ポール・ローマー「利上げは頭がおかしい」(2023年10月26日)

ブルームバーグ通信での「FRBは何をすべきか?」というインタビュー(ここでは記事になっている)で、私は以下のように答えた。

「利上げは頭がおかしい」

これは文字通り受け取っていただきたい。

事実はいかなる時も理論に勝る

私が最初に言及したのは、起こってきた出来事を誰も予測できなかった事実だ。インフレは、認知できる雇用の減少やGDPを低下させずに、劇的に低下した。我々が今できる最善のことは、事実に特段の注意を払いながら、暗中模索を続けることだ。最悪の対応は、事実と矛盾している教科書的分析への依存に回帰することだろう。

事実は何を示しているのか?

インフレの低下水準と低下速度の両方から、インフレ率が目標水準の2%に、2、3ヶ月以内に達する可能性がある。

もし、FRBが目標水準での安定を真剣に考慮するなら、今すぐにでもインフレの低下ペースを緩める必要がある。

不確実性についてはどうだろうか?

たしかに、今は異常なる不確実性の時代だ。なので、予想外の自体は起こりうる。たしかに、インフレはまた上昇するかもしれない。

そうであるとしても、事実に従いつづけるのみだ。事実からの提言があるときに利上げをすべきだ。

FRBが事実に依拠していることを真剣に示したいなら、想像上の可能性〔将来のインフレ懸念〕ではなく、目の前の事実に対応せねばならない。

現状のインフレ率の背景にあるもの

以下の分析では、生の(つまり季節性を調整していない)全世帯消費者物価指数(CPI-U)から食料とエネルギー価格を引いたものを使用する。こうした分析を選択している理由については、前回の記事(特に、労働統計局の作成している季節調整済みCPIの問題を指摘している箇所)を参照してほしい。

一年単位での物価変動

まず、直近の1年間隔での過去3年の消費者物価指標の変化率を検討してみよう。

この表から、インフレ率は最初の一年から、二年目、さらに三年目にかけて上昇した後に、直下の1年で低下していることがわかる。

1年スパンのインフレ率指標を用いる利点は、季節性変動や季節調整の影響を無視できることだ。労働統計局の季節性調整済みの一連の数値を用いて比較表を作成したが、ほぼ同じ結果が得られる。

半年単位での計測

1年間隔の数値では、年度内に起こった変化が見えにくくなる問題がある。そこで次に、最近のインフレの動態をより詳細に見るために、半年単位で並べてみよう。

上の表を理解するには、一番下の列から見てほしい。下から順番に見ると、直近半年間では消費者物価指数が1.73%上昇し、さらにその前の半年間で2.33%上昇したことがわかる。

この2つの数値を足すと、過去1年での消費者物価指数の上昇率になる。

2.33%+1.73%=4.06%

左から数えて三番目の縦列数値「前年同月期間との差分」は、去年〔2022年〕の同時期の半年間と比較した上昇率を示している。つまり、今年と去年の同時期半年の変化率の差異から、月単位特有の季節性の影響を取り除いたものだ。例えば、一番下の列の「前年同月期間との差分」は、2023年4月から9月までの物価上昇率が、前年同月期(2023年4月から9月まで)の物価上昇率から1.38%ポイント低下したことを示している。

次に、下から数えて二列目の「前年同月期間との差分」数値の減少率と比較してみよう。2021年10月から2022年3月に対応する期間は、2022年10月から2023年3月の物価上昇率との比較であり、0.98%ポイント低下している。

この2つの数値を足すと、この1年全体での物価上昇率の変化の測定値となる。

(-0.98%)+(-1.38%)=-2.36%

つまり、一年間隔での物価上昇率の変化を分解する方法としては、左から三番目の「前年同月期間との差分」を2つ使えば良い。

これらの数値から、インフレ率は低下しているだけではなく、低下のペースも大きくなっていることがわかる。

・直近6ヶ月:物価変動は同時期の1年前に比べて1.38%ポイント小さくなっている。

・さらに半年前:物価変動は同時期の1年前に比べて0.98%ポイント小さくなっている。

インフレを高度に例えるなら、飛行機は下降中で、急降下している。飛行機は水平飛行に移る必要があるのだが、FRBはさらに利上げして急降下を加速させようとしている。これは頭のおかしい所業だ。

FF金利〔フェデラル・ファンド金利:アメリカの中央銀行政策金利〕

参考のため、一番右側の数値は、半年単位で平均化したFF金利を示している。

直近の結果は、不測の事態なのだろうか?

この〔インフレが低下傾向にあるとの〕結論は、直近の観測にしかない奇妙な結果から引き起こされた不測の事態かどうかを問うのは妥当だ。

私はこうした分析を何ヶ月間も行ってきた(そしてブログで報告している)。結果は、過去の分析と驚くほど一致している。

〔分析が妥当かどうかを〕シミュレートするには、遡行してみることだ。一ヶ月ずつ遡って、過去の利用可能だったデータだけを頼りに分析をやり直してみる。

一ヶ月前

2023年8月までのデータを使って、直近6ヶ月間を比較すると、やはり直近のほうがインフレ率の下落が加速していることがわかる。

・〔2023年8月までのデータでの〕直近半年間:同年同月比で1.13%ポイント小さくなっている。

・〔2023年8月までのデータでの〕一つ前の半年間:同年同月比で0.74%ポイント小さくなっている。

二ヶ月前

・〔2023年7月までのデータでの〕直近半年間:同年同月比で0.88%ポイント小さくなっている。

・〔2023年7月までのデータでの〕一つ前の半年間:同年同月比で0.31%ポイント小さくなっている。

三ヶ月前

・〔2023年6月までのデータでの〕直近半年間:同年同月比で0.83%ポイント小さくなっている。

・〔2023年6月までのデータでの〕一つ前の半年間:同年同月比で0.20%ポイント小さくなっている。

結論

データによるなら、インフレ率は2022年秋に下降を始め、その後一貫して急降下している。

では、物価目標水準までどのくらいかかるのだろう?

一般に引用される傾向にあるインフレ率の数値は、直近1年の平均値だ。この記事の最初の表にあるように、2023年9月の直近1年のインフレ率の平均は4.06%である。しかし、当然ながら、1年かけてインフレ率が低下していた場合、現在のインフレ率は一年間の平均値より低くなる。

前回の記事では、一ヶ月単位に焦点を絞り、2023年9月現在のまだ可視化されていないインフレ率を〔年次平均で〕2.76%と予測した。

この分析を敷衍すると、直下半年のインフレ率では、1.38%〔年次平均で2.76%〕まで減少したことがわかる。つまり、月あたり23ベーシスポイント低下している。このペースだと、インフレ率は三ヶ月後に目標水準に達するだろう。

なので今、中央銀行が利上げによって景気をさらに急降下させようとするのは、文字通り頭がおかしい。

事実は、インフレ水準の維持につとめる時期がきたことを示している。

[Paul Romer,“It Would be Crazy to Raise Rates” Thu, Oct 26, 2023]
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