためには、ほぼ間違いなく秘密裏に、しかも焦点を絞って行わないといけない。しかし、監視の実態は、この理想からはかけ離れている。監視対象となる集団は、大抵の場合で自分たちが監視されていると気づく。例えば、共産主義時代ポーランドのある反体制活動家は、カトヴィツェの大学内に潜む秘密警察について「彼らは秘密裏に監視していたが、うまくいってなかった」と回想している。秘密警察が学生団体に潜入していることは誰もが知っており、団体の参加メンバーは強い警戒心を抱いていた。

「焦点を絞った監視」にも問題があった。シュタージやポーランドの公安警察(SB)は、無差別に個人を監視し、市民の私生活に関する詳細な情報を収集していたことで知られている。そうした集められた情報のほとんどは、反政治的ものとは無縁だった。チェコが共産主義時代だった時の反体制活動家だった、ヨゼフ・スクボレッキーは「[秘密警察]が情報を収集するのは、収集が自己目的化しているからだ。とにかく情報を集めておけば、誰かを告発する口実を得られるかもしれないから集めている」と述べている。

実際、監視は、全体主義的で抑制的な弾圧に変貌する可能性があった。国家は、少数の重要な反体制派の人物を標的することは少なく、国家は多数市民の私生活を無分別に侵害することが多かった。そして、市民もそれを認識していた。そのため、監視は屈辱をもたらす弾圧となり、市民の怒りを募らせた。ガーは「人は、避けられず、耐えられない不快な刺激にさらされると、その原因を攻撃する生得的な性質を持っている」と指摘している

監視はどのように裏目に出るのか

我々の新しい論文では、共産主義国家ポーランドの詳細なデータを用い、監視に関する相反する理論的考察を検証した。アッパージレジア地区の297の集団を対象としていた秘密警察の諜報員に関する機密解除されたデータを用い、監視の発生率を測定した。「監視は有効」との一般的な考えに反して、我々の研究では、秘密警察の諜報員は、ストライキや反体制的抗議活動を結果的に活性化させていたことが明らかになった。監視対象となっていたストライキは、最終的に1989年のポーランドの〔社会主義〕政権を打倒した「連帯(Solidarność)」運動の基礎となった。監視は逆効果となったようである。

しかし、監視が抗議活動を引き起こしかどうかを判断するのは難しい。もしかしたら、政府が、反体制派集団に、〔効果的に〕秘密諜報員を配置していた可能性もある。この問題に対処するため、我々は、買収されたカトリックの神父の存在を計測値変数として使用した。1950年代、カトリックの神父は、積極的に秘密警察の諜報員の役割を担っていたが、監視集団にこの手の買収された神父がいるかどうかは、完全に外生的なものとなっていた。神父を秘密警察の計測値として使用すると、強い監視下にある集団では、抗議活動が増加していることが確認される。

秘密警察の司令官の人数とポーランド南部のアッパーシレジアの地域全体での連帯ストライキの発生件数との相関関係

なぜ監視は逆効果だったのだろう?

共産主義国家ポーランドでは、なぜ監視が抗議活動に火を付けたのだろう? 我々の論文では、まず監視された個人が、反体制運動に参加する動機について調べた。アーカイブ化された資料を参照すると、監視は広範に怒りを引き起こしたことが分かる。ポーランドでは、反体制派は、監視されることで屈辱を感じ、最終的に街頭での政権への怒りの表明につながったと考えられる。共産主義国家ポーランドの著名な反体制作家レオポルド・ティルマンは、以下のよう述べている「[秘密警察]は私より、私が11月に何をしていたか知っていたのだ。11枚あった下着のうちどれが一番好きだったのか。[…]これが、私を多いに突き動かした」

しかし、怒りだけでは、非常に危険な集団的試みだった「連帯」の成功を説明できない。そこで、我々は、監視がどのように反体制的な集団行動を強化したのかを調査した。意外なことに、共産主義体制における監視で特徴の一つとなっていた、民間の情報提供者への大きな依存が、巨大な弱点となっていたことが判明した。民間での情報提供の広範な拡大は、監視が身近が知人や親族にも及ぶことになった。結果として生じた不信感は、〔相互監視によって〕反体制派の組織化を困難にした可能性がある。しかし、不信感の拡大は、『善き人のためのソナタ』の劇作家のように、市民に公共空間で本当の忠誠心を明らかにするインセンティブをもたらしたと我々は主張する。公然とした反体制的な行動を取ることで、人々は自分が〔秘密警察の〕協力者でないことを友人たちに証明したのである。例えば、自身に対する疑惑に対抗するために、公開ハンガーストライキが行われた、との証言が存在している。そして、多くの人がこうした活動に続いた。

ポーランド以外の国での監視と反体制活動

共産主義国家ポーランドでの調査結果は、他の体制における監視と比較可能だろうか? この問題に取り組むため、我々は、世界中の抑圧的な体制について包括的な見解を提供している、アメリカ国務省の「人権に関する国別報告書」(h/t to Chris Farris)を利用した。この報告書に基づいて、1981年から1986年間の202カ国における監視活動を測定し、監視情報を世界の抗議活動のデータと照合した。興味深いことに、ポーランドのケースから得られた結論は、他の国にも当てはまるようだ。以下の図3は、1980年代を通して、監視活動が、高いレベルでの抗議活動を密接に結びついていたことを示している。これは、共産主義政権だけでなく、非共産主義政権でも同様となっている。また、2019年において、監視活動が抗議活動を引き起こす可能性があることが判明している。

1980年代の202カ国における監視活動の実施回数と、抗議活動の発生件数の総関係

共産主義国家ポーランドにおける監視は、現代にどのような示唆を与えてくれるのだろう? 最初の大きな疑問は、従来の対面での監視の理解が、現代のデジタルでの監視の理解に役立つかどうかである。我々は、デジタルでの監視は、反体制的な抵抗の原動力になる可能性は低いと考えている。原因としてまず挙げられるのは、デジタルでの監視は、従来の物理的な監視に比べて機密性が高い点である。敵があまり可視化されないことを考えると、国民による政権への怒りは低下する可能性がある。さらに、デジタルでの監視は、情報提供者に依存していない。よって、忠誠心の発露を促す重要な前提条件となる、集団内での不信感を醸成しない。現代、ベラルーシ、中国、ロシアにいる反体制活動家は、間違いなく自国体制のレーダーを掻い潜ることが困難となっている。

執筆者

クシシュトフ・クラコウスキー
トリノにあるコレジオ・カルロ・アルベルト政治学部准教授。オックスフォード大学で修士号、欧州大学院で博士号を取得。政治的紛争の社会的帰結について研究している。研究は、American Political Science Review、Comparative Political Studies、Journal of Conflict Resolution、Journal of Peace Research等に掲載。

アンセルム・ヘイガー
ベルリン・フンボルト大学・国際政治学准教授。2017年にコロンビア大学で博士号を取得。開発、抗議、不平等など、比較政治学と国際政治学が交わる問題を研究している。彼の研究のほとんどは、因果推論の現代的手法を使用している。研究は、American Political Science Review、American Journal of Political Science、Journal of Politicsなどに掲載されている。

〔This text is translated by permission of Broadstreet. All attribution of this text, including copyrights, is to Broadstreet.
本文章はBROADSTREETの許可に基づいて翻訳している。著作権等は全ての権利はオリジナルサイトであるBROADSTREETに帰属している。〕

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