Marianne Bertrand, Matilde Bombardini, Raymond Fisman, Francesco Trebbi, “Tax-exempt lobbying: Corporate philanthropy as a tool for political influence“, (VOX, 03 September 2018)
特殊利害関係者は寄付を使って政治過程に働き掛ける。本稿が明らかにするところ、合衆国における社会貢献活動は、少なくとも部分的には、議員への働きかけに標準を合わせている。影響力の有る政治家がいる区ほど、また非営利団体のなかでもその役員に政治家がいるものほど、多くの寄付を受け取っているのである。これは問題をはらんでいる。PACをつうじた寄付やロビイングと異なり、慈善活動をとおした働き掛けは公衆が観察しにくいからだ。
ドナルド・トランプの就任は 「沼の汚水を抜く (drain the swamp)」 という彼の公約に一部を負っていた – 他人に頼らなくともよいだけの財力をもつアウトサイダー候補である彼ならば、それまでワシントン政治を腐敗させてきた特殊利害関係者の働き掛けからも遮断されているのではないか。この点では、トランプもひとつの長い伝統を踏襲している。およそ政府なるものが現われてからというもの、それに腐敗せしものとのレッテルを張りつつ、我こそこの問題を清算する者なりと売り出す改革者は絶えないのである。
だが反汚職改革を試みる者は程なく直面することになる。特殊利害関係者は数多くの働き掛け手段を持っているという現実に。そのうち或る物は非合法だが (例えば近年ドイツとブラジルで主導的な政党・政治家を苦しめた運動資金スキャンダルなど)、全面的に透明とはいえないにせよ、全面的に合法ではあるような経路からも、政治家に揺さぶりをかけることはできるのだ: 合法的なキャンペーン献金、職を辞したのちに就く旨味のある勤め口やコンサルティング職の約束、友人や家族への優遇措置などだ。
働き掛けとしての社会貢献
政治における特殊利害関係者の制約に幾らかでも希望を持てるようにするには、政策への働き掛けを望んでいる者が意のままに操れる手段の全体をまず認めておくことが重要だ。本研究で我々が実証したのは、– なんとも皮肉なことに – 企業の社会貢献活動が、少なくとも部分的には、議員への働き掛けに奉仕している可能性である。そうした働き掛けは、公益ではなく株主利益に奉仕するような法律や規制の獲得をめざすものと推察される。
企業は政治目的のため自己の慈善金を戦略的に出捐しているかもしれないとの所見を述べたのは、我々が初めてではない。2008年 New York Times に掲載された記事に、「お気に入り慈善活動への贈り物に議員達はご満足 (Gifts to Pet Charities Keep Lawmakers Happy)」(Hernandez and Chen 2008) と題されたものがある。そこでは例えばジェネラル・ダイナミクス社やノースロップ・グラマン社といった防衛企業からペンシルヴァニア州のジョンズタウン交響楽団に送られた太っ腹な寄付について記載されているのだが、このオーケストラは偶然にもジョイス・マーサという女性をパトロンとしている。この人の夫はジョン・マーサ下院議員という、下院軍事委員会の一員だった人物。(繰り返されるクリントン財団の資金調達めぐる紛議は、これと同じ対価関係 (quid pro quo) が国レベルでも機能しているかもしれないことを示唆する。ヒラリー・クリントンの国務長官としての任期中、同財団には外国および外国組織から数百万ドル級の小切手がいくつも振り出されたのだった)。
我々のフォーカスは合衆国の事例に置かれているが、以上はアメリカ独特の現象などとは間違ってもいえない。例えば英国では、反贈収賄法 (Anti-bribery Act) が英国企業に対し慈善活動への海外での寄付行為について警告を与えているが、それはこうした活動が潜在的に帯びうる政治的な対価関係に鑑みたものだ。またイスラエルの歴史で最も大きなスキャンダルのひとつにホーリーランド事件 (Holyland Case) というのがあるが、これにはエルサレム市長だったウリ・ルポリャンスキーの設立した (合法の) 慈善団体に対し、土地用途見直しの確保をめざして或る不動産デヴェロッパーがおこなった寄付が関わっていた。
慈善財団はPACの後を追う
我々が新たなワーキングペーパー (Bertrand et al. 2018) で示すのは、ジャーナリストやアクティビストがこれまで掘り起こしてきた幾つかの逸話が、じつのところ或るより一般的なパターンを体現するものであったこと、そしてこのパターンは政治的優遇措置をせがむために企業が自らの財団 (foundations) を使っていると考えれば最もうまく説明できることである。明らかになったのは、企業の慈善財団からの寄付が辿るパターンが、よりあからさまな形での政治的働き掛け – 各社の政治活動委員会 (PAC: political action committee) 支出 – にみられるパターンと著しく似通っていることだ。両者は同じ議会選挙区に流れ込む傾向があり、どちらも区からの合衆国議会議員が該当企業の事業利益にとって重要な委員会に着任している時に増加する。我々は政治家を企業財団の金と結び付けるより個人的な繋がりにも注目した。結果、議員が役員に就いている非営利団体ほど多くの企業財団の金を獲得する傾向があり、とりわけ該当政治家が当該事業と関連性の有る委員会に就任している場合にそれが殊更あてはまることが判明した。ざっと計算しただけでも、政治的動機からくる企業の慈善活動は一年あたり10億ドルを優に超えているようであり、従って企業PAC資金の規模を圧倒することが示唆される。
政権への働き掛けに、例えば選挙キャンペーン資金やロビイング活動などではなく、交響楽団への寄付をもちいる理由はなにか? 第一に、PAC寄付には半世紀近くも前から幾つも制限が設けられてきたのだが、慈善寄付については何ら制限が無い。それに加え、例えばゴールドマン・サックスのPACが、ニューヨークからの合衆国議会議員シーン・マロニー (民主党–ニューヨーク州) に2016年の議会期以降、幾ら渡したのかを調べることなどは、割合簡単なのだ。1970年代に議会を通過したルールのもと、この種の寄付はすべて公に開示されねばならないことになっている (同議員は10,000ドルを得ている)。だがゴールドマン・サックス財団からマロニー下院議員に渡った金銭の追跡には、もっと探偵的な仕事が関わってくる。最後に、PACの悪名は – 〔ロビイストが群居する〕 Kストリートのことは措くとしても、少なくとも 〔一般的アメリカ人の象徴たる〕 メインストリートでは – 知れ渡っているが、企業の社会貢献ならば、事業がコミュニティに親善感情を醸成しながら、しかも同時に政府契約の発注や規制画定を監督するかもしれない議員を喜ばせるなどということができてしまうのである。
企業の寄付と立法上の利害関係とのあいだの潜在的な繋がりを掘り起こすべく、我々はS&P 500とFortune 500のリストに掲載されている企業の財団が提供した助成金に注目した。これらリストは合衆国株式市場に上場している企業のうち最大規模のものから構成される。こうした助成金は納税申告書で開示しなければならなくなっているので、殆どの寄付を具体的な非営利団体とリンクさせることができた。つづいて非営利団体の詳細な地理的所在地を確定できた。ここまできてようやく、非営利団体を具体的な合衆国議会選挙区と関連付けることができた。(企業のPAC寄付に関する情報の獲得は数段容易である – 作業は全てOpensecrets.orgで済ませることができる)。
我々が示すところ、諸般の議会期をつらぬき、企業の財団からの助成金には、PAC資金の受領が多い区にシフトしてゆく傾向がみられる。これは、一部の慈善寄付が政治的動機からきていることを、少なくとも示唆している。
我々はさらにこれら両タイプの資金の動きを駆動している政治的考慮事項のなかには、同じものが幾つかあることも明らかにしている: 政治家が該当企業の事業の利害にとって重要な委員会に加入する場合 (ジョン・マーサの軍事委員会加入とノースロップ・グラマン社の関係を想起されたい。同委員会に対するロビイングに同企業は大金をかけている)、該当合衆国議会選挙区に対する企業財団とPAC資金のフローはともに増加している。同様にして、合衆国議会議員が職を辞する際には、該当区に流れ込む企業慈善金とPAC資金の両方に短期的な落ち込みがみられる。これは影響力の有る議員が新人に取って代わられる場面にあたる。
政治家の利害関係を個別慈善活動にリンク付ける別の方法として、政治家の年次財務情報開示から得た役員身分に関する情報も活用している。結果、政治家が役員に就いている場合、非営利団体は企業財団から助成金を受領する可能性が四倍以上も高くなることが示せた。これは該当非営利団体のある州およびその規模・部門に関するきめ細かな測定値を考慮したうえでのものである。合衆国議会議員が役員に就いている非営利団体ほどより多くの企業資金を獲得できるだろう理由には様々あるが、我々は 〈金銭の流れの増加の少なくとも一部は、政治的なものである〉 旨を示すエビデンスも提示している。ここでも再び、該当企業によるロビイングの対象とされることの多い委員会に該当政治家が就任している場合、財団はその政治家と繋がりのある非営利団体に寄付する可能性がより高くなることが判明したのだ。
企業にとっての政治家の重要性が、PAC寄付のほうとより強く繋がっている可能性はたしかにある。しかし企業慈善活動をとおして流れ込む金銭の総額と比べれば、PAC支出はまるで大人と子供である。例えば2014年合衆国議会選挙からの議会期では、年間PAC支出は4億6400万ドルだったが、対する年間企業寄付のほうはほぼ180億ドルにもなる。我々の計算が示すところ、多くの企業慈善活動の非政治的性格を考慮したあとでさえ、依然として政治的要素はPAC寄付を圧倒する可能性が非常に高い。
なぜ関心をもつべきなのか
では我々は、企業慈善活動と政治について何に関心をもつべきなのか? 或いはあなたはこんな風に考えてはいないだろうか。「どうでもよくない? 奴らは利益誘導をしているわけだけど、少なくともコミュニティの利益になるような仕方でやってるんだから」。
もしそうなら、我々は強く反対する。最も重要な点だが、PAC寄付やロビイングと異なり、慈善活動による働き掛けは公衆にとって (メディアと投票権者の両方をふくむ) 観察しにくい。個別の逸話群にもとづきつつ一つの筋に纏め上げるのにさえ多大な労力が必要だが、ロビイングやPACの記録ならばウェブブラウザを開くだけで見つかる。我々の見解では、これは合衆国法の精神にも反する。合衆国法は、合衆国税法に対する1954年のジョンソン修正条項のもとで、501(c)(3) 慈善団体 (企業財団など) は次のことができないと規定している:
「[い]かなる公職候補者についてであれ、その人の為に (またはその人に反対して) なんらかの政治キャンペーンに参加または介入 (声明の公表または配布をふくむ) すること」(USGPO 2012, sec 2522)
この種の規定を設けることには良い理由がある。501(c)(3) 団体は租税免除ステータスを持っているので、これら団体による政治活動への参加を野放しにすることは、政治的発言力を露わにする企業に対する納税者からの補助金に等しいのである。
ここで明確にしておきたいのだが、我々は世界の為に善行をなすべく利潤を支出する企業に反対している訳では勿論ない。また企業が善行をなすことで良い成果をだせるような局面の存在は、多くの場合、慶賀すべきでこそあれ、非難すべきものではない。企業が環境を保護し、貧者を援助し、自らの顧客を喜ばせ従業員をより幸福かつ生産的にするために生活賃金を支払うならば、それは事業と社会にとって究極のウィンウィンとなろう。
同様に我々は企業の社会貢献に対する制限などは決して提案しまい – それは非政治的な企業寄付を削減させてしまうばかりか、既に我々が強調したように、企業は別の経路をつうじた働き掛けへと金銭と活動をシフトさせるだけだろうから。働き掛けとしての慈善活動の実証をつうじて我々が望んでいるのは、一般的な言い方になるが政治における金銭の流れを追跡する必要を浮き彫りにすることである。利益誘導の規制を試みるにしても、企業が影響力を購う際に用い得る数多くの経路を考慮に入れたほうが良いだろう。
我々が、全員一致で、支持することがあるとすれば、それは企業を資金源とする活動にかかる開示の拡大である。これは投票権者が、政治家と民間企業の関係が容認可能なものか判断し、理想的にはさらに、公益に反するようなあらゆる便宜交換を避けるよう政治家に圧力をかけるうえで、参考になる更なる情報を提供するものである。
編集者注: 本稿は企業統治と金融規制に関するハーバードロースクールフォーラムにおける先頃の投稿から取ったものです。
参考文献
Avis, E, C Ferraz, F Finan, and C Varjão. (2017), “Money and politics: The effects of campaign spending limits on political competition and incumbency advantage”, NBER working paper 23508.
Bertrand, M, M Bombardini, R Fisman, and F Trebbi (2018), “Tax-Exempt Lobbying: Corporate Philanthropy as a Tool for Political Influence”, NBER working paper 24451.
Eggers, A C, and J Hainmueller (2009), “MPs for sale? Returns to office in postwar British politics”, American Political Science Review 103(4): 513-533.
Hernandez R, and D W Chen (2008), “Gifts to Pet Charities Keep Lawmakers Happy”, New York Times, 18 October.
USGPO (2012), Internal Revenue Code, US Government Publishing Office.