昨日(3月17日)、テッド・クルーズ上院議員(共和党・テキサス州選出)は、イーロン・マスクとのポッドキャスト対談の切り抜きをSNSでシェアした。クルーズはこれを「完全なる爆弾発言」と表現した。この切り抜き動画が瞬く間に拡散したのは、マスクが自ら率いる「愉快な潜入チーム」(DOGE=政府効率化省)が驚くべき発見をしたと主張したからだ。それは、連邦政府には「マジック・マネー・コンピューター(マネーを生み出す魔法のコンピューター)」が存在する、というものだった。正確には14台存在している。
マスク曰く、これらの「マジック・マネー・コンピューター」は「まさに何もないところからマネーを生み出すことができる」という。DOGEのボスは本気で驚愕しているようだった。「政府はただ支払い手段を発行するだけだ。」「何もないところからマネーを送っているんだ」と。
さあ、「帽子をつかんで真珠を握りしめたまえ(心の準備をして、驚く用意をしたまえ)」。マスクとそのチームは、とんでもないスキャンダルを暴いた——
…わけではない。
どれほどの人が私にメンションしたり、メッセージを送ったりして、「なんてこった!イーロンが袋から猫を出してしまったぞ(秘密をバラしたぞ)!」と言ってきたか、もう数え切れない。でも、みんなはどうやら私が先月シェアした切り抜き動画を見逃していたらしい。その中でマスクはほぼ同じことを言っていた。彼は連邦政府の財政について語る中で、こう口走っていたのだ。
小切手が決して不渡りにならないということだ。連邦政府にはマネーを無限に生み出すことのできるプリンターがあるんだ。
つまり、今回の14台の「マジック・マネー・コンピューター」に出くわす以前に、マスクはすでに公の場で以下の3点を認めていた。
- 連邦政府のマネーが尽きることはない。
- どれだけ大きな額面の小切手を書いても、不渡りになることはない。
- マネーは意のままに新たに創造できる。
(この時点で疑問に思うだろう——「じゃあ、なんでマスクは“アメリカは破産する”とか、社会保障制度は“史上最大のポンジ・スキームだ”とか言い続けているんだ?小切手が決して不渡りにならないのは、マネーを無限に生み出すプリンターがあるからだと認めているのに」と。)

もし一般の人に「連邦政府には無限にマネーを刷れるプリンターがある」と言えば、たいていこんな機械を想像するだろう。

確かに、政府が発行するマネーの一部はこうした機械から生まれている。しかし、政府が発行するマネーの大半は、ただコンピューターのキーボードを使うだけで電子的に生み出されるのだ。何も「魔法」ではない。ただ、政府のコンピューターが特別なのは、それが「何もないところからマネーを送る」ことで支払いを可能にするネットワークに接続されている点にある。
どうやらイーロンは、歴代のセントラルバンカーたち——アラン・グリーンスパン、ベン・バーナンキ、ジェローム・パウエル、ニール・カシュカリ、マリオ・ドラギ——がこれが現代のマネーの仕組みであることを認めているのを聞き逃していたらしい。さらに、MMT(現代貨幣理論)の研究者たちが数十年にわたって執筆、編纂した数千におよぶ記事、書籍、編著、ワーキングペーパーにも目を通していなかったようだ。
つまり、マスクがクルーズ上院議員に語ったことに、「爆弾発言」など一つもない。
ウォーレン・モズラーがよく言うように、「政府は銀行口座の数字を変える(増やす)ことで支出する」のだ。そのマネーはどこか「から来る」のではない。ただ、何もないところから生み出されるのだ。これは、サッカーの試合でスコアキーパーが得点を記録するのと同じようなものだ。 [1] … Continue reading ブルームバーグのジョー・ワイゼンタールは、MMTの主要研究者のほぼ全員を過去にインタビューしてきたため、マスクの「発見」にすぐさまユーモアを感じたのだった。

太陽の下、新しいものは何ひとつない [2]訳註:旧約聖書「コヘレトの言葉」1章に登場する一節。「かつてあったことは、これからもあり … Continue reading
ウォーレン・モズラーが約30年前に書いた『Soft Currency Economics』を読んだ人にとって、今日の政府が「支出によって何もないところからマネーを生み出している」ことは明らかだ。ランダル・レイの『Understanding Modern Money(現代貨幣の理解)』や、マイケル・ハドソンの『Temples of Enterprise(企業の神殿)』、デヴィッド・グレーバーの『Debt: The First 5,000 Years(邦訳:『負債論: 貨幣と暴力の5000年』)』を読んだことがある人なら、政府が「何もないところからマネーを生み出す」ことは〔人類の歴史の〕初めから続いていると知っているはずだ。
古代メソポタミア人は4,000年前にブロックチェーン技術〔取引記録を維持する技術〕を発明していたとも言えるだろう。こうした古代の社会では、コンピューター・ネットワークの代わりに粘土板を使い、透明性があり、改ざん不可能な取引記録を安全に保存していた。似たような初期のブロックチェーン技術は中世にも存在していたことがわかる。中世におけるイギリスの王たちはハシバミの木のタリースティック(棒状の割符)を改ざん防止の通貨として発行し、独自の記録保持技術を用いていた。
実際、メソポタミアの粘土板は広く普及していたため、研究者たちは今でも新しいものを発見している。先週も、『ガーディアン』紙が驚くべき新発見についての素晴らしい記事を掲載したばかりだ。

「帝国のスプレッドシート」:イラクでの発見を受け、研究者が「レッドテープ(お役所仕事)は4000年前にさかのぼる」と発表
3月15日付「ガーディアン」記事見出しと導入(仮訳)
古代メソポタミアの石板は、世界文明の発祥地における政府の驚くべき詳細さと影響力を示している
この記事に注目すべき単語がある——「スプレッドシート(集計表、簿記用紙)」だ。MMTは、金融システムをまさにこのように捉える。すなわち、誰が何を所有し、誰が誰に何を支払う義務があるのかを記録するバランスシートが組み込まれた複雑なシステムとしてである。数千年にわたって、マネーを扱うOSはアップグレードされてきた。政府が支出の記録を作成・管理するために使う技術は変化してきた。しかし、マネーの本質は変わっていない。4,000年前と同じく今日でも「魔法」などではない。『ガーディアン』では次のように書かれている。
政府の官僚制度における「レッドテープ(お役所仕事)」は4,000年以上も前にさかのぼることが、世界文明の発祥地メソポタミアでの新たな発見によって明らかになった。
大英博物館とイラクの考古学者たちは、史上最初の帝国の存在を示す最古の物理的証拠となる何百枚もの行政用の石板を発見した。これらの文書には政府の細かな業務が記されており、古代文明の複雑な官僚制度、つまり「レッドテープ」の実態を明らかにしている。
「これらは帝国のスプレッドシートであり、世界で最初の帝国の存在を裏付ける最初の物的証拠なのです…」
マネーは、実物資源を公共の領域に移転させるために発明された。その起源は最も初期の時代にまでさかのぼる。歴史の始めからマネーは生み出され、軍隊、神殿、宮殿、航行可能な水路、穀物倉庫、道路、橋梁などを建設するために用いられてきた。メソポタミアの粘土板への刻印、棒への刻み目、石板にチョークで書かれた記録、後には羊皮紙に万年筆で記された文書、刻印された硬貨や紙幣、そして今日のコンピュータのハードドライブに保存される電子的記録——いかなる時代においても、強大な集団は社会の機能を維持し、より大きな望みを実現するために、何もないところから支払い手段を生み出してきたのである。
DOGEの「爆弾発言」は、まるで考古学者のチームが「私は、何もないところからマネーを送る魔法の石板を14枚発見した」と宣言するようなものだ。結局のところ、太陽の下、新しいものは何一つないのだ。
[Stephanie Kelton, “Elon Musk Discovers the “Magic” of Modern Money”, The Lens, March 18, 2025]References
↑1 | 原注:私が「何もないところから(nothing)」と言うとき、その用語は緩やかな意味で使っている(マスクが意図しているのと同じように)。MMTの学者たちは当初から、マネーは国家が生み出すものであり、それを理解するには、マネーが会計単位として機能するための法的・政治的な基盤を知る必要があると説明してきた。 |
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↑2 | 訳註:旧約聖書「コヘレトの言葉」1章に登場する一節。「かつてあったことは、これからもあり かつて起こったことは、これからも起こる。太陽の下、新しいものは何ひとつない。 見よ、これこそ新しい、と言ってみても それもまた、永遠の昔からあり この時代の前にもあった。」 |