気候変動に取り組むうえでの大きな困難の一つは、世の中に悪い情報源が蔓延していて、悪質な情報もばらまかれていることだ。左派の気候変動活動家たち(気候変動問題について何かしようと自身の時間と労力を費やす傾向が最も強い人たち)は、「100社の企業が世界の排出量の70%を引き起こしている」とか「10%の富裕層が排出量の半分を占めている」といった馬鹿げた主張をする疑似左派的な情報を入手してしまいがちだ。それから右派。彼らは、以前だと気候変動を否定することにやっきだったけど、最近になってグリーンエネルギーへの巨大な不信感(金融関係者を除けば、グリーンエネルギーは「恐怖、不確実性、疑わしい」)を煽り立てている。こうしたとりまく事象から、クタクタになってしまうんだ。結果、多くの人たちが、気候変動への議論を避けがちになってるんだと思う。
こうした状況には、本当にイライラしてしまう。世の中には、本当にたくさんの優れた情報源がある。僕が気に入ってる情報源は以下の4人だ。ナット・ブラード(ブルームバーグ通信の新エネルギー・ファイナンスを以前担当)。Stripe社とCarbonBrief誌に所属するジーク・ハウスファザー。オックスフォード大学とOur World in Data社のハンナ・リッチー。プリンストン大学のジェシー・ジェンキンス。気候変動について何が起こっているのかを本当に知りたいなら、まずこの4人の研究をフォローすることをお勧めしたい。もっとも、『エコノミスト』みたいな雑誌や、IEA(国際エネルギー機関)のような国際機関にも素晴らしい情報がてんこ盛りだ。
何はともあれ、気候変動は、図表で全容のほとんどが把握できる問題の一つだ。最近になって、気候変動やグリーンエネルギーについて興味深いグラフがたくさん発表されたので、僕のお気に入りのものをいくつかピックアップして、そこから何が得られるかについてに少し話してみようかと思う。基本的には、以下の5つの重要な事実が目を引く。
1.気候変動は深刻になりつつある。
2.気候変動は対処可能だけど、まだ未着手だ。
3.アメリカとヨーロッパはもう最大の問題となっていない。
4.グリーンエネルギーは本物だ。
5.排出量の削減に、脱成長は必要ない。
それじゃさっそく、グラフを見ていこう。
気候変動は深刻になりつつある
数年前まで、寒い冬の日があるたびに、ツイッターで地球温暖化を揶揄していた人がいたことを覚えているだろうか? 2023年は、こうした行為にとどめを刺したんだ。2023年は、僕たちの生きてきた時代、いや現代人類の歴史の中で最も暑い年だった。パリ条約は気温上昇を1.5℃以内に抑えようとしているわけだけど、この1.5℃上がった世界のありようを実感させてくれた。
上は一年単位での気温変動を示している良いグラフの一つだ。2023年は異常な暑さで始まったんだけど、夏と秋になってこれまで見たことがないような暑さにまで跳ね上がっている。
これは、世界はもう1.5℃を超えて温暖化してしまったという意味じゃないよ。この〔1.5℃上昇の〕基準値を正式に超えたとするには、毎年この状態が維持されなければならない。運が良ければ、気温は若干上下動することで、2023年は例外的な猛暑だったと証明されるだろう。それでも、気温が毎年上昇する傾向にあるのは間違いのない事実で、2023年は一番熱心な懐疑論者でさえも黙らせるのに役立ったんだ。
言うまでもなく、気温変動は、最終的には南極の氷を溶かし始めて、世界中の海面を上昇させるだろうと何年も前から言われてきた。ただし今のところ、それはほんの少ししか起きていない。それでも、2023年には南極大陸周辺の海氷はいままでにないくらい溶けている。
それから、気温変動の結果として、山火事、沿岸部の洪水、河川の反乱、激しい熱波、暴風雨のような自然災害が増えるだろうとも言われてきた。これらも、今や実際に起こっている。少なくとも2000年代後半以降になって、数十億ドル規模の災害(もちろんインフレ調整済み)の勃発頻度は増加傾向にある。
長期的に見れば、コストがかさむ災害が増えているのは、豊かな国ほど被害を受けるインフラが多いという事実に一部起因している。しかし、わずか数十年の間に災害が急増しているのは、自然環境の危険化にほぼ起因しているのは間違いない。
むろん、自然災害は、気候変動だけが原因となっているわけではない。森林管理の不備や都市のスプロール化は山火事の被害の一因となっているし、沿岸部の過剰な建築は都市を洪水に対して脆弱にしてもいる。しかし、自然に耐える建築が突如として劣化し始めたわけではない。
つまるところ、気候変動は現実で、深刻化の一途をたどっている。みんな議論することに疲れてしまってるかもしれない。でも、関心を払うをやめたからといって、問題が解決するわけじゃない。悪化が進めば、もっと多くの家屋が火災にあったり、洪水に見舞われたり、暴風にさらされるだろう。だから、僕たち自身のためにも、気候変動がもっと悪化する前に、阻止に努めたほうがいい。2023年は、僕たちに無視できない警告を与えてくれた。
気候変動は対処可能だけど、まだ未着手だ
気候変動はほぼ完全に人間活動(二酸化炭素とメタンの排出)に起因している。僕たちが排出量を増やせば増やすほど、気候変動は大きくなる。
でも、この数十年の間に、すごく良いことがいくつも起こっている。第一に、人類は化石燃料に代わる技術を発明してきたことだ。主なものは、太陽光発電と蓄電可能な高性能バッテリーだ。これによって、排出量を減らそうとする自然なインセンティブが生まれたんだ。第二に、2010年代初頭に世界各国が集まって排出量削減のための国家目標を設定したことだ。その後の2010年代後半には、期日を定めて排出量を「ネット・ゼロ」にする様々な国の公約が出された。第三に、アメリカでは石炭火力から二酸化炭素排出量の少ない天然ガスへの転換が進んでいることだ(アメリカはメタンを多く排出しているが、これは簡単に対処できるし、大気中からもかなり速く除去される)。
この3つの事実から、気候モデルの研究者たちは、それまでの終末論的なシナリオのいくつかを撤回することになった。研究者たちは、現在の最も可能性の高いシナリオで、1.5℃から3.9℃の間のどこかで気温が上昇すると考えている。予測では、僕たちが何もしないで、グリーンエネルギーの潮流に身を任せるままだと、一番可能性が高い結果は約2.6℃上昇になるとされている。各国が、パリ協定の公約を守れれば、気温上昇は2.4℃ほどになるとされている。しかし、各国が大胆な公約に従ってそれを実現させれば、気温上昇を1.7℃まで抑えられるかもしれない。ジーク・ハウスファーザーによるこの3つの異なる予測をまとめた素晴らしいグラフは以下だ。
さらに上のグラフの青いグラフの箇所を、もっと詳細化したものが以下だ。
そして、以下は、ベースラインシナリオで排出量がどうなるかを示したグラフだ。排出量は今世紀半ばまでは基本的的に横ばいで推移して、その後に減少することになる。
1.7℃と2.6℃の違いをグラフにするのは難しい。普通の人からすれば、些細で、もしかしたら意味にない違いに見えるかもしれない。でも実際には、0.9℃の差は気候変動への影響として相当に大きいんだ。1.5℃と2.0℃との予測の違いについてはCarbonBriefがわかりやすく説明しているし、ネット上には他にもいろんな説明がある。その差は大きい。でも、2.5℃の気温上昇についての情報はほとんどない。このままだと2.5℃前後に向かうことを考えると、気候コミュニケーションにおけるギャップのように思えるかもしれない。2.5℃上昇の世界がどんなものになって、1.5℃よりどれだけ悪化するのかについてもっと多くの説明が必要だ。
アメリカとヨーロッパはもう最大の問題となっていない
上で言ったように、気候変動はほぼ完全に人為的なものだ。でも、その排出量はどこから来ているのだろう? 二酸化炭素に関してだと、最大の割合になっているのは石炭の燃焼であり、電力、熱、製鉄のような工業プロセスから生じている。石炭は、他の燃料に比べて二酸化炭素を多く排出するので、気候変動に特に悪影響を与えている。石油は輸送用燃料として主に使用されていて、僅差で2位となっている。
良いニュースは、世界の石炭使用による排出量が横ばいになっていることだ。これによって、世界全体での炭素排出量は2010年以降大幅に鈍化している。
次に悪いニュースだ。アメリカやヨーロッパでは二酸化炭素排出量の削減が大きく進んでいる。この削減において、製造業のアジアへの移転に起因するものはほとんど、あるいはまったくない。でも同時に、中国を代表とする欧米以外の排出量は急増していて、今ではアメリカやEUを完全に圧倒している。
中国は、自国の気候変動への対策の公約を反故にして、大量の石炭火力発電所を新しく建てている。先進民主主義国は新規の石炭火力発電所を全く建設していないし、中国以外の開発途上国も現在もほとんど建設していない。
もちろん、中国は世界のグリーンエネルギー、特にソーラーパネルとバッテリーの主要な製造国で、これは良いことだ。でも、中国が大量の石炭を燃焼させ続ける限り(これは中国の政治的インセンティブと産業政策に関連している)、気候変動は悪化し続けるだろう。アメリカやヨーロッパが自国での石炭と石油の使用料を削減し続けないといけないのは明らかだ。でも、中国(と東南アジア)が削減に参加しないと、西洋諸国の努力は帳消しにされてしまうかもしれない。
これを左派の気候活動家たちに話すと激怒するんだけど、これは事実だ。そして、先進国が中国の行動に影響を与えるために何かできることがあるとしても、現時点でそれは明らかになっていない。炭素関税は良いスタートになるかもしれない。インドネシアのような石炭の輸出国から石炭を買い占めて、中国が燃焼しないように地中にそのままにしておくみたいなアイデアもある。まあ、これについては別に長い記事を書いてみよう。
グリーンエネルギーは本物だ
気候変動に打ち勝つための最大の希望、そして近年状況が大きく好転した理由は、テクノロジーだ。太陽光発電と蓄電池は、学習曲線が上方に急勾配してして、導入すればするほどコストが低下している。バッテリーには、主に2つの用途があるので、特に重要になっている。1つ目の用途は、輸送用動力源として石油に取って代わることだ(電気自動車)。2つ目の用途は、〔発電の〕断続性を平準化することで太陽光や風力が、石炭に代わるのを助けることだ。
太陽光と風力から始めよう。現時点だと、ソーラーパネルは中国が大量に生産しているおかげで非常に安価で、実質的に無料だ。用地や設備にかかるコストも穏やかだけど低下傾向にある。風力発電もそこまで急速ではないが安くなってきているけど、用地のコストは高くなっている。
ともかく、太陽光と風力は、今や非常に安価になっているので、電力会社は大量設置を開始している。2022年の時点で、太陽光と風力は世界の発電量のほぼ1/8を占めていて、2023年にはさらに大きく増加する見込みだ。
これは本当に後戻りすることにない上昇のようだ。実際、太陽光と風力は、原子力や液化天然ガスよりも急速に拡大している。
次にバッテリーの話だ。皆知っているように、太陽光と風力は〔発電量が〕断続的なんだ。これを解決するのには通常は、太陽光発電や風力発電が停止したときにだけ、天然ガスのピーク時発電を稼働させている。この解決策では、排出量をある程度で生み出すしてしまうけど、天然ガスで全て電気を賄ったときよりずっと少なくなる。しかし、もっと優れた解決策は、晴天時の余剰太陽エネルギー(または強風時の余剰風力エネルギー)を蓄電するバッテリーを大量に用意して、太陽光や風力が利用できないときにはバッテリーに蓄電された電力を使用することだ。
電力網のためのバッテリー貯蔵が費用対効果に見合うかどうについて、これまでは百花繚乱だった。でも、世界に目を向けるとバッテリー貯蔵は指数関数的に増加しているようだ。
もちろん、バッテリーは電気自動車にも役立つ。そして、この分野でも、安価なバッテリーは加速度的に普及している。ガソリンスタンドに行く必要がないといった電気自動車の本来の利点も一緒になって、指数関数的に増加している。
今年になってアメリカではEV(電気自動車)革命が失速しているという話が相次いたけど、今になってそうした話は正確でないことが判明している。アメリカではEVへの移行が加速し続けている。
それから、グリーン技術革命は、単に補助金や規模の経済だけでなく、根本的な技術革新によって促進されていることにも言及する価値がある。もちろん、グリーンエネルギーへの補助金は良いことだよ。気候変動に打ち勝つには、市場による導入よりも早くグリーンエネルギーを導入する必要があるからなんだ。でも、ソーラーパネルやバッテリーの技術力に目を向けると、それがが改善の一途をたどっていることがわかる。
まずは、ソーラーパネルに関する数値だ。太陽光を電気に変換する効率は、2018年の16.8%から、2023年には21.3%にまで跳ね上がっている。
EV用バッテリーの場合だと、鍵となっている測定基準(少なくとも鍵の一つである測定基準)はエネルギー密度だ。これでも、技術の継続的な向上を見ることができる。
一方、グリーンテクノロジーに疑念を抱かせるために使われている主張の一つが、必要なバッテリーを製造するために簡単に回収できる金属が世界には十分に存在していない、というものだ。ハンナ・リッチーが書いているように、この可能性は極めて低い。例えば、彼女が制作したリチウムのグラフは以下となっている。
彼女は、銅、コバルト、グラファイト、ニッケル、ネオジムなんかの他の重要な鉱物についても同じようなパターンがあるとするグラフを出してるけど、そうしたグラフからもっと楽観視できることがわかる。
世界にはリチウムが溢れている(アメリカ国内でも大量のリチウムが発見されている)という認識が、ここ数ヶ月でのリチウム価格の大幅下落の一因かもしれない。
それから、使用済みのソーラーパネルや風力タービンなんかから発生する廃棄物を心配する人もいる。でも、これはそんなに心配事じゃない。石炭火力に比べると、廃棄物は非常に少ないんだ。
ともあれ、以上全てからグリーンエネルギーは、環境保護主義者や政府の大盤振る舞いで促進されている一過的な流行じゃないとわかってもらえたと思う。気候危機を解決するための手段はもう存在しているんだ。僕たちがすべきことは、それらを採用するだけだ。
排出量の削減に、脱成長は必要ない
最後に、気候変動への対処が、経済の他の部分どんな影響を与えるかについて話しておくことは重要だ。気候活動家の中には、化石燃料をやめるには脱成長しかないと考える人もいる。基本的な考えとなっているのは、排出量とGDPは不可逆的に結びついていて、石油や石炭や天然ガスの使用をやめながら長期的にGDPを増やす方法はない、というものだ。
幸いなことに、これは間違えている。IEAの最新の報告書によるなら、世界のGDPと二酸化炭素排出量の関係はどんどん分離していっている。
このデカップリング(分離)は、アメリカ、UE、その他の裕福な国で特に顕著になっている。
このデカップリングは、排出量を中国に外部移転したからじゃないよ。そんなのは神話だ。消費ベースでの排出量を見てみると、先進民主主義国家による、排出量のオフショアリングはほとんど見られない。
中国の実態を観察してみても、同じようなデカップリングのパターンを見ることができる。中国の排出量は増加を続けているが、GDP成長率との乖離は絶対的なまでに大きい。
こうしたデカップリングがまだ起こっていないのは、東南アジアと中東だけみたいだ。
ここまでを総括すると、人類の未来は大丈夫そう――少なくも気候変動に関する限りはね。太陽光発電とバッテリーの魔法を使えば、僕らは文明の進歩を維持しながら、地球の気候への破壊的な影響を減らすことができる。たしかに、中国の石炭産業、中東の浪費、アメリカのNIMBY〔建築規制等でインフラ・住宅提供や住宅価格が高騰する問題〕など、まだ大きなハードルは残っている。でも、15年前と違って、僕たちは今、営為を成し遂げるだけのツールを手にしているんだ。
[アイキャッチ画像出典:ナット・ブラード]
[Noah Smith, “A bunch of handy charts about climate change” Noahpinion, February 13, 2024]