ホドラー&ラスキー「世界どこでも政治指導者は地元がお好き」

Roland Hodler, Paul Raschky “Regional favouritism across the world” (VOX, 28 May, 2014)

政治指導者は、自分の好む地域に便宜を図ることがある。本稿では、政治指導者の出身地と夜間照明強度についての情報を用いて、各国における地域への便宜に関する大規模なサンプルについて検討する。政治指導者の出身地となることは、夜間照明強度を4%程度、GDPを1%程度上昇させる。こうした便宜は、政治制度が貧弱で市民の教育水準も低い国において最も広く見られる。


多くの政治指導者が自分の好む地域に便宜を図る。その極端な例のひとつはザイール [1]訳注;現コンゴ民 の独裁者であったモブツだ。彼の先祖代々の故郷バドリテは辺鄙なところにあるが、そこに彼は1億ドルを費やした巨大な宮殿一式の他、豪華な宿泊施設、コンコルドが離着陸可能な空港、国内では最も恵まれた水や電気、医療サービスの供給施設を建築した。しかしモブツが例外的な存在というわけではない。地域への便宜について記述した利益分配政治の文献は数多い。Golden and Min (2013)は、150以上もの実証研究の一覧に基づいた再分配政治の文献の調査を行っている。彼らは、ほとんどの研究は単一の民主国家、単一の政策結果に焦点を当てていることを指摘している。 [2]原注1:特筆すべき例外として、様々なサハラ以南アフリカ諸国のサンプルによって便宜を研究したFranck and Rainer (2012)やKramon and Posner (2013) がある。

地域への便宜と夜間照明

最近の論文において (Hodler and Raschky 2014)、私たちは民主主義国家だけでなく独裁国家も含む広範かつ多様な国家サンプルによって地域への便宜について系統的な観察を行うとともに、多くの異なる政策の利益分配効果の総計を補足する、地域への便宜についての幅広い尺度を用いることで、利益分配政治に関する先の文献への補足を行っている。具体的には、私たちは支持指導者の出身地情報と、夜間照明強度についての衛星データを用いて、現在の政治指導者の出身地域であることが地方行政地域の夜間照明強度を増すかどうかの研究を行った。

私たちの分析は、1992年から2009年にかけての、126カ国における38,427の地域についてのパネルデータセットに基づいている。従属変数は平均夜間照明強度の対数で、これはアメリカ空軍気象衛星によって撮影され、アメリカ海洋大気庁が提供している。Henderson et al. (2012)は、国レベルでの夜間照明強度とGDPの強い結びつきについて報告しており、夜間照明強度を地域レベルでの経済活動の尺度として用いることを提案している。Gennaioli et al. (2013)による地域GDPデータを用い、私たちは夜間照明強度と地域GDPに同様の強い結びつきを発見した。私たちの主たる説明変数は、各国の現在の指導者の出身地である場合は1、それ以外の全ての地域を0とするダミー変数だ。

時不変の地域的特徴を制御するために地域固定効果、各国の時間による変化を最も柔軟な形で制御するために国ー年ダミー変数を組み込んでもなお、私たちはこの指導者地域のダミー変数が夜間照明強度と正の関連を持っていることを発見した。政治指導者の地域の夜間照明強度がより強いのは政治指導者がその理由であり、私たちの発見は地域への便宜の証拠を提供するものであると私たちは主張する。指導者地域の潜在的な内生性を解決するために、私たちは近いうちに指導者地域となる地域、あるいは最近まで指導者地域であった地域を観察した。

  • 結果は、指導者の地域となることによって平均して夜間照明強度は約4%、GDPは約1%上昇することを示唆している。

地域への便宜の決定要因とその動き

地域への便宜の動きは、政治指導者が地域への便宜にうまく関与するためには数年を要し、その後にだんだんと自分の出身地を優遇するのが上手くなっていくといったものだ。夜間照明強度の上昇は、政治指導者が権力の座についてから約12年間加速していく。この加速と、ほとんどの民主国家が国家指導者の任期を最大で4~7年を2期という形で制限する憲法を持っていることは、独裁国家ではそうした決まりがなかったり、あっても適用されなかったりするものの、偶然の一致ではないのかもしれない。私たちはさらに、地域への便宜の効果は政治指導者より長続きすることがないことも発見した。したがって、地域への便宜は政治指導者の出身地域の持続的発展には基本的につながらないのだ。私たちは異なる観察データの単位、つまり別の地域区分による地域を用い、地域への便宜の地理的広がりを探った。この調査の結果は幾分悲観的の色が薄い。すなわち、地域への便宜による便益の一部はかなり局所的なものであるものの、相当部分の便益は比較的大きな地理的地域、つまりおそらくは多くの人々へと流れているのだ。

広範囲かつ多様なサンプルにより、地域への便宜の潜在的な決定要因の観察が可能となった。

  • 優れた政治制度は、政治指導者に制約を課すことで地域への便宜を減少させる場合が可能性がある。
  • 教育を受けた市民は政治過程へ参加する可能性がより高く、政治指導者の説明責任を維持するため、教育水準の上昇は地域への便宜を減らす可能性がある。

Polity2 [3]訳注;各国の民主主義水準を点数化した物を時系列データで提供しているもの。 の点数と学校教育年数をそれぞれ政治制度と教育の代用として用いたところ、優れた政治制度と教育水準の双方が地域への便宜を減少させることが分かった。この結果では、私たちのサンプル中で最も教育到達度の低い国々においては、指導者の地域となることは夜間照明強度を30%、地域GDP9%それぞれ上昇させることが示唆されている。また、より貧しい国や、言語的多様性や協力的な家族的繋がりによって政治指導者がより強くその出身地と結びついている可能性がある国においても地域への便宜はより一般的だ。これら地域への便宜についての潜在的な決定要因をまとめて組み込んだところ、地域への便宜は政治制度が弱く市民の教育水準が低い国々において最もよく見られた。

私たちの研究の最後の部分では、このアプローチを国際援助と石油レントの分配効果を検証するために用いた。すなわち、ガバナンスと汚職に対する国際援助と石油レントの効果についての文献は基本的に知覚に基づいた全国的な指数に依っているが、私たちは世界中の国家内地域の経済活動に関する観測可能な尺度を用いてこれを補完したのだ。その結果、制度化の度合いが弱い国々において援助と石油はレントシーキングを悪化させる傾向にあるが、比較的優れた政治制度を備えた国においてはそうはならないことが分かった。

政策への含意

これらの発見は様々な政策的含意を持つ。

  • 第一に、私たちは政治指導者に説明責任を維持させるためには健全な政治制度と優れた教育の双方が有用であることを確認するとともに、地域への便宜を制限するにあたっての政治制度と教育の重要性を示した。とりわけ、任期の制限は決定的に重要であるように思われる。
  • 第二に、権威主義的な指導者のいる国においては、そうした指導者は国際援助を主に自分自身、家族、一族、自分の本拠地に住んでいるその他の人々の便益のために用いのであり、そうした国を支援する際に援助機関は極めて注意深くなる必要がある。 [4] … Continue reading
  • 第三に、より一般的な話をすれば、経済活動に関する地域データは欠けているか質の悪いものであったために、地域的経済開発の促進要因と阻害要因についての興味深くかつ政策に係る疑問の多くが最近まで解決不可能であった。

私たちの研究は、世界中の地方行政地域における夜間照明強度の大規模パネルデータセットの使用よってそうした疑問が解決可能となることを例証している。また、研究者や援助機関は、大規模政策介入を評価するにあたって夜間照明のデータを使用することを考慮してもよいだろう。

参考文献

●Franck, Raphael, and Ilia Rainer (2012), “Does the Leader’s Ethnicity Matter? Ethnic Favouritism, Education and Health in Sub-Saharan Africa.” American Political Science Review 106, 294-325.
●Gennaioli, Nicola, Rafael La Porta, Florencio Lopez-de-Silanes, and Andrei Shleifer (2013), “Growth in Regions.” NBER Working Paper 18937.
●Golden, Miriam, and Brian Min (2013), “Distributive Politics Around the World.” Annual Review of Political Science 16, 73-99.
●Henderson, Vernon J, Adam Storeygard, and David N Weil (2012), “Measuring Economic Growth from Outer Space.” American Economic Review 102, 994-1028.
●Hodler, Roland, and Paul A. Raschky (2014), “Regional Favouritism.” Quarterly Journal of Economics 129, 995-1033.
●Kramon, Eric, and Daniel N. Posner (2013), “Who Benefits from Distributive Politics? How the Outcome One Studies Affects the Answer One Gets.” Perspectives on Politics 11, 461-474.

References

References
1 訳注;現コンゴ民
2 原注1:特筆すべき例外として、様々なサハラ以南アフリカ諸国のサンプルによって便宜を研究したFranck and Rainer (2012)やKramon and Posner (2013) がある。
3 訳注;各国の民主主義水準を点数化した物を時系列データで提供しているもの。
4 原注2:もちろんながら、独裁国家へ国際援助を供与することの潜在的欠点を指摘したのは私たちが初めてではないが、そうした知覚に基づいた指数ではなく観察可能な尺度に基づいた証拠によってそうした警鐘を裏付けたのはおそらく私たちが初めてである。(訳注;原文ではこの原注の挿入箇所が(おそらくミスで)示されていなかったため、訳者の判断で適当と思われる箇所に付した。)
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