ダストマン&メルツ&オカテンコ「不良が多い地域では、若年層の犯罪や10代の出産が増えるのだろうか?」(2023年3月31日)

子供は、生育地域によって将来の収入や学歴に影響を受けるかもしれない。この論文では、デンマークでの難民家族の準ランダムな地域分布的自然実験を元に、該当地域での不良犯罪の水準が、子供の犯罪派生率にどのように影響を与えるかを調査した。子供は、不良が多い地域で育つと、男子は19歳までに犯罪を犯す可能性が、女子は10代で母親になる可能性が高まり、男女ともに経済的成果に長期的なマイナスの影響を与えることが判明した。

子供は、育つ地域の特徴によって、将来の所得や学歴に影響を受けるのだろうか? これまでの研究では、地域環境が、子供の将来所得や学歴に影響を与えることが示されている(Chetty et al.2016、Chetty and Hendren 2018、Fatemeh et al.2019)。 地域環境での犯罪が、10代の発達に与える影響は特に懸念されている(Deming et al. 2016, Dustmann and Landersø 2018)。最近の論文では、不良犯罪の水準の高い地域で育てば、犯罪行動、10代の出産、長期的な経済成果に影響を与えることが推定されている(Dustmann et al. 2023)。

我々は分析において、デンマークで行われたユニークな自然実験を利用した。この実験では、難民の家族が、不良犯罪の水準が異なる自治体に準ランダムに割り当てられている。この自然実験は、〔自治体ごとの〕より一般的な犯罪行動への波及効果(Damm and Dustmann 2014)や、難民の移住による選挙結果への影響(Dustmann et al.2019)等で利用されている。〔この自然実験に〕詳細な有罪判決の記録を併用すると、不良犯罪の水準を構築することができる。次に、不良犯罪の水準が違う自治体に配置された子供の結果を比較すれば、不良犯罪が多い自治体に配置された子供がどのような影響を受けるかの因果関係の推定が可能となる。

地域に不良が存在すれば、少年が青少年期になって犯罪を犯す可能性が高くなる

15歳までに、不良犯罪の水準が高い自治体に配置された少年は、15歳から18歳までの間に犯罪を犯す可能性が高いことが判明した。図1に示したように、配置地域での不良が関与している犯罪の発生率が標準偏差で1高いほど、15歳から18歳までの少年の犯罪発生率は3.7ポイント(10.6%)上昇する。図1では、犯罪の種類別での影響も示しており、それによると、暴力犯罪と、不良犯罪に最も影響を与えており、配置地域の不良犯罪の水準が標準偏差で増加するごとに、それぞれ約28%増加している。

図1:有罪犯罪率と、自治体での不良犯罪率

(注記):図は、配置された難民の少年が、15歳から18歳の間に少なくとも一度は有罪判決を受けるような犯罪を犯した割合(黒字)を示している。灰色の某グラフは、配置先自治体での、不良犯罪が標準偏差値で1高くなった場合の犯罪率の上昇を示している。縦線は、95%信頼区間を示している。

研究結果からさらに示唆されるのは、7歳から14歳の間に該当地域に移住した少年が最も影響を受ける事実である。7歳から14歳までの少年が、不良による犯罪率が標準偏差値で1高い自治体に配置されると、15歳から18歳までの間に、犯罪を犯す確率が17.5%増加している。

男子への大きな影響とは異なり、配置する自治体によって、女子が犯罪行動において影響を受ける証拠は発見できていない。

不良が地域に存在すると、10代での出産は増加する

不良犯罪は、女子の犯罪行動には影響を与えないが、10代での出産の確率を上げている。これは、女子のリスクある行動は早期の母体化となって現れる、とのサンダース(2011)の仮説に一致する。

図2では、不良犯罪の標準偏差値で1高い自治体に配置された女子は、19歳未満での出産する確率が2.3ポイント(約48%)高くなることが示されている。男子の場合と同様に、この影響は、7歳から14歳までに該当自治体に配置された女子に最も強く、正確に測定される。これは、6歳から14歳までを、重要な発達期間として指摘する社会科学の文献とも一致しており、この年齢での子供は、地域環境による行動への影響リスクが高まるのである(総説についてはIngoldsby and Shaw 2002を参照)。

図2 10代での出産と、自治体での不良犯罪

(注記):図は、配置された難民の女子の10代での平均出産率(黒)を示している。灰色の棒グラフは、配置先の自治体の不良犯罪率が標準偏差で1高くなると。、10代での出産率が高くなることを示している。縦線は95%信頼区間を示す。

この論文では、10代で出産した女性の子供の父親は、同世代の少年より不良犯罪を犯している可能性が高いことを示している。これは、女子と不良メンバーとの直接の社会的交流を、1つの重要なメカニズムとして重視するものである。

地域に不良が多いと、経済成果に長期的で有害な影響を及ぼす

不良による犯罪は、若年層男性の犯罪、若年層女性の10代での出産に影響を与え、彼・彼女らの長期的な経済成果に影響を与える可能性がある。

我々の調査によると、不良犯罪の多い自治体に配置されると、19歳から28歳までの若年層において、雇用・教育水準が有意に低下するることが判明した。若い女性の場合、19歳から28歳になると、収入の水準が低下し、生活保護の受給割合が上昇する。標準偏差値が1高い自治体に配置された場合、19歳から28歳までの間に、男子は非活動期(雇用にも教育にも従事していない)の時間が8.2%高くなり、女子は生活保護の受給率が6.5%上昇する。

地域での不良犯罪は、自治体間の他の相違点よりもはるかに重要である

各自治体は、不良犯罪以外でも、多くの要素で相違点がある。我々の非常に詳細なデータでは、自治体間の不良犯罪の水準の差と、他の相違点との比較が可能となっている。結果、該当地域での不良犯罪が、子供の将来帰結に影響を与える、単独条件において最も重要な要素であることが判明した。

考察

本研究によって、不良犯罪が、15歳から18歳にかけての少年の犯罪傾向の増加につながることが明らかになった。少女の場合では、不良犯罪への接触による犯罪行動への影響は見られないが、自治体内での不良犯罪の水準が高いほど、10代での出産が増加する強い証拠が得られた。さらに、幼少期に高い水準での不良犯罪に晒されると、男性では不活動率の上昇が、女性では収入の低下や生活保護受給率の上昇が見られる。こうした影響において、自治体間の様々な相違点からの影響を比較すると、不良犯罪の水準差は、他の相違点よりも、非常に大きなものとなっている。

我々の研究では、不良犯罪は、若年層男性の犯罪率の上昇、若年層女性の10代での妊娠を引き起こし、成人初期の経済的成果を低下させるという、特筆すべき有害な地域特性であることが強く示された。本研究結果は、住民や子供のために、地域の状況を改善しようとする政策立案者によって、犯罪や不良犯罪活動への対処を優先すべきことを示唆している。

参考文献
Chetty, R, and N Hendren (2018), “The effects of neighborhoods on intergenerational mobility I: Childhood exposure effects”, Quarterly Journal of Economics 133(3): 1107–62.

Chetty, R, N Hendren, and L Katz (2016), “The effects of exposure to better neighborhoods on children: New evidence from the moving to opportunity experiment”, American Economic Review 106(4): 855–902.

Damm, A P, and C Dustmann (2014), “Does growing up in a high crime neighborhood affect youth criminal behavior?”, American Economic Review 104(6): 1806–32.

Deming, D, S Ross, and S Billings (2016), “Neighbourhood spillovers in youth crime: Social interactions matter”, VoxEU.org, 11 July.

Dustmann, C, and R Landersø (2018), “Social multipliers in crime: Measuring the spillover effects of criminal behaviour”, VoxEU.org, 18 May.

Dustmann, C, M Mertz, and A Okatenko (2023), “Neighbourhood gangs, crime spillovers, and teenage motherhood”, Economic Journal (forthcoming) and CReAM Discussion Paper 04/23.

Dustmann, C, K Vasiljeva, and A Piil Damm (2019), “Refugee migration and electoral outcomes”, Review of Economic Studies 86(5): 2035–91.

Ingoldsby, E M, and D S Shaw (2002), “Neighborhood contextual factors and early-starting antisocial pathways”, Clinical Child and Family Psychology Review 5: 21–55.

Sanders, S G (2011), “Crime and the family: Lessons from teenage childbearing”, in P Cook, J Ludwig and J McCrary (eds.), Controlling Crime: Strategies and Tradeoffs, University of Chicago Press.

著者紹介
・クリスチャン・ダストマン
移住調査分析センター(Research And Analysis Of Migration)所長。ベルリン・ロックウェル財団経済と将来労働機関。エコノミクス・ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドン教授
・ミッケル・メルツ
移住調査分析センター研究助手。ロンドン大学の博士課程学生。ロックウェル財団研究員。
・アンナ・オカテンコ
ジャスト・イート・シニアデータアナリスト

[Neighbourhood gangs, crime spillovers, and teenage motherhood
(VOX, 31 Mar 2023)
〔一般社団法人経済学101は皆様の寄付によって賄われています。活動方針にご賛同頂ける方からの温かい支援をお待ちしています。詳しくはこちらをご覧ください〕

Total
0
Shares

コメントを残す

Related Posts