Economics Can’t Answer Why Inequality (Sometimes) Declines
November 01, 2015 by Peter Turchin
9月、私はオーストリアのウィーンで開催された国際カンファレンス「持てる者と持たざる者:グローバル・ヒストリーにおける富と所得の不平等を探求する」に行ってきた。この会議については、前回のブログ・エントリで言及しているが、この会議で学んだことの1つが、「経済学者は、不平等が増加したり減少したりする理由を本当に分かっていないんだな。特に減少については」ということだ。
トマ・ピケティから取り掛かってみよう。『20世紀の資本』(いや“Das Kapital”と言うべきか?)は今や不平等を研究する学者の「バイブル」となっているからだ。
ピケティは、不平等が増大する理由について、良い説明を提示している。これは、「皆が同意する」との意味ではない。数学とデータによって裏付けられた一般的なメカニズムを提示した「良い科学になっている」との意味だ。
ここまでは良しとしよう。で、ピケティは、20世紀半ばの不平等の減少をどのように説明しているのだろう? 2つの破壊的な世界大戦と世界大恐慌による、例外的な状況の結果である、とのことだ。下品な言葉になるが許してほしい、これは言い換えれば、「クソな出来事は偶発するのです」だ。
ピケティの結論はあまり満足できるものではない。むろん、不平等は一般的な傾向として常に上昇しているが、時に例外的なランダムイベントが発生して崩壊する、と考えるのは可能だ。すると、破滅的な戦争こそが、財産を破壊し、富裕層を貧困化させて、不平等を減少させる。ピケティは、不平等を減少させる力の一つとして、自著の中で何度もこれ〔戦争による破壊〕を挙げている。
このような外生的な説明は、私的には納得できない。(全ての人に共有されているわけでないと思うが)私の直感によるなら、不平等が高進しすぎると、不平等を低下させる影響要因があると考えられる。言い換えれば、ある程度は〔不平等が高進すれば不平等を低下させる〕規則的なプロセスがあるのだ。これこそが、真に極端な形での不平等(1人が全てを所有している場合)を目にしない理由である。ピケティの見解では、我々がこのような極端な不平等に遭遇していない唯一の理由は、そこに到達する前に、常に何らかのランダムイベントが介入しているからだ、とのことになる。
ブランコ・ミラノヴィッチは、〔カンファレンスの基調〕講演の中で、「何が不平等をもたらすのか」の問題を取り上げている。もし本当に不平等がサイクル的に推移するのなら、不平等が高くなりすぎた場合には、トリガーとなる不平等を押し下げるなんらかの内生的なプロセスが存在しているはずであるとミラノヴィッチは提起している。なんらかのメカニズムが周期的に作動し、繰り返しのサイクルが生成されることになる。
ブランコは、不平等を低下させるかもしれない「悪性の」影響力は、あまり研究されていないのを認めているが、「良性の」影響力については、テクノロジー(technology)、グローバリゼーション(globalization)、政治政策(policy)から文字を取ってTOPと名付け、影響力を3つ挙げている。私からすれば、この3つの内、意味があるのは1つだけである。「政治政策」だ。実際、政府は高所得者や富に課税して不平等を減らすことができる。最初の2つ、テクノロジーとグローバリゼーションに関しては、むしろ不平等を増大させている理由を説明していると思われる。
後日の講演では、ウォルター・シャイデルが、「悪性の」影響力について述べた。ウォルターは“The Great Leveler(偉大なる平等化)”(仮題)〔訳注:『暴力と不平等の人類史』として邦訳されている〕と題された本に取り組んでいるが、この本の中で、彼は歴史上の社会において不平等を減少させてきた4つの影響力を特定している。
- 大量動員戦争
- 変革的革命
- 国家の崩壊
- パンデミック
着目すべきは、これらは全て暴力を伴うので「悪性」であるとされていることだ。つまり、暴力は偉大なる平等化装置なのだ。しかしながら、むろん暴力は種類に応じては、不平等を増大させる結果にもなる。戦争を考えてみよう。征服戦争の多く――例えば、戦闘部族が平等主義的な農民を征服して奴隷にし、勝利者を支配階級に仕立て上げる戦争等は、明らかに不平等を増大させる結果となる。
これが理由で、ウォルターは大量動員戦争に着目している。武装可能な全ての市民(ないし少なくとも全ての武装可能な男性)を強制的に動員する社会は、通常、あるいはいかなる時(?)も、不平等を減らさざるを得なくなるのだ。革命も同様である。革命も全てが不平等を減少させるわけではない。革命は場合によっては、単に圧政を執くエリートを、別のエリートに交換するだけである。しかし、場合によっては、革命は劇的に富を標準化させる。
ヴァン・ウラジミロフ(1869-1947)画『冬の宮殿への襲撃』出典
ウォルターの理論は内生化できると私は思う。つまり、不平等が高進しすぎると、国家崩壊や変革的革命の可能性が高まるわけだ。他案あるいは、追加案だと、巨大な不平等を抱えた社会は、それより平等な社会に打ち負かされるので、不平等な社会は撲滅されるか、不平等が現実的課題となり、縮小が余儀なくされるわけである。
私の見解では、ウォルターの理論は、重要な何らかを捉えているが、2つの点で不完全である。第1に、暴力はある状況だと不平等を増大させ、別の状況では不平等を減少させる。この理由について理解を深める必要がある。第2に、暴力以外でも不平等を減少させるメカニズムがあると私は考えている。ただ、これに関してはあまり自信がない。もしかしたら、私が楽観主義者であるが故だけの願望かもしれない。
結論。経済学は不平等の動態の説明において、その能力でもって何らかを教示してくれるのだろうか? 私の意見では、経済学は不平等が拡大する理由は十全に説明できているが、不平等の減少については経済以外の影響力の帰結となっているので、説明できていない。なので、社会が歴史上、どのようにして格差を縮小させたのかを理解したいのなら、我々は経済学を超え、歴史学・社会学・人類学からの洞察を取り入れる必要がある。
そして、我々が暴力無しに、不平等を減らす方法を見つけ出せるのを、私は確かに願っている。
〔訳注:以下、コメント欄で行われた文化進化論の創始者ピーター・リチャーソンとのターチンのやり取りである。〕
ピーター・リチャーソン 2015年11月1日午後10時7分
政治闘争は、必ずしも[多くの]暴力を伴わずに、不平等を減らすことができるように思えます。米国において、19世紀後半から1950年代にかけての労働争議は、不平等の強制的な縮小に大きな役割を果たしています。合衆国のエリートは、労働者に経済的パイの公平な分け前を与えるか、最終的に革命に直面するかの選択に直面したのです。フランクリン・D・ルーズベルトや似たような思想の持ち主が先導したように、政治的エリートは、革命を回避するために、不平等の縮小をビジネスエリートに強要しました。2度にわたる戦時の大規模な動員がなければ、このような縮小が起こっていたのかどうかは疑問の余地がありますが、組合の組織化と急進的な政党による扇動は、エリートに恐怖を与えたのです。これは、パーマー・レイド [1] … Continue readingとエドガー・フーバー [2]訳注:FBI初代長官。赤狩りにも大規模に関与している。 による過剰な反応に繋がっています。しかしながら、こういった〔政治闘争〕活動は、中産階級の子息達によって緩慢に行われました。これは、自身の地位に汲々としているエリート達を不安に陥れたのです。こういった活動に従事した中産階級の子息達達は、平等主義達達による「赤」の力の誇示を助けたかもしれません。確かに「革命の脅威」は、エリート達を相当に効果的に抑圧できるのです。
ガンジー流の非暴力も、非常に効果的なことがあります。もし、非暴力に狂信的にコミットしている、非エリートの大集団を組織できたとしましょう。すると、エリートは、非暴力の狂信者達が突如暴力的に憤った場合に、何が起こるかを心配しなければならなくなります。中国共産党は、法輪功のような一見無害な大規模集団組織を本当に恐れているようです。不平等、もしくは不公平な扱いが一般化されていれば、ノンポリの大規模集団組織は、エリートにとっての脅威となるのです。このような組織は、残虐行為が一滴垂らされると、暴力的な抵抗に豹変する可能性があります。
ピーター・ターチン 2015年11月2日 午前5時6分
どうも、ピート。あなたの指摘に完全に同意します。以上は、私がイオンマガジンの論文で述べた「簡単に言えば、平等を取り戻すのは革命への恐怖なのだ」との点で非常によく似ていますね。
http://aeon.co/magazine/society/peter-turchin-wealth-poverty/
なので、ウォルターの指摘は修正されるべきです。「不平等を減らすのは暴力、もしくは暴力への恐怖である」と。まだ幾分悲観的ですが…。
””これは言い換えれば「粗雑さをお許しください。厄介事は偶発するのです」ということだ。”In other words, and forgive me for crudeness, shit happens.
これは粗雑さ=Shitであり
『言い換えるならばー私の下品な言葉遣いをお許しくださいークソな出来事は偶発するのです』
と訳すべきではないでしょうか?
つまり forgive me の”me”が指しているのはターチンその人。
ありがとうございます。さっそく反映させました。また誤訳等あるとご指摘していただけると幸いです。