タイラー・コーエン 「牧畜、戦闘、名誉の文化」(2021年9月24日)

牧畜という生業形態に適応するかたちで育まれた心理(価値観)は、時代を下って現代にまでその名残をとどめ、今もなお世界のあちこちで起きている紛争を生む要因の一つとなっている。

●Tyler Cowen, “Herding, Warfare, and a Culture of Honor”(Marginal Revolution, September 24, 2021)


・・・というのが、イーミン・カオ(Yiming Cao)&ベンジャミン・エンケ(Benjamin Enke)&アーミン・フォーク(Armin Falk)&パオラ・ジュリアーノ(Paula Giuliano)&ネイサン・ナン(Nathan Nunn)による重要な共著論文のタイトルだ。アブストラクト(論文の要旨)を引用しておこう。

社会心理学の分野で広く知られている「名誉の文化」(‘culture of honor’)仮説 [1]訳注;「名誉の文化」仮説についての詳細は、例えば次の本を参照されたい。 … Continue readingによると、牧畜が生活の中心となっている地帯では「復讐」や「暴力」をよしとする価値観(価値体系)が培(つちか)われるとされる。本稿では、民族誌や民話といった歴史的なデータに、武力紛争や嗜好に関する現代のデータを突き合わせて、全世界を対象に「名誉の文化」仮説の妥当性を検証した。その結果はというと、牧畜の伝統と「名誉の文化」との間に系統的なつながりが見出された。まず第一に、工業化する以前に牧畜が生活の中心になっていた社会では、「暴力」/「処罰」/「復讐」が強調される傾向にあった。第二に、過去に牧畜への依存度が高かった民族ほど、現代において武力紛争の当事者になる機会が多いだけでなく、関わっている紛争の強度が高い(死者数が多くて継続期間が長い)傾向にあった。第三に、計76カ国の人々の嗜好に関する標本調査である世界嗜好調査(Global Preferences Survey)によると、牧畜民の子孫たちは、フェアじゃない(正義にもとる)と感じられる振る舞いをした相手に対して、復讐や処罰で応じるのに前向きな傾向にあった。本稿で得られた一連の証拠は、次のことを指し示している。すなわち、牧畜という生業形態に適応するかたちで育まれた心理(価値観)は、時代を下って現代にまでその名残をとどめ、今もなお世界のあちこちで起きている紛争を生む要因の一つとなっているのである。

本文よりも、付録や図表なんかの方にずっと多くの紙数(ページ)が割かれているようだ。

References

References
1 訳注;「名誉の文化」仮説についての詳細は、例えば次の本を参照されたい。 ●リチャード・E・ニスベット&ドヴ・コーエン(著)/石井敬子&結城雅樹(編訳)『名誉と暴力:アメリカ南部の文化と心理』(北大路書房, 2009年)
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