カリフォルニア大学サンディエゴ校の入学に関する評議会レポートで,数学と読解で学生の技能が急激に低下しているのが記録されている――前から危ぶまれていた件だけど,今回は大学内部から警報が響いている.
本学は真に憂慮すべき状況にある.2020年から2025年にかけて,数学の〔習熟度別〕クラス分け試験の結果で中学校レベルの基準に満たない新入生の数が30倍近く増加している.カリフォルニア大学本部が定める最低限の数学カリキュラムを超える範囲を,そうした学生のほぼ全員が履修済みであり,多くが高い成績評価を与えられていたにも関わらず,そうした水準に留まっているのである.2025年度新入生クラスでは,この集団が全体のおよそ 8分の1を占めている.同程度の割合の学生が,高校卒業レベルの達するために追加の作文コースを受講しなくてはならないが,同じ2020年~2025年の期間にこちらの割合は大きく変わっていない. さらに,近年,数学を苦手とすることと言語を苦手とすることの関連がいっそう強まる傾向を示している.2024年には,数学で深刻な学力不足を示した学生5人に2人が,作文の補習指導を必要としていた.逆に,作文技能が不足している学生4人に1人が,数学の追加補習を必要とした.

数学部は補習コースをつくったけれど,対象学生たちがあまりに知識に乏しいのに愕然として,通常は小学1年生から中学2年生で教えられる内容を補うために,授業内容を再設計するしかなくなっている.
憂慮すべき点として,2023年~2024年の「数学2」コースを担当した教員たちによれば,それまでの年と比べて数学技能の落差が顕著に開いているという.「数学2」は,欠如している高校レベルの数学知識を補うための2016年に設計されたが,いまや,学生に欠けている知識は高校よりももっと前の段階にまで及び,中学校,さらには小学校レベルの知識が身についていない.
習熟度不足の学生が多数にのぼる状況に対処すべく,数学部は2024年度秋学期に向けて「数学2」を設計しなおし,内容を小学校・中学校の共通基礎数学(1年生~8年生相当)に完全に振り向けた.さらに,新コース「数学3B」を導入して,高校の共通基礎数学(代数I,幾何学,代数II,数学I, II, III. 9年生~11年生向け)を教授することにした. 2024年秋に,「数学2」と「数学3B」に割り振られた学生はさらに急増し,両クラスの受講生を合計すると900名を超えた.これは,新入生全体の 12.5% という警戒すべき割合にあたる(これと比較すると,2021年以前にこうしたコースに試験で割り振られた新入生は 1% 未満だった).
(上の画像を見てもらうと,補習クラスの内容と補習学生の正解率の例が載っている.)
このレポートでは,数学技能が低下した要因をいくつか挙げている:
- パンデミック
- 標準化テストの廃止(これにともなってカリフォルニア大学サンディエゴ校ではますますインフレを起こして使い物にならなくなった高校の成績評価に頼るしかなくなってしまった)
- 州の議員たちからの政治的圧力.「低所得世帯の学生や十分な割合が進学していないマイノリティ集団出身の学生」をもっと入学させるようにと圧力がかかっている.
(…)この状況は,現在の難問の核心を突いている:多様で〔人口の人種・民族構成を〕反映したクラスを包括的に大学に受け入れるためには,成功しないリスクが高いおそれのある学生を入学させる必要がある(たとえば,定着率が低く,DFW 率〔最低評価D,「不可」のF,履修中止の W になる率〕が高く,卒業までにかかる年数が長い学生たちを入学させる必要がある.
このレポートは,厳しい事実を明るみに出している――基準を維持せずにアクセスを拡大すると,高等教育というアイディアそのものが危うくなる.平等主義的な世界で,卓越した才能の育成はこの先生き延びていけるだろうか?
[Alex Tabarrok, “UCSD Faculty Sound Alarm on Declining Student Skills,” Marginal Revolution, November 12, 2025]