Paul Krugman, “The Pain of Austerity, Remedied by Keynesian Policy,” Krugman & Co., April 18, 2014. [“The Return of Expansionary Austerity,” April 7, 2014 / “Interest Rates and the Budget Outlook,” April 14, 2014.]
緊縮の痛み,ケインジアン政策の処方
by ポール・クルーグマン
またおいでなすった.いつもの問題児どもの全面攻勢だ.イギリスの景気回復はやっぱり緊縮策が縮小的でなかった証明なんだとか,国際通貨基金は大間違いを行ってたんだとか言い張ってる.
先日,国立経済社会研究所の経済学者ジョナサン・ポルトが,同研究所のブログで長文の徹底批判を書いている.単純にまとめてしまえば,デイヴィッド・キャメロン首相の政権は2010年と2011年に大幅の財政縮小をやったけれど,そのあと低調な回復のペースは劇的に遅くなってしまった.ざんねんなことに,イギリスの産出ギャップ(実質 GDP と経済の産出能力の差)がホントのところどれだけ大きいのか不確実なために,財政政策の評価については合意がしにくくなっている.ただ,どんな指標をみても,2011年以後に緊縮が急速に先細りになっているのがちゃんとわかる.〔参考:イギリス政府の金利以外の支出〕
というわけで,イギリス政府は緊縮をたっぷりやったけれど,そのあとはさらに緊縮するのをやめた.するとそれ以後にイギリス経済は成長し始めたってことになる.これって,緊縮が実は拡張的だってことの証明になるの? 前に使った喩えをまた使うと,野球バットで頭をぶん殴り続けてからやめると,そのうち具合はよくなりはじめる.でも,だからって,野球バットで頭をぶん殴るのがいいことだって話にはならない.
ポルト氏の文章を読むと,財務大臣ジョージ・オズボーンその他のイギリス高官たちはここで詭弁を弄してるのがわかる.連中は,いえいえ政権はプランを変更なんてしてませんよ,ずっと当初のプランAをやってますけど,なんて言ってるんだ.実にうたがわしい主張だけど,ともあれ,それはマクロ経済の論証とは関係ない.
事実はどうかっていうと,イギリスは2012年以後に,その前の2年と比べて財政健全化をずいぶん控えている――つまり,それ以後のイギリス経済の実績は,実のところケインジアンの主張を裏づけているんだ.政権の意図がどうだろうとね.
言うまでもないけど,この件で緊縮派の見解がヘコむとは期待してないよ.
© The New York Times News Service
Secular Stagnation Remains: A Risk in the United States
長期停滞の疑いは消えない:アメリカにおけるリスク
議会予算局がアメリカに関する財政見通しの最新版を発表した.いつもどおり,とても注意深い仕事っぷりだ.ただ,1つ,とても注意を要する点がある――といっても,必ずしも議会予算局が間違ってるってことじゃなくて,間違ってるかもしれないって話だ.どっちにしても,その結論を導いているものをよく理解しておくべきだ.
で,それはこんなこと:議会予算局の予想だと,近い将来の赤字はかなり低くなるものの,いまから数年後には拡大をはじめるとなってる.赤字拡大への動きを促してるのはなんだろう? かなりの部分は,金利支払いだ.議会予算局によれば,2014年には国内総生産の 1.3 パーセントなのが,2024年には GDP の 3.3 パーセントにまで上昇することになっている.
「いやあ,そりゃ債務がどんどん大きくなっていったら当然そうなるでしょうよ.借りてる額が大きくなるほど,金利支払いだって大きくなって,それがまた借金を膨らませるって寸法だ.でしょ?」
ちがうよ.
議会予算局によれば,債務は GDP 比で見るとほんのわずかしか上昇しない.2014年の74パーセントから,2024年の78パーセントへという上昇だ.本質を見ると,金利負担の上昇が反映してるのは,とある想定だ.「連邦政府の借り入れコストは経済が正常化するのにともなって急激に上昇する」というのがその想定.
でも,他方で,他にも注意深い組織がある.IMF によれば,実質金利の長期的な下落傾向がある.長期停滞は本物のリスクであり,いまぼくらが目にしているのよりも大して高くない金利が新たにふつうのことになるかもしれないと IMF は発言している.
正しいのは誰だろう? ぼくは IMF に賛成だけど,IMF とぼくが間違ってるかもしれない.ただ,ここで大事なのは次の点だ:議会予算局は,ほんの数年後に赤字が上昇し始めるということを確かめたわけじゃない.本質的には,IMF にいる連中も含めて多くの経済学者たちが信じてるのよりも金利が大幅に上昇するだろうと想定してるだけだ.
© The New York Times News Service
【バックストーリー】ここではクルーグマンのコラムが書かれた背景をショーン・トレイナー記者が説明する
オズボーンの周回遅れ一等賞
by ショーン・トレイナー
今月,イギリスの財務大臣ジョージ・オズボーンがワシントンのアメリカン・エンタープライズ・インスティテュートでスピーチをした.そのなかで,オズボーンは,保守政権の緊縮政策は正当だと主張した.
ちょうど1年前,イギリスはまたも景気後退に陥る崖っぷちに立っているかに見えた.国際通貨基金チーフ・エコノミストのオリヴィエ・ブランシャールは,こう警告していた――オズボーン氏は「火遊びをしている」.長く低調なままの需要を目の前に見ながら,さらに支出を削減することを推し進めているというかたちで火遊びをしているとブランシャールは警告した.だが,イギリス経済はいま勢いをつけつつある.IMF 当局は先日,イギリスの見通しを上向きに修正した.IMF のいまの予測では,今年,イギリスは G7 のどの国よりも速い成長を見せるとされている.
オズボーン氏の発言を受けて,多くのアナリストは「緊縮政策がイギリス経済の回復に貢献しているのだ」という考えをとりあげた.そうしたアナリストたちの主張によれば,オズボーン氏は2つの効果をいっしょくたにしているという.1つは,イギリスが2010年にはじめたもとの緊縮の動きがもたらした効果.この緊縮のあとは低調な成長がつづいた.もう1つは,政府が2012年にとった路線変更の効果だ.このとき,支出削減のペースは急激に抑えられた.
オズボーン氏のスピーチに反応して4月11日付け『ニューステイツマン』誌に書かれた文章で,偏執者ジョージ・イートンはこう述べている:「緊縮派は『イギリスは再び景気後退に陥るのを回避する』と約束しただけではない.オズボーンが最初の予算案で行った言葉を引くと,『安定して持続的な経済回復』も約束していた.ところが結果は,過去100年以上でもっとも緩慢な回復だった.」
イートン氏はさらにこう続ける:「いま成長が見られるようになったといっても,それは緊縮したにも関わらずであって,緊縮のおかげではない.オズボーン氏はいかにも不退転のような物言いをしているが,その実,財務大臣は Help To Buy すなわち購入援助(不動産市場への最大規模の政府介入)や設備投資や赤字削減目標の延期というかたちで,みずから「プランB」を採用しているのだ.」
© The New York Times News Service