スコット・サムナー「利上げで製造業と輸出が押し上げられるわけないだろ...」

Scott Sumner “Maybe it’s my jet lag . . .” MoneyIllusion, July 24, 2018,

時差ボケと風邪のせいなのかもしれない…が,このコーナー・センのブルームバーグ記事の意味はさっぱりだ。

トランプはFedにアメリカ経済の巻き返しを望んでいる

金利の上昇は製造業と輸出を復活させうる。これは消費者と労働者にとっては痛手となるだろう

副題までしか読んでないというのに,既に意味が分からない。どうやったら金利の上昇が製造業と輸出を押し上げるって言うんだ?仮にそうだとしても,なぜ労働者にとって痛手となるんだろうか。

インフレ率に対する信頼性をFedが勝ち取ってきた主要な手段の一つが金利の引き上げであり,時にはこれはインフレ率よりもずっと高く引き上げられた。特に顕著だったのは1984年で,短期金利がその年の大部分の期間で10%以上であったのに対し,消費者物価(食料品とエネルギーを除く)のインフレは5%以下で年末を迎えた。投資家や貯蓄者が国債から高インフレ調整済み利回りを稼ぐことで「フリーランチ」を得ることができる場合,彼らはインフレに上向きの圧力を加える新たな生産や財・サービスの消費への投資ではなく,国債に投資する。

これは物価の変化からの推論だ。実質金利が1980年代半ばに高かったのは,成長が力強かったからにほかならない。そして国債購入は消費財や投資財の生産との二者択一ではない。これは金融投資と実物投資をごっちゃにしている。社債でファイナンスされた大規模な企業投資ブームがアメリカで起こったとしてみよう。その場合,大量の債券購入と大量の実物投資が同時に起こるだろう。両者は択一ではないのだ。それよりも,レーガン大統領による財政赤字が民間投資をクラウドアウトした,と説明すべきところだ。

しかし,これには経済を幅広く歪ませる効果がある。世界全体でみると,投資家がアメリカの資産で高い実質金利を稼ぐことができる場合,彼らはアメリカ資産に投資する。他のすべてが一定であれば,これは外国為替市場においてドルの値上がりを招く。人為的に高められたドルは,世界市場におけるアメリカの輸出競争力を下げ貿易赤字を拡大させる。

歪み?人為的? お気の毒さまですけど,ヴォルカーとグリーンスパンは1982年~1990年にかけて約4%のインフレ率を目標にしていた。その結果である金利に「人為的」なものは一切なく,単に市場の力の結果だ。Fedは久しく実質金利を設定していない。上でも書いたが,財政赤字が影響を与えた可能性はある(とはいえこの要素も当時広く信じられたほどには重要ではないだろう)。

換言すれば,Fedは過去数十年間を通じて高率の実質金利を設定することでインフレに対する信用を打ち立てたのであり,これによって経済は生産,労働,輸出ではなく金融活動,消費,輸入へと向かうことを促された。

これらはどちらか一方という類の話じゃない。消費は生産や労働との二者択一ではない。消費と二者択一なのは投資だ。実際,消費は1960年代後半や1990年代後半といった高雇用の時期にブームを迎えることが多い。金融活動についても話は同じだ。そして生産は余暇との二者択一であって,消費との択一ではない。そして実質金利は実のところ「過去数十年間」高かったわけではない。実質金利は1980年代に高かったが,2001年以降は低くなっている。

トランプは別のモデルを欲している。彼の関税による脅しはそうしたモデルを追求するためのものだ。すなわち,アメリカ経済を今より消費志向から生産志向にすることだ。そしてトランプは金融政策がそれを支援することを欲している。Fedが今後数四半期を通じて金利の引上げを止めれば,今回の景気局面では過去のような高い実質金利に直面することはもはやないだろう。これによってドルには下向きの圧力が加わるはずであり,アメリカの輸出競争力は高まるが,それにはアメリカの消費者にとっての安い輸入という費用を伴う。

どこから始めたものか。何だってドルに対する下向きの圧力がアメリカの消費者にとっての安い輸入を招くんだろうか。トランプの関税モデルがどうやって「生産志向」経済をもたらすんだろうか。シンガポールやスイス,ドイツのような低関税の国は生産志向ではないとでも?金融政策がアメリカをもっと生産志向にするってどうするんだ?お金は長期では中立ではないというつもりだろうか。このモデルにおける長期の総供給曲線はどうなっているんだろうか。

追記:いくつかのコメントで,私が「安い輸入という費用」という言葉を誤読しているとの指摘があった。おそらくこれは輸入が高くなるということを意味していたんだろう。つまり,「消費者にとっての輸入の値上がりという費用」ということだろう。

長期において,貿易と金融政策がアメリカ経済の消費志向を一定程度弱め,より投資志向というのであれば,これは対処できる問題だ。

どうすれば金融政策が投資に向かうGDPの割合に対して長期的な影響を及ぼすのだろうか。センは金融政策には実質金利に対する長期的な影響があると主張しているんだろうか。

ブルームバーグの世界では,金利の上昇は製造業と輸出を増やし,それによって労働者は打撃を受けることになっているようだ。金利の低下は生産を増やし,労働者は助かる。しかし消費者はドルの弱体化によって安い輸出という「費用」を払わなければならない。

何か見落としているかね。

情報元:Ramesh Ponnuru

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