ダイアン・コイル 「貧困、恐怖、嫌悪感」(2013年12月3日)

●Diane Coyle, “Poverty, fear and loathing”(The Enlightened Economist, December 3, 2013)


経済学は、抽象的な学問として有名だ(悪名高い?)。経済学では、人間の行動のうちで「理性」が関わる側面に焦点が合わせられる一方で、「感情」が関わる側面に注目が寄せられることはほとんどない。しかし、アダム・スミスであれば、そんな傾向に首を傾(かし)げることだろう。エマ・ロスチャイルド(Emma Rothschild)がスミスの思想を辿った一冊(『Economic Sentiments』)の中で述べているように、「経済生活は、感情によって彩られたシステム」なのだ。経済行動の真の理解に至るためには、人間を突き動かしている衝動を理解せねばならないのだ。


Economic Sentiments:Adam Smith, Condorcet and the Enlightenment

スミス以来の流れを汲んでいるのが、ジュリア・アンウィン(Julia Unwin)の『Why Fight Poverty?』だ。私が編集長を務めているPerspectivesシリーズの一冊だが、貧困をめぐる政策談議に重要な一石を投じている。貧困は、不可避な現象なんかじゃない。貧困は、削減できる。ただし、貧困という現象に接する時に喚起される「感情」――恐怖、恥、嫌悪感――に真っ向から立ち向かわない限りは、何も変わりはしない。世に流布する(貧困者にまつわる)「俗説」を生む源(みなもと)になっている一連の「感情」に真っ向から立ち向かわない限りは、貧困の削減に向けて踏み出すことはできない・・・と熱を込めて語るアンウィン。

Why Fight Poverty? (Perspectives)

ジョセフ・ラウントリー財団とプロスペクト誌が共同で編集した「英国における貧困」をテーマにしたエッセイ集(無料でダウンロード可能)がまさに今日刊行されたばかりだが(私も寄稿者の一人)、貧困に立ち向かう上で「道徳感情」が果たす役割に目を付けるというのは時宜(じぎ)を得たテーマだと言えるだろう。アンウィン本の第4章は「貧困は、不可避か?」と題されているが、その答えは「ノー」なのだ。貧困は、不可避な現象ではないのだ。

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