ポール・クルーグマン「政策担当者たちの勇気欠乏症」

Paul Krugman, “The Lack of Courage Among Policymakers,” Krugman & Co., April 11, 2014. [“On The Pathetic Left,” The Conscience of a Liberal, April 3, 2014]


政策担当者たちの勇気欠乏症

by ポール・クルーグマン

Andrew Testa/The New York Times Syndicate
Andrew Testa/The New York Times Syndicate

オックスフォードの経済学者サイモン・レン=ルイスが,このまえブログでこう問いかけている:「ヨーロッパで左派が追求したり提案したりしてる経済政策は,なんでああもブザマに見えることが多いんだろう?」

レン=ルイスは,フランスのフランソワ・オランドを主な例に挙げていたけれど,イギリス労働党のフニャフニャぶりも同類だ.また,レン=ルイスは,リソースと組織の問題に答えがあるんじゃないかと提案している:「すぐれた助言を探し出すのは(そして,いい助言をダメな助言から区別するのは)お金や時間がかかる」とレン=ルイス氏は書いている.「確立された政権とくらべて,野党や新政権にとって,これはずっと難しい.」

まあ,ヨーロッパの状況には口出しできないけれど,アメリカでも,大なり小なり左翼っぽい人たちが緊縮的なマクロ経済政策との対決であからさまに失敗してるという状況がある――オバマ大統領による雇用から赤字への「転換」は,実のところ2009年にはじまっていた.当時,民主党は議会両院をまだ支配していた.

それに,リソースが問題だって言う主張も,誰にもできない.オバマ氏は,たんに議会多数派をもった現職大統領だっただけじゃない.現代のアメリカ進歩主義には,政府外に政策分析の大がかりな装置を持ち合わせている.その多くは,転換に大反対していた.

それにもかかわらず,2009年11月にオバマ氏は,よりによってフォックスニュースで,赤字超過は景気後退の二番底をもたらすかもしれないと警告していた.

さて,どうしてそんなことになったんだろう? ぼくの観察にもとづいて言うと,お真面目ぶった連中の影響につきつめられる.そして,連中の経済に関する見解は,だいたいのところ金融業界に突き動かされている傾向がある.

信じがたいけれど,当時,フォックスニュースでオバマ氏が「財政赤字は巨大な脅威だ」と言っていたとき,オバマはもうすぐティム・ガイトナー前財務長官を他の人に替えるんじゃないかと噂がとびかっていた.その候補とは,ジャミー・ダイモン,JPモルガン・チェイスの社長だった.

で,金融業界の連中がオバマ氏になにを語っていたかっていうと,「見えざる国債自警団に注意せよ」だった.

ぼくが推測するに,ヨーロッパでも事情はかなり似たようなものだったんじゃないかな.労働党は,ジョナサン・ポルトみたいな経済学者に耳を傾けるべきだ.そうね,それに,レン=ルイスにも.でも,きっと労働党のリーダーたちは金融街のすてきな仕立てのスーツを着込んだ連中の見解にずっと関心を寄せているんだろうね.

なるほど,オランド氏は左派としてアメリカ政界にはいないタイプの人物かもしれない.でも,彼にしても,やっぱり助言を求めてる相手は銀行員たちで,そいつらは「財政規律こそすべて」とオランドに教え込んでいる.(たしかにフランスは大部分でアメリカよりも左寄りかもしれないけれど,金融業界の知見と称するしろものに対抗するうえで,アメリカの進歩的運動がもっている知的インフラに似てるものはフランスには皆無だ.)

ずっとこうだったと言えるんじゃないかと思う.

ただ,目下の経済状況の本質はこうだ――かしこい政策のためには,責任あるとされる連中が言ってること,いかにもわかった風な口ぶりの連中が――「やあ,ぼくらはお金持ちだよ.だから,なんだって知ってるのさ」みたいな連中が――言ってることを無視することが必要になる.

で,どこの穏健な左派政権も,それをやってのける知的・道徳的な勇気をもちあわせていないの.

© The New York Times News Service


【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する

リベラルの機能不全

by ショーン・トレイナー

2009年にソブリン債危機がはじまったとき以来,ユーロ圏の中道左派政党は,保守派の緊縮政策に効果的に対抗しようと苦戦してきた.ドイツ首相アンゲラ・メルケルが支持する緊縮策は,ヨーロッパの政治論議のあちこちで,福音として受け取られてきた.

フランスの社会主義大統領候補フランソワ・オランドが2012年に選出されたとき,多くの左寄りの観測筋は,「ヨーロッパでオランドがメルケル女史に対する強力な対抗勢力としてふるまうだろう」「オランド当選で緊縮反対派が他国でも選挙で成功を収めるはずみがつくだろう」と期待を抱いていた.ところが,メルケル女史は昨年の選挙であっさりと再選され,ドイツは欧州委員会で引き続き影響をふるいつづけており,これでコスト削減政策が継続されることは確実になる見込みが高い.

オランド氏がユーロ圏で政策に影響を及ぼせる程度はかぎられている.大統領在職期間に,フランスの失業率は11パーセント近くまで上昇している.経済成長も,おおむね停滞している.オランド支持率は,たった17パーセント付近を低空飛行中だ.

また,オランド氏は当初,富裕層市民に課税することでフランスの予算を均衡させる政策を追求したものの,1月になって突如,公的支出プログラムを削減し典型的に保守派が好む一種のサプライサイド経済学による改革を断行すると公言して支持者を動揺させた.

「こうした右往左往がもたらす効果は,政治的にも経済的にも破滅的だ」とカリフォルニア大学バークレー校でフランス政治を専門とするジョナ・レヴィ教授は言う.今月はじめに『ワシントンポスト』のインタビューでの発言だ.

イギリスでも,中道左派政党が同様の課題に直面している.デイヴィッド・キャメロン首相の保守的な緊縮志向レジームへの対抗でまとまることがその課題だ.『フィナンシャル・タイムズ』によれば,労働党員は2派に分裂しているという.一方は財政規律に本気であることを党は示すべきと信じる人々,もう一方は緊縮策をすぐ終わらせることを支持する人々だ.

© The New York Times News Service

Total
0
Shares

コメントを残す

Related Posts