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ピーター・ターチン「左派が国境の開放に反対しなければならない幾つかの理由」(2020年7月9日)

The Left Case against Open Borders
July 09, 2020
by Peter Turchin

このブログの読者ならご存知のように、私がここで表明している意見は、完全に無党派的で、イデオロギーも皆無だ。私の主たる関心は、科学が導くところにある。イデオロギーに基づいた考えは、データより学説が優先されており、それは科学ではない。また一方で、イデオロギーの信奉者は、信奉する学説の性質に従って、事実を無視したり捻じ曲げたりしている(例えば、『人間の社会進化に関するアナーキスト的見解』〔本サイトでの翻訳はここ〕を参照)。

しかしながら、これは、イデオロギー的な立場から出てくるものが、全て間違っていることを意味しているわけではない。マルクス主義を例にとってみよう。マルクス主義者は、今や特定方面では「害虫人間」レッテルとして使われていることを私は知っている。なので、本エントリでは、カール・マルクス、フリードリヒ・エンゲルス、そしてその他信奉者達の哲学的アイデアだけを取り扱ってみたい。 [Read more…]

ピーター・ターチン「文明が登場する以前の戦争」(2013年10月31日)

War Before Civilization
Ocrober 31, 2013
by Peter Turchin

最近私が読んでいる本は、歴史家のバーナード・ベイリンの著書『The Barbarous Years(野蛮な時代)』だ。ベイリンは17世紀の北アメリカにおけるかなりぞっとするような状況を描き出している。私たちのもとにある歴史的資料はヨーロッパ人が関係している虐殺や非道行為に関するものが特に多いが、ヨーロッパ人は虐殺の加害者になる時と同じくらい頻繁に被害者にもなっていた。無慈悲で残酷な戦争は、アメリカ先住民たちの社会の間でも同じくらい普及していたのだ。

狩猟のために遠出している男たちは待ち伏せされて殺されてしまい、果物や木の実を採集するために居留地を離れる女性たちも自身を危険に晒していた。時たまに、村の隅々までが大きな戦禍に晒されて荒廃させられることがあった。多くの村は防御壁によって守られていたのにも関わらずにだ。

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ピーター・ターチン「集団淘汰を巡る血で血を洗う論争」(2012年3月13日)

Science Red in Tooth and Claw

March 13, 2012
by peter turchin

1980年代初頭、私がデューク大の大学院に在学していた時、ミシガン州からやってきた若い教授が集団選択について話してくれたことを覚えている。むろんその教授は、デイヴィッド・スローン・ウィルソンに他ならない。当時、集団選択という火中の栗を拾おうとしていた唯一の人物だったからだ。彼の考えは非常に理に適っていると私は思ったのだが、私以外の院生は誰も賛成していないのには驚いた。集団選択は、当時の私の研究テーマと特に近いものではなかった(昆虫の個体群行動について研究していた)が、私は集団選択をフォローし続けることになった。1980年代から90年代に私が聞いていたのが、集団選択を批判する執拗なまでのタコ殴り音だった。ジョージ・クリストファー・ウィリアムズやリチャード・ドーキンスといった著名人による著作を受けて、当時の進化生物学は、集団選択のアイデアを徹底的に否定していたのだ。 [Read more…]

ピーター・ターチン「実質賃金の上昇が止まった理由Ⅳ:全て統合する」(2013年4月15日)

Putting It All Together (Why Real Wages Stopped Growing IV)
April 15, 2013
by Peter Turchin

このシリーズの過去のエントリでは、疑問を提示し、可能性がある答えの個別構成要素を検討した:まずGDPと労働力の需要/供給の長期のトレンドを、次に文化的影響。全てを統合し、(もしあるとすればだが)この3つの要因の相対的な寄与を定量分析する時だ。

私がこれから行うのはステップワイズ分析と呼ばれているものだ:各段階(ステップ)で一つずつ説明変数を代入し、一連の段階でモデルを構築していく。このアプローチにより、応答変数の動態を解き明かすのには、どの説明変数が必要になっているかの理解が可能となる(応答変数は、この場合1927年から2012年までの実質賃金だ)。また、各説明変数が、〔実質賃金の実際値〕データのどの特徴を説明しているのかの理解も可能となる。 [Read more…]

ピーター・ターチン「二国物語:スウェーデンとデンマークを比較する」(2020年5月5日)

A Tale of Two Countries

May 05, 2020
by Peter Turchin

北欧の2国、スウェーデンとデンマークは、同じような言語を話し、文化と歴史の多くを共有している。しかし、両国はCOVID-19パンデミックへの対処において非常に異なるアプローチを採用した。デンマークは、学校やレストラン、他に美容院のような商業施設を閉鎖したヨーロッパでは最初の国の一つだ。対照的に、スウェーデンは、商業施設は営業を続けることを許可し、路上での移動を規制せず継続させている。従って、この2国は、コロナウィルスを制御するにあたって、ロックダウンの有効性を研究する自然実験を我々に提供してくれている。ロックダウンは社会・経済の両面で多大な混乱をもたらすので、〔ロックダウンの有効性は〕非常に重要な論点になっている。 [Read more…]

ピーター・ターチン「2020年」(2020年6月1日)

2020
June 01, 2020
by Peter Turchin

アメリカが燃えている。全米各地の数十の都市に、1968年のマーティン・ルーサー・キング・ジュニアの暗殺事件が原因となった暴動以来、観察されていなかったレベルでの夜間外出禁止令が出されている。ほとんどの解釈は、既に6日続いている暴力の波の直接的な原因に焦点を合わせている。実際、ジョージ・フロイドがゆっくりと絞め殺されていく映像を、怒りと悲しみを感じずに視聴するのは難しい。しかし、私の仕事は、いうなれば、事件の表層からは解しかねる、深い構造的原因を調べることだ。 [Read more…]

ピーター・ターチン「実質賃金の上昇が止まった理由Ⅲ:非市場影響要因の代替値」(2013年4月11日)

A Proxy for Non-Market Forces (Why Real Wages Stopped Growing III)
April 11, 2013
by Peter Turchin
labor, norms, structural-demographic

前回までの一連のエントリで、なぜ実質賃金は1970年代に上昇が止まったのか、そして労働需要と労働供給の長期の動向はこの疑問に応えることができるかどうかを問うてみた。このエントリでは、経済的影響要因より定量化が困難な「経済の領域外」(非市場)の影響要因に目を向けてみたい。

非市場的影響要因は、実質賃金へ潜在的に影響を与えている、多量のメカニズムから成り立っている。1つ挙げるなら、国家の経済統制(一部の人に言わせれば、国家による干渉)を起因とする政治的要因である。様々な関係者間の権力勾配の存在が影響をもたらしている。政治・立法的環境が労働組合に有利ならば、労働者は雇用者と団体交渉が可能になり、権力を得ることになる。逆の場合は、雇用者が優勢となる。 [Read more…]

ピーター・ターチン「エリート達の内輪での競争:複雑な社会の動態を理解するための重要な概念」(2016年12月30日)

Intra-Elite Competition: A Key Concept for Understanding the Dynamics of Complex Societies
December 30, 2016
by Peter Turchin

国家レベルの複雑な社会は、社会と政治の不安定性の大波という苦境に周期的に陥るが、これを説明する最重要要因の一つがエリート達の内輪での競争である。この考えは、約30年前にジャック・ゴールドストーンによって提唱された。ゴールドストーンは、イングランド内戦1 、フランス革命、17世紀のトルコと中国での内乱の構造的な前兆を分析することで、この考えを実証的に検証した。他の研究者達(セルゲイ・ネフェドフ、アンドレイ・コトラエフ、そして私を含む)はゴールドストーンの理論を発展させ、古代ローマ、古代エジプト、古代メソポタミア、中世イングランド、中世フランス、中世中国、1848年のヨーロッパでの諸革命、1905年と1917年のロシアでの革命、アラブの春の暴動のような異なる社会における、ゴールドストーンのこの考えを検証した。もっと身近だと、近代民主主義国家の安定性もまた、エリート間の過度の競争によって蝕まれることを最近の研究は示唆している(アメリカ史における構造人口動態分析に関しては“Ages of Discord(『不和の時代』)”を参照)。なぜエリート達の内輪の競争は不安定化の重要なトリガーになるのだろう? [Read more…]

  1. 訳注:イギリスで1641~1653年にオリバー・クロムウェル率いる議会派と王党派との間起こった内戦。『清教徒革命』とも呼ばれる。 []

ピーター・ターチン「コロナウィルスの長期的影響」(2020年4月20日)

Long-Term Consequences of Coronavirus
April 20, 2020 by Peter Turchin
cooperation, economics, elites, health, inequality, structural-demographic

我々は今COVID-19パンデミックの中盤にいる、現状とどこに向かおうとしているのかを詮索するのに良い時期だ。例えば、人口統計学的には、このパンデミックの影響は軽微であることが既に明らかになっている。人口の1%未満しか死亡しないだろうことと、コロナによる死亡者は既に定年退職した人に大きく偏っているからだ。アメリカ合衆国だけでも既に4万人がこの感染症で死亡しているが、これは総人口の観点からはたいして、もしくは何も変えないだろう。

中期(今後数年)の疫学的見通しはまだ不透明だ。我々はウィルスを絶滅に追い込むことができるのだろうか? それとも、風土病化し秋から冬にかけて毎年再来することになるのだろうか? 通常の〔風邪やインフルエンザの〕ケースのように、ウィルスは致死性の低い形態に進化するのだろうか? 私の見解では、今後2~3年中にコロナウィルスを駆除することは十分に可能だ。問題となっているのは、この駆除目的を達成するのに、我々がどこまで自身の生態を集合的に変更できるかどうかだ。全ての旅行者や他の伝染させる可能性がある保菌者を徹底的に検査し、ウィルス感染多発地域を積極果敢に検疫隔離し、自国内の感染症を制御するつもりがない、あるいは制御能力がない国を取り囲んでの衛生的閉鎖を行うことが必要になるだろう。

しかしながら、このブログは社会的動態に焦点を当てているので、今回のパンデミックが社会的健全性にどう影響を与えるのかについて論じてみよう。前回の投稿で論じたように、現在のグローバリゼーションと大衆の窮余化の度合いを考慮すれば、致死的なパンデミックが再来する可能性は非常に高い。つまるところ、COVID-19や将来の未知の病気は、世界システムの水準からは、内在的動態の一部なのだ。しかしながら、個々の国家レベル(国家に中心を絞った私の研究枠組み)の水準からは、COVID-19は外的ショックだ。COVID-19の長期的な影響は、影響を受けた社会的制度のレジリエンス(復元力)に何よりも左右される。 [Read more…]

ピーター・ターチン「伝染病と危機時代の相関関係」(2020年4月15日)

Correlation between Crisis Periods and Epidemics
April 15, 2020
by Peter Turchin

前回のエントリ『コロナウィルスと我らの不和の時代』を投稿してから、私は世界史における主要な伝染病の一覧を、ウィキペディアのような媒体と、学術論文の両方で目を通している。危機の時期と疫病の勃発には強い(ただ完全ではない)関連性があることを私は知っている(2008年の論文を見てほしい)。問題はこの相関関係がどのくらい強いかだ。

以下は、私が発見したデータを元にして纏めた表だ。ただこれは、主要な伝染病は不和の時代の間に勃発する傾向があるという仮説の決定的な分析ではない。以下の比較検証は、十分に体型立ったものではなく、非常に定性的なものであり、明確にヨーロッパ中心バイアス(すくなくとも西ヨーロッパ中心バイアス)がある。ただ、ここはブログであって、非常に高い厳密性が要求される学術論文ではない(Seshatの危機のデータベース1 が完全に構築された時には、我々は正規の研究を行う予定だ)。

いずれにしても、以下は私の暫定的なアイデアだ。コメントを歓迎する!

危機の時代 場所 伝染病とパンデミックの名称
青銅器時代後期の破局(紀元前12~11世紀) 地中海東部と中近東

エジプトの疫病

トロイでのアカイア人の間における疫病

疫病でよって人口が減少したクレタ島

ペリシテ の疫病

イスラエル王国とユダ王国の悪疫

ペロポネソス戦争(紀元前5世紀) 地中海東部・中部

アテネの疫病

ローマでの周期的な悪疫

ローマ帝国の危機(2~3世紀) ローマ帝国

アントニヌスの疫病

キプリアヌスの疫病

ギリシャ・ローマ古代期後期の危機(6世紀) 東ローマ帝国

ユスティニアヌスの疫病(第一次ペスト大流行)

オーマヤド・カリフ王朝の没落(8世紀)

奈良時代の天災(8世紀)

中東と地中海

日本

第二期ユスティニアヌスの疫病(746~747年にピーク)

 

735~737年の日本の天然痘の大流行

14世紀の危機 アフロ・ユーラシア 黒死病(第二次ペスト大流行)
17世紀の世界的危機 全世界

第二派黒死病(ロンドンとウィーンの大災禍を含む)

コロンブスの航海

アメリカ大陸の人口減少

ヨーロッパでの梅毒の大流行

革命の時代(1789~1919:「長い」19世紀) 全世界

コレラの大流行

第3次ペスト大流行

スペイン・インフルエンザ

アシュドド2 におけるペリシテ人の疫病:ピーター・ヴァン・ヘイレンによる油絵(1661年)

  1. 訳注:Seshatは全世界のアカデミアを繋いで、歴史の定量データを集めるために創設されたターチンが代表を務める研究機関。 []
  2. 訳注:イスラエル南部の都市 []