ステファニー・ケルトン「(いつ)利上げで“何かが壊れる”のか?」(2022年10月8日)

…というのもFRBの当局者は現在、下がり気味のインフレ率と戦うために、どんな結末を迎えようとも金利を引き上げる必要性に倍賭け(doubling down)しているのだ。

Stephanie Kelton, “(When) Will the Rate Hikes Break Something?”, The Lens, Oct 8, 2022

米連邦準備制度理事会(FRB)は、何かが “壊れる”事態に陥るまで金利を上げ続けるのではないかという懸念が多くあがっている。私も同感だ。

金融市場の動向をフォローしている人なら、スコット・マイナード〔米投資運用会社グッゲンハイム・パートナーズ最高投資責任者(CIO)〕のような人々が「FRBは“何かが壊れる”(something breaks)まで利上げを続けるだろう」と言っているのを耳にしたことがあるに違いない。彼は以前から、FRBは米国経済の底力を示すために、後ろ向き(backward-looking)な価格(やその他の)シグナルに頼ることで、我々を危機へと導いていると主張してきた。もしFRBが現在市場が予想しているような引き締めを続けるなら、“金融市場に波及する ”ような金融事故につながるだろうと懸念しているのだ。

サンフランシスコ連銀のメアリー・デイリー総裁は、こうした懸念を一蹴し、次のように主張している。

私たちは何かが壊れるまで利上げをすることはない。実際のところ、私たちは前向き(forward-looking)だ。

デイリーが(正しく)指摘するように、FRBは次の政策行動を決定する際に、ある種のテイラー・ルール・モデルに過去のデータを単純に差し込むことはしない。しかし、パウエル議長らFRB首脳陣は、不況に突入しても〔利上げを〕「根気強く続けていく」と誓い、(金融リスクを軽視し、十分にやり遂げたという証拠を積み上げる)この路線を維持することにコミットしているようだ。

この超タカ派のFRBは、IMFや国連貿易開発会議(UNCTAD)、世界銀行など多くの人々を不安にさせている。

私の友人でCNBCへの寄稿者であるロン・インサナも同意見だ。彼は、最近の英国ギルト(英国債)市場の混乱を指摘しつつ、こう言っている。

世界の金融構造はさらに大きく崩れようとしている。というのもFRBの当局者は現在、下がり気味のインフレ率と戦うために、どんな結末を迎えようとも金利を引き上げる必要性に倍賭け(doubling down) [1] … Continue reading しているのだ。

インサナが私たちに思い出させようとするのは、過度の利上げの影響は、米国経済の(労働市場、住宅、商業用不動産、株式市場など)“何かが壊れる”だけでは済まないという点だ。その破壊的な影響は世界の他の地域にまで波及する。

ボルカーの強硬な政策は…その結果発生した深刻なW字不況に留まらず、関連する予期せぬ代償を伴うものだった。

米国の急激な金利上昇は、1970年代を通じて米国の商業銀行から多額の資金を借りていた中南米諸国を圧迫した。

これらの債務は大部分がドル建てであり、金利上昇と国内通貨価値の下落が相まって打撃を受け、当該諸国の債務返済負担は事実上大幅に増加した。

金利が急上昇すると、中南米諸国が債務不履行に陥る恐れがあり、米国のマネーセンター・バンク [2]米国の銀行の一種であり、銀行以外に全国的に競争力を持つ証券、保険会社等を所有し、国際的にも事業を展開している銀行を指す。 の多くが事実上支払不能に陥る可能性があった。ボルカーは、米国の銀行システムの緊張を緩和するために、金利の引き上げを止め、引き下げに転じるしかなかった。

つまり、そのような状況下でも、FRBは何かが壊れるまで金利を上げたわけだ…。

歴史が示すとおりであれば、金融市場ではほとんどそうだが、FRBは比較的近い将来、政策について方針転換とまではいかなくても、一時停止を余儀なくされるだろう。

FRBはその可能性を否定するかもしれない。そんな手は打ちたくないのかもしれない。政策の大幅な変更の可能性を認めることさえ拒否するかもしれない。

しかし、FRBが変わることには違いない。

私もロンに同意見だ。

References

References
1 カジノなどのギャンブルで使われる手法の一つで、マーチンゲール法としても知られる。負けるたびに前回賭けた金額の倍の額を賭けるやり方。途中で負けても勝つまで倍賭けすれば理論上はプラスになる必勝法とされる。もっとも、賭ければ賭けるほどベット額は天文学的に増えるため手持ちが尽きれば非常に高リスクであるという落とし穴がある。FXでもマーチンゲール法は存在する。引用記事では金融当局たるFRBがまさにそのギャンブルに興じていることが指摘されている。
2 米国の銀行の一種であり、銀行以外に全国的に競争力を持つ証券、保険会社等を所有し、国際的にも事業を展開している銀行を指す。
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