スコット・サムナー 「『流動性の罠』と『肥満の罠』」(2016年5月13日)

●Scott Sumner, “Liquidity traps and obesity traps”(TheMoneyIllusion, May 13, 2016)


しばらく前に、「流動性の罠」を「肥満の罠」になぞらえたことがある。そのエントリーのリンクを貼ろうと思ったのだが、どれだけ探しても見つからない。それはともかく、改めて説明すると、こういうことだ。以下に掲げる3つの方法をどれも試そうとしないので、体重を減らせないでいるという人は、「肥満の罠」に嵌(はま)っているのだ。

1. ダイエット(食事の量を減らす)

2. エクササイズ(運動)

3. 減量手術

専門家の間でも認められているように、1~3のどの方法も減量につながる。しかしながら、ダイエットにしても、エクササイズにしても、かなりの自制心が必要とされる。減量手術となると、お金もかかるし、痛みも伴う。「ダイエットもエクササイズも続けられそうにないし、減量手術なんてとんでもない」。そう考えてどの方法も試そうとせずに、体重がなかなか減らない。「肥満の罠」の出来上がりというわけだ。

「流動性の罠」から抜け出すためには、どうしたらいいのだろう? 専門家の間で認められている方法がいくつかある。

1. インフレ目標値の引き上げ

2. 水準目標(物価水準目標、名目GDP水準目標)の導入

3. 「チャック・ノリス」アプローチ(「(目標を達成するために)必要なことは何だってやる」ことを誓う)

4. 通貨安への誘導(為替レートの減価を促す)

ポール・クルーグマンのお気に入りは、1番目。私のお気に入りは、2番目と3番目だ。しかしながら、世の中央銀行は、何かと理由をつけて、上に掲げた4つの方法をどれも試そうとしたがらない――それゆえに、一旦嵌った「流動性の罠」からなかなか抜け出せない――。その代わり、別の2つの方法に熱を上げている。そこそこ効果はあるが、目標を達成するには力不足かもしれない方法。量的緩和とマイナス金利(準備預金に対する金利をマイナスにする)だ。

EconLogブログで、ブライアン・カプラン(Bryan Caplan)が上のリストへの新たな候補を提案している。効き目がありそうなのに、世の中央銀行が試したがらない方法だ。「未償還の国債をすべてコンソル債に置き換えればいい(コンソル債で借り換えればいい)」というのが、カプランの提案だ。そうすれば、金利がゼロ%の下限にまで下がることは決してないだろうという。というのも、金利がゼロ%になったら、コンソル債の価格が無限大になってしまうからだ。カプランの言うように効き目がある(「流動性の罠」から抜け出せる)かもしれないが、世の中央銀行は乗り気にならないだろう。かなり大きな価格変動リスク(バランスシート上で保有している債券の市場価格が大幅に変動するリスク)に晒されることになるかもしれないからだ [1] … Continue reading。ちなみに、2015年初頭にスイス国立銀行(スイスの中央銀行)が金融引締めに転じたのも、(バランスシート上で保有する債券の)価格変動リスクを懸念してのことだったのだ。そんなわけで、カプランの提案を上のリストの5番目に加えるとしよう。効き目がありそうなのに、世の中央銀行が試したがらない方法の5番目に。

(追記)EconLogブログに新しいエントリーを投稿したばかりだ。ヒラリー・クリントンが語る「Fed(連邦準備制度)の組織改革案」に私なりに分析を加えている。あわせて参照してもらえたら幸いだ。

References

References
1 訳注;サムナーもコメント欄で指摘しているように、将来的に金利が上昇する局面になったら、中央銀行が(バランスシートの資産側で)保有しているコンソル債の価格が大幅に下落して、売りオペに使える資産が足りなくなってしまうかもしれない。そうなる可能性を嫌って、世の中央銀行は、未償還の国債をすべてコンソル債に置き換えるのに乗り気にならないだろう、という意味。
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