マーク・ソーマ 「過去をコントロールする者は・・・ ~ギリシャは『困難な決断』を下し損ねた?~」(2015年3月22日)

●Mark Thoma, “‘Controlling the Past’”(Economist’s View, March 22, 2015)


サイモン・レン=ルイス(Simon Wren-Lewis)が歴史を書き換えようとする試みに異を唱えている。

Controlling the past” by Simon Wren-Lewis

ジョージ・オーウェル(George Orwell)の小説『一九八四年』の中で、次のようなスローガンが出てくる。「過去をコントロールする者は未来をコントロールし、現在をコントロールする者は過去をコントロールする」(“Who controls the past controls the future: who controls the present controls the past”)。 今のところはまだ、オーウェル的な世界は到来していない。歴史を書き換えようとする試みがあるようなら、少なくともそれに異を唱える自由が認められているからだ。数日前に、イギリスの首相を務める人物〔キャメロン首相〕がブリュッセルで次のように語っている

「5年前に私が首相としてはじめてこの地を訪れた時には、イギリスとギリシャは同じボートに乗っていると言っても過言ではありませんでした。5年前までは、両国が抱える財政赤字の規模は同じくらいだったのです。今では、両国は異なる立場に置かれています。その理由は、長期的な取り組みが求められる困難な決断(difficult decisions)を下せたかどうかにあります。私たちは、そのために欠かせない勤勉さとたゆまぬ努力を惜しまない芯の強さのすべてを持ち合わせていました。絶対に後戻りしないと固く誓います」。

言い換えると、こういうことだ。怠惰なギリシャ人もイギリス人に倣って「困難な決断」を下してさえいれば、今のイギリスと同じようになれていたかもしれない、というわけだ。

ギリシャの人々に対する大いなる侮辱というだけじゃない。真実の捻じ曲げもいいところなのだ。真実からあまりにもかけ離れているので、一体どこから手をつけたらいいか悩むほどなのだ。

・・・(中略)・・・

しかしながら、真実の紛うことなき歪曲は別のところにある。イギリスは「困難な決断」を下したのに、ギリシャは「困難な決断」を下し損ねたという仄めかし(ほのめかし)がそれだ。「困難な決断」というのは、財政緊縮(austerity)のコードネーム(別名)だ。財政緊縮の程度を測る格好の指標の一つが基礎的財政収支(プライマリー・バランス)である。OECD(経済協力開発機構)が算出しているデータによると、イギリスの2009年度のプライマリー・バランスの対GDP比はマイナス7%。2014年度には、その値はマイナス3.5%にまで減っている。ということは、2009年から2014年までの間にイギリスでは、対GDP比で3.5%分の財政引き締めが行われた計算になる。その一方で、ギリシャの2009年度のプライマリー・バランスの対GDP比はマイナス12.1%。2014年度には、その値はプラス7.6%の黒字になっている。ということは、2009年から2014年までの間にギリシャでは、対GDP比で19.7%分の財政引き締めが行われた計算になるのだ! ギリシャのほうが(イギリスよりも)ずっと財政緊縮に前のめりだったのだ。ギリシャのGDPがこの間に(2009年から2014年までの間に)25%も落ち込んだのも当然の話なのだ。キャメロン首相の発言をもう少し正確に言い直すとしよう。「イギリスもギリシャと同じく『困難な決断』に踏み出しはしましたが――とは言っても、ギリシャと比べるとだいぶ恐る恐るではありましたが――、途中でその愚かさに気付いて手を引きました。その一方で、ギリシャは、イギリスに倣わずに『困難な決断』を続けたのです」。・・・(略)・・・

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