アダム・トゥーズ「ドイツの民主主義に走った地震:ザクセン=アンハルト州におけるAfD躍進と、“もう一つの選択肢に代わる選択肢(オルタナティブへのオルタナティブ)”という問題」(2026年9月8日)

ドイツの民主主義は激震に見舞われている。

週末に行われたドイツ州議会選挙で、人口わずか200万人強の小さな州ザクセン=アンハルト州は、AfD(ドイツのための選択肢)に44パーセントという圧倒的な比較多数票を与えた。AfDは、選挙地図を驚くべき形で塗り替えてみせたのだ。

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この目覚ましい結果にもかかわらず、AfDが次期ザクセン=アンハルト州政府を樹立するかどうかは、まだはっきりしない。他の政党が結束して、AfDを政権の座から遠ざける可能性もある。連邦レベルで見れば、AfDが政権に加わる可能性はさらに小さい。とはいえ、今回の結果はドイツの政治システムを揺るがすものだ。ドイツ連邦共和国の従来の政治的規範が、いかに崩壊してしまったかを示しているのである。もう一つの小さな東ドイツの州、メクレンブルク=フォアポンメルン州でも9月20日に選挙が行われるが、結果は似たものになる可能性が高い。ドイツにおける民主主義の危機は、かねてから予測されてきた。それがいよいよ現実のものとなったようだ。

AfDと一口に言っても、その政治的色合いは一様ではない。ザクセン=アンハルト州のAfDは、ドイツ当局によって公式に「右翼過激派」に分類されている。AfDの候補者ウルリヒ・ジークムントは、かつて企業向けに香料を売り込んでいたセールスマンで、地下鉄の駅をバニラの香りで満たせば犯罪が減るとベルリン市(州)政府を説得しようとしたことがある人物だ。作り話ではちょっと思いつかない、現実離れした逸話だ!

東ドイツ崩壊後に生まれたジークムントは、一方でシュタージ〔旧東ドイツの秘密警察〕や社会主義統一党(SED)による弾圧といった暗い過去にも触れつつ、他方では、シムソン社製の風変わりで個性的な原付自転車(モペッド)に象徴されるような、独自のアイデンティティを持った小さなドイツ国家としての東ドイツの記憶を美化している。シムソン社を創業した(ユダヤ系の)一族が、自分たちの家名を政治利用されたことに抗議すると、ジークムントは彼らを、東ドイツの現実を理解していない、招かれざるアメリカ人の「おせっかい屋」だとして一蹴してみせた。

ジークムントは、ドイツ右派の面々が大規模な〔移民を強制送還させる〕「再移住(レミグレーション)」政策について話し合った秘密会合に出席していたことで悪名を馳せた。かつて〔AfDが〕否定していたこの政策的立場は、その後AfDが公然と掲げるものとなっている。ジークムント自身は、この出席をめぐるスキャンダルを、むしろ歓迎すべき「宣伝効果」だとみなしている。

ザクセン=アンハルト州のAfDを取り巻く右翼的な雰囲気を味わいたければ、このシムソン集会の動画を見ることをお勧めする。警備に並んでる面々にも注目してほしい!

また、もし耐えられるなら、この「家族向け」集会で「Nワード」が平然と使われている様子もぜひ見てほしい。
〔訳注:Nワードは、黒人差別用語〕

控えめに言っても、AfDは人種差別的な排外主義(ゼノフォビア)政党である。

すでに指摘されている通り、アンハルト州は1932年、ドイツで初めてナチスの州首相を選出した場所だ。もっとも、ザクセン=アンハルト州には、左派の歴史もある。ただし左派を選択したのは最近になってからだ。1990年代後半、同州の有権者は社会民主党(SPD)を第一党とし、左翼党(Die Linke)の前身である民主社会党(PDS)を確固たる第3党に押し上げた。社会民主党(SPD)は緑の党と少数与党を組み、民主社会党(PDS)の暗黙の支持を受けて州政府を樹立した。

したがって、説明を必要としているのは、この地にナショナリズム的感情が根強く続いていることよりも、むしろ実現しえたはずの進歩派多数派が崩壊してしまった理由である。この問いに答えるために、東ドイツ出身のジャーナリスト兼評論家であるヤナ・ヘンゼルが提示する説明が、大筋において説得力を持つと私は考えている。

〔東ドイツにおける〕信頼の崩壊は2000年代、赤緑連立政権(SPDと緑の党との連立政権)が「ハルツIV改革」として知られる、ドイツの福祉・労働市場行政モデルへの大胆な改変によって引き起こされたとヘンゼルは主張している。2003年から導入が始まったこの改革は、生活保護受給者への圧迫を劇的に強めると同時に、税引き前所得で見た格差を示すジニ係数の急上昇と時を同じくしていた。政治的観点から見ると、この改革は東ドイツの人々に、〔統一ドイツという〕運命共同体の幻想を打ち砕くものだったと、ヘンゼルは論じている。

当初、この改革によって、人々は深く疎外され、意欲を喪失することになった。1990年代後半から2000年代初頭にかけての左派・進歩派の活力は、霧散してしまった。選挙史においてザクセン=アンハルト州がそれまで唯一名を知られていたのは2006年のことで、同年の州議会選挙では投票率がわずか44.4%にとどまり、州議会選挙として史上最低を記録した。

AfDは、こうした状況を一変させた。2006年の底から一転し、今回の週末の選挙では投票率が78パーセントまで急上昇した。2021年時点ではわずか60パーセントほどだったことを思えば、大きな上昇率だ。この選挙動員を主に牽引し、また最大の恩恵を受けているのがAfDだ。今回の選挙でAfDは支持を急拡大させたが、その増加分の圧倒的多数は、これまで棄権していた層からのものだ。

政治学者ユリウス・ケルツァーによる精力的な実証研究が示すように、このAfDの動員は同州の農村部において最も顕著だ。政治経済学者フィリップ・マノウが、ドイツにおけるポピュリズムの高まりを「民主主義の民主化」と呼ぶのも、根拠のないことではない。我々が目の当たりにしているものは、ドイツの民主主義体制への高度に動員された抗議票であり、これは「排外主義(ゼノフォビア)と、国や地域への帰属意識への傾倒」という形で表出したものである――との基本的な診断にはうなずかざるをえない。「郷土(ハイマート)」が、今回の選挙ではレトリック的なキーワードであり続けていた。しかし、この〔AfDの〕安心感を与えるメッセージは、根本的な危機感と、何か抜本的で新しいことをしなければならないという要求と対になっている。当然のことながら、『ディー・ヴェルト』紙のウルフ・ポシャルトのような右派の論客は、我々が馴染んでいる「ベルリン共和国」の終焉を宣言している。

この「終焉(ウンターガング)」というムードを共有したくない人々でさえも、今回の州議会選挙が切り開いてしまった劇的な展望と向き合わざるをえない。この抗議票を前にすると、社会的不利益や、ザクセン=アンハルト州の経済状況といった、おなじみの論点にお決まりの問いを投げたくなる。そして、そこに根深い不満の答えを見出すのはたやすい。

ドイツの成長率は芳しくないが、ザクセン=アンハルト州の成長はさらに緩慢だ。失業率も相対的に高い。ザクセン=アンハルト州の経済は、かつては「中央ドイツ」の国家主導工業主義の主要な経済ハブだった。伝説的な輸送・旅客機JU52の生産拠点だったユンカース社のオリジナル工場は、デッサウにあった。ザクセン=アンハルト州はかつて、共産圏全体向けの鉄道車両を製造していた。また、東ドイツ(GDR)の化学工業生産の一大集積地でもあった。控えめに言っても、これらは今、好調とは言えない業種ばかりだ。人口は高齢化し、減少を続けている。

こうした背景のもと、AfDは、フランスやイタリア、英国の同種政党と同じように、自らを「労働者」だと認識する層(そのうち60パーセントがAfDに投票)や、経済的に苦しいと答える層(65パーセントがAfDに投票)に強く訴えかけている。いずれも有権者中で多数派を占める層ではないが、その投票傾向の偏りは多くを物語っている。一方で、高等教育を受けた層でAfDに投票するのはわずか30パーセントにとどまっている。

では、この調査結果からどのような結論が導かれるのだろうか? 経済的に困窮した右派寄りの労働者階級の有権者を「取り戻す」のに、福祉政策の改善や物価の安定を提示すればよい、というのは一見わかりやすい結論に思えるかもしれない。AfD支持者に何を心配しているか尋ねると、「外国人が多すぎる」という排外主義的な懸念と並んで、生活費の高騰や生活水準への不安を挙げるだろう。気候変動や、対外戦争の脅威についても言及している。

出典:イザベラ・ウェーバー

以上がAfD支持者の抱くだ。ところが、〔AfD支持者に〕AfDについてどう思うか、なぜAfDに投票したのかを尋ねると、経済的な争点はほとんど言及されない。真っ先に挙げるのは、治安、外国人、「ウォーク(過度に進歩的な)政治」、政治に自分たちの声が届いていないという感覚、などだ。

経済的に苦しい労働者階級の人間が、社会保障の改善を期待してAfDに投票するのだとするなら、それは結局のところ、奇妙としか言いようがないのだ。ザクセン=アンハルト州には、進歩的な福祉政策を掲げる政党――とりわけ左翼党(Die Linke)、さらには、議論の余地はあるがSPDや緑の党も――も存在するにもかかわらず、有権者はそちらへは流れていない。AfDを選ぶということは、有権者は、社会政策の面では、ドイツの伝統的な企業寄り・自由市場政党であるCDUやFDPよりもはるかに右に位置する政党を選んでいることになる。

出典:DIW

要するに、現在の政治状況のもとでAfDに投票するということは、有権者がどのような経済的問題を抱えていようとも、それを社会民主主義や福祉、政府による介入によって解決してもらうことを期待しての投票ではないのだ。それは、外国人を厳しく取り締まるための投票行動なのである。それによって雇用や乏しい福祉資源が改善されると想像しているのかもしれない。だが何よりもそれは、現状を拒絶し、抜本的な行動を求め、「オムレツを作るには卵を割らねばならない」〔目的のためには多少の犠牲や混乱も厭わない〕ことを恐れない人物への投票なのだ。AfDに投票することで、何らかの社会経済的なビジョンへの投票をしているとするなら、その特徴は「自国民優先主義(ネイティビズム)・生産者中心主義(プロデューサリズム)・応分主義(ディザーヴィズム)」とヨナス・ユナックが表現しているものなのだ。この3つのそれぞれの政治思想の内実は以下だ。

・自国民優先主義(ネイティビズム):自国生まれの住民の利益を、移民の利益よりも優先する政治的立場・世界観。新参者が地元の文化・雇用・公共資源を脅かすという不安に、根ざしていることが多い。[1, 2, 3]

・生産者中心主義(プロデューサリズム):社会の「生産的な」構成員――典型的には労働者階級・中間層の肉体労働者、農業従事者、中小事業主――が、(金融資本家のような)遊惰な経済エリートと、生産に従事しない依存者(扶養される人々)の双方から搾取されているとする政治思想。

・応分主義(ディザーヴィズム):市民・非市民を、支援・福祉・法的地位に「値する」「ふさわしい」者と、フリーライダーやよそ者とみなされる者とに、道徳的に区分することを中心とした概念。(情報提供:Gemini)

私見では、進歩派の政策がこうした有権者に何らかの形で働きかけようとするならば――そもそも働きかけるべきかどうか自体に疑問の余地があるが――そうした有権者の相対的な経済的不遇という物質的現実だけでなく、何よりもAfDが「アウトサイダー」としての信用を備えていることに対処しなければならない。

AfDの人種差別と排外主義(ゼノフォビア)は、紛れもない現実だ。しかしそれらは、一種の「コミットメント・デバイス(後戻りできないよう自らを縛る仕組み)」として機能しているがゆえに、より強大となっている。公然と極右過激派として行動し、そのようにレッテルを貼られることで、かえって「本物」としての主張を確立するのである。彼・彼女らは「ベルリン共和国」という主流派(メインストリーム)の外側にもう一つのアイデンティティを打ち立て、有権者をそこに招き入れている。AfDは、こうした共同体を育て、築き上げることに、熱心に取り組んできた。東ドイツの諸州において、その共同体は今や多数派に近づきつつある。

こうした〔AfDの反主流派アイデンティティを掲げる〕政治プロジェクトに対して、社会・経済政策を改善して主流派を補強・改革・改善すればよいと考えるのは、控えめに言ってもお花畑的思想と言わざるをえない。より自明な結論はこうだ――もし我々がAfDと政治的な土俵で対峙したいのなら、必要なのは単に「これまでと同じことをもっと提示する(もっと良くする)」のではなく、「もう一つの選択肢に代わる選択肢(オルタナティブへのオルタナティブ)」を提示することにある。しかも、単なる物質的な利益以上の「オルタナティブ」を提示する必要があるのだ。つまり、アイデンティティを生み出すものでなければならない。

『サープラス(Surplus)』誌で私の同僚でもあるイザベラ・ウェーバーが「反ファシズム経済学」を呼びかけ、ドイツ経済研究所(DIW)のマルセル・フラッチャーが25年前の〔シュレーダー政権期の「ハルツIV改革」を柱とする労働・福祉制度改革〕アジェンダ2010以上に「さらに広範囲に及ぶ」大規模な改革プログラムを呼びかけているが、彼・彼女らはそこで、ドイツにおける大胆かつ急進的な行動の必要性を訴えているのだ。二人ともに、具体的な経済政策――(ウェーバーは)物価統制措置、フラッチャーの場合は一連の「改革」――を念頭に置いている。

しかし、ザクセン=アンハルト州の選挙結果を受けた今、中心的な問題となるのは、次のようなものにならねばならない。ウェーバーやフラッチャーのような政策は、現在の主流たるベルリン政治を超える新しい政治的アイデンティティを築くのに十分なのだろうか? それとも、〔新しいアイデンティティ政治の構築は〕AfDだけの専売特許にしておいてよいのだろうか?

[Adam Tooze, “Chartbook 473 Germany’s democratic earthquake: the AfD breakthrough in Sachsen-Anhalt and the question of an “alternative to the Alternative””, Chartbook, no.473, Sep 08, 2026]

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