
それぞれの同盟関係は強まりつつあるし,兵器は配置されつつある
上に載せた写真は,1939年におきた「ノモンハンの戦い」(ノモンハン事件)の一コマだ.この戦いは4ヶ月続いた.実のところ,これは1935年に宣戦布告なしで事実上はじまった大日本帝国とソビエト連邦の戦争のなかの大きな局面でしかない.開始から4年後の1939年に,第二次世界大戦がはじまる.この戦いの勝者はソ連だった.戦車をよりよく用いたその勝利は,のちにおとずれた第二次世界大戦の帰結を予示していた.
この事例にありありと現れているのは,こんなことだ――公式には第二次世界大戦はドイツのポーランド侵攻で始まったけれど,最終的な大戦の勃発を予示していた紛争や,やがて世界大戦と合流していった紛争は,それより数年前,1930年代中盤にはじまっていた.第二次大戦には,前哨戦があったわけだ.これについては,2024年に記事を書いた.
21世紀前半の世界が世界大戦を回避する可能性はある.でも,いざ大戦が勃発したら,後世の歴史家たちはきっとこう記すはずだ.「この世界大戦には,それに先立つ前哨戦があった.」 シリア内戦では,アメリカとロシアはそれぞれの新ハードウェアを相手に対して試しはじめたし,一度は部隊どうしの衝突もあった.ロシアによるウクライナ侵略は大きな転換点で,大国が大々的な領土征服に乗り出す新時代の幕開けを告げ,世界規模の同盟体制が固められはじめ,ヨーロッパは再軍備を迫られた.
いま,ぼくらはイラン戦争を目の当たりにしている.戦争を始めたのはアメリカとイスラエルで,イランを攻撃してその首脳部の多くを排除した.ちょっと奇妙なことに,これに対してイランは中東アラブ諸国の事実上すべてにミサイルとドローンで攻撃をしかけて応じた.これによって,そうした国々のなかには脅威に迫られてアメリカ・イスラエルの側に立って参戦したところもある.
短期的には,この紛争は決定的な結果を出さないまま,数日~数週間で徐々に収まっていきそうに思える.軍事的な観点だと,アメリカ・イスラエルは全体的にイランに対して有利に事を運んでいる.思いのままに首脳部を暗殺し,制空権を確保し,さらにはミサイルやドローンによるイランの攻撃能力を弱めていってる.ただ,これでイラン体制が倒される見込みは薄そうだ.〔現体制に〕抗議の声を上げたイランの人々も1月に政権が数万人を虐殺した経験から恐怖に尻込みしている.シリアとちがって,国外から武装支援を受けて政権打倒を目指しそうな分離地域もなければ,抑圧された多数派民族集団もない.イラン革命防衛隊その他の治安機関が結束を保ってとにかく権力にしがみつくために抗議する人々をいつ果てるともなく射殺し続けるのも辞さず,地上侵攻が行われないかぎり,いったい誰がこれから数週間で実際にこのイスラム共和国を転覆させられるか,はっきりしない.
もちろん,長期的には話がちがってくる.イランの体制は強固で安定しているようには見えない.ただ,トランプが長期的に取り組む見込みは薄そうだ.逆に,すぐにもこの戦争から手を引きそうに思える.当初は強気に出ておいてから引き下がるのは,トランプの定番の動きだ.先日,トランプはこの戦争を「非常に完遂された」と発言したし,トランプの助言役たちはこの紛争から手を引く道筋を見つけるよう繰り返し求めている.(※訳註:トランプ発言の “very complete” はいくぶんおかしな表現で,程度・度合いのない “complete”(完全な,完了している)に “very”(とても)を組み合わせている)
その理由のひとつは,開始直後からイラン戦争がアメリカ人のあいだですごく不人気だってことにある:
クイニピアック大学世論調査によれば,登録有権者のおよそ半数,53% が,イランに対するアメリカの軍事行動に反対している.支持するという回答は10人に4人の割合であり,おおよそ10人に1人がよくわからないと答えている.新たに実施されたイプソス世論調査では,イラン攻撃を支持する人々より支持しない人々が多い結果になっている(…).この結果は,『ワシントンポスト』と CNN がそれぞれに実施したテキストメッセージによるスナップ調査の結果に近い.いずれも,アメリカ・イスラエルがイラン攻撃を始めてまもなく実施された.これらの調査でも,イラン攻撃を支持する人々よりも反対する人々の方が多かった.(…)最近実施された『フォックスニュース』の世論調査では,賛否が均等に割れている:登録有権者の半数はアメリカの軍事行動を支持している一方,半数はこれに反対している.
通例だと,戦争がはじまった序盤には「旗の下に結集」効果が生じて〔政権の支持が高まり〕,そのあとは徐々に支持が弱まっていく.ところが,今回の戦争は初日から不人気だった.大半の共和党支持者は,トランプが平和・孤立主義・不干渉を掲げて選挙を戦ったのを都合よく忘れているらしい.だけど,いまアメリカの有権者の多くを占める無党派層は,そういう都合のいい物忘れを強いる党派的忠誠心をもちあわせていない.それに,アメリカが新たな中東戦争に関与するのを,彼らは正しく警戒している――とくに,先に攻撃を受けもせずに自分から始めた戦争にのめり込むのを,彼らは心配している.
ただ,トランプが出口を模索しているのには,もっと大きな理由がある――石油だ.ペルシャ湾の石油生産をはたしてイランが(たとえばホルムズ海峡を封鎖したりドローンで湾岸の石油インフラを破壊したりして)途絶させられるかどうかを,誰もがなんとか見極めようと試みているため,原油価格は派手に上がったり下がったりを続けている.ただ,全体的な傾向は上昇だ:

原油価格が上がれば,ガソリン価格は上がる.それに,全体的なインフレ率も上がる――どちらの上昇も,アメリカ人をひどく憤慨させがちだ.そして,アメリカ人はすでにこれらでトランプに憤慨している.ガソリン価格は急上昇しつつある:

というわけで,この戦争がイラク戦争 2.0 になる見込みはすごく薄い――アメリカがイランに大規模な地上侵攻をかけるとは考えにくい.それよりも,おそらくは去年の十二日戦争をさらに大きくしたバージョンみたいなものに終わりそうだ――つまり,イランの防衛力は外国の航空戦力に完全にたたきのめされるものの,体制そのものは生き残るかたちになりそうだ.
(ここでも,長期的には事態はイランの体制にとってすごくマズそうに見える.イラン経済は機能不全をきたして崩壊しかけているし,原油価格高騰も一時的な痛み止めにしかなりそうにない.イランの体制は,人民のあいだで正統性を失っている.湾岸地域の国々は,いまや反イランに転じていて,レバノン政府も反ヒズボラに回った.シリアはイスラエル/湾岸諸国の陣営に傾きつつあるし,ハマスはもう消耗しきった勢力だ.イランには,事実上,ひとつしか代理勢力がいない――イエメンのフーシ派だ.これは,長期的な成功をもたらすレシピではない.)
ただ,ともあれ,第三次世界大戦という今回の記事の本題からすると,これはちょっとばかり脇道の話ではある.イラン戦争は,おそらく第三次世界大戦の前哨戦にはならない.ただ,いくつかの点で,その瀬戸際に世界を近づけてしまうとは思う.
第一に,西側の戦線つまりヨーロッパと中東では,連合の線引きがくっきりしてきている.トランプが選挙に勝ったとき,多くの人たちはこう思った――「アメリカは事実上「陣営を乗り換えた」んじゃないか.」 つまり,トランプは全世界のウォーク〔人種・性別などの差別に敏感になり積極的な是正をはかろうとする傾向〕に対抗する上でプーチンを同盟相手だととらえ,ヨーロッパ人やウクライナ人は《西洋文明》に対する裏切り者だと見ているんだ,という見方がとられた.かくいうぼくも,この考えを抱いていた――アメリカの右派にはこういう感情が多かった(し,いまも多い).それに,大西洋同盟を終わらせる方針は,古典的なアメリカ右派の孤立主義と整合していた.
ただ,「アメリカはもはやロシアの盟友だ」という物語は,この数ヶ月でずいぶんあやしくなってきている.まず,アメリカはベネズエラでロシアの代理勢力を倒し,シリアの「影の船団」に属す石油タンカーを多数拿捕した.その後,イーロン・マスクは,ロシアによる Starlink 利用を遮断した.これによって,ウクライナが戦争の主導権を握れるようになった.いま,アメリカはロシアの主要な兵器供給源を転覆させようと試みている――イランこそ,シャヘド長距離攻撃ドローンの供給源だ.これまでロシアはこのドローンを使ってウクライナの都市を遠くから爆撃してきた.
ロシアはイラン支援に駆けつけなかった.いまロシアはウクライナを相手に手一杯なうえに,ヨーロッパに対するさらに広範な戦争も視野に入れている.それに,アメリカは強大すぎてロシアは戦えない.ただ,ロシアはイランに手を貸してはいて,アメリカ軍を標的に捕捉する助力をしている:
この件に関して報告しているアメリカの情報機関に近しい関係者数名によれば,アメリカ軍部隊・艦船・航空機の位置と動きに関する機密情報をロシアがイランに提供している.(…)ロシアがイランと共有した機密情報の多くは,ロシアが有する高度な上空監視衛星群から得られた画像だという.
これは,アメリカがウクライナにやっていることと似ている.ロシアによる標的捕捉機密情報は,アメリカのミサイル防衛レーダー施設の一部をイランが破壊する助けになったかもしれない――ほぼまちがいなく,そうした施設の破壊は今回の戦争でイランがおさめたもっともめざましい成功だ.
一方,ウクライナは,イランの攻撃ドローン群の標的になった湾岸諸国とアメリカの両方の防衛に駆けつけている.イラン製シャヘド・ドローンを使ったロシアの攻撃に対して何年も防衛を続けてきたおかげで,ウクライナは空中でこの種のドローンを迎撃する専門知識が山ほど蓄積されている.いま,アメリカはその知識を切実に必要としている.かつてアメリカは対ドローン技術に関するウクライナの助力を拒んだけれど,軍事上の必要があればイデオロギーからくるバイアスはたいていひっくり返されるものだ.
ヨーロッパはと言えば,トランプ政権との間にものすごく緊張が強まっているのは間違いないけれど,ヨーロッパ諸国の大半は一世代前にイラク戦争に反対したときのようにはアメリカによるイラン攻撃に反対していない.当初イギリスとフランスはいくらか不満をもらしたけれど,結局はしぶしぶ黙認している.スペインだけが,立ち上がってトランプに反対しようと試みた.
いまのところ,西側の同盟関係は前よりも鮮明になっている――アメリカ,ウクライナ,イスラエル,ヨーロッパが一方の陣営で,ロシアとイランがもう一方の陣営だ.アメリカでもヨーロッパでもいろんな派閥が互いに侮蔑しあったりイスラエルやウクライナを見下したりするかもしれないけれど,結局のところ,ロシアとイランの方がもっと大きな敵だ.
東側では,状況はそんなに定かじゃない.伝統的にインドはアメリカ・ロシア・イスラエル・イランと同時に友好関係をもとうと試みている――これには,ウクライナ戦争やイラン戦争みたいな紛争に関して事実上の中立を保つ必要がある.イラン側だと目されている中国は,おおむねアメリカの行動を批判するにとどまっている.
もちろん,大きな問いはこれだ――「このイラン戦争で,中国が台湾を攻撃する確率は上がるのか?」 一方には,こう考える人たちがいる.「確率は上がる.なぜなら,この戦争によってアメリカはミサイル防衛システムをアジアから移転させるのを検討しないといけなくなっているからだ.」 他方,こう考える人たちもいる.「イランの最高指導部の面々を探し出して殺害してのけたアメリカ/イスラエルのちょっと信じがたいほどの能力を見て,中国の軍事アナリストたちは再考を余儀なくされたように思える――なるほど中国は防衛生産能力でこそアメリカを凌げるにしても,台湾をめぐる戦争の開始数日でアメリカが習近平と中国共産党中央委員会をまるごと暗殺できるとしたら,これは事実上,一種の抑止になりうる.」
見方によっては,いまみんなが目の当たりにしてる状況は1935年か1937年にちょっと似た感じがする――戦争や侵略はそれぞれの地域内にとどまっているように感じられるし,どれももっとも強力なプレイヤーたちは関与していないけれど,それでも世界を不安定にして,個別の争いがどんどん一体化していって,ついにはより広域にまたがる世界規模の紛争に変わる恐れがある,そういう状況にちょっと似ている.他方で,今日の東部方面は,第二次世界大戦中の欧州戦線に近い――そこにはもっとも強大な経済大国と軍隊がいるものの,それぞれの同盟関係はまだ不確実さを残している.いざ中国が台湾を攻撃したら,それはヒトラーのポーランド侵攻に似たものになるだろう――より広域の戦争が始まったという見誤りようのないシグナルになるはずだ.これは,起こるかもしれないし,起こらないかもしれない.
一方,イラン戦争は別の切り口でも第三次世界大戦の前哨戦みたいに感じられる――この戦争は,より広域での戦争が起こればその中心を占めるだろういろんな技術の見本市でもあり開発場でもある.ウクライナ戦争では,各種のドローン(前線の一人称視点ドローン,後方のシャヘド型空爆ドローン)こそが現代戦争の主要兵器だということがまざまざと示された.同様に,アメリカとイスラエルによる対イラン斬首攻撃では,現代の精密戦争で AI が発揮する力も示された.『ウォールストリート・ジャーナル』から引用しよう:
アメリカとイスラエルによるイラン攻撃は,前例のない速度と精度で展開された.これは,(…)かつてこれほどの規模で投入されたことになかった最新兵器のたまものだ:その兵器とは,AI に他ならない.(…)AI ツールを利用することで,情報収集・標的の選定・爆撃任務の計画立案・戦闘被害の評価を従来では不可能だった速度で実行できている.(…)軍事作戦における AI 活用は,アメリカ国防総省による長年の研究や他国軍からもたらされた教訓の積み重ねで成立している.ウクライナは――アメリカの助けを得て――ますます対ロシア戦争で AI を頼るようになってきている.イスラエルは,遅くとも2023年のハマスによる攻撃以降には,紛争で AI を活用してきた.
こちらは,(ニュース源としてまったく正当に評価されていない)Rest of World の記事からの引用だ:
米軍は,これまでの戦争で用いられたことのない極めて高度な AI を活用している.報道によれば,Anthropic の Claude AI は,情報の評価・標的の特定・戦闘シナリオのシミュレーションを担っている.(…)フェルドシュタインによれば,ベネズエラやイランにおける米軍の作戦では,意志決定支援システムや AI による標的捕捉システムでこの AI が最大の役割を果たしている.監視情報・衛星画像その他の膨大な情報を AI は処理して潜在的な攻撃について知見を提供できる.この AI システムは,速度・規模・コスト効率に優れており,「ゲームチェンジャーだ」とフェルドシュタインは言う.(…)Claude などのチャットボットを意志決定支援システムで活用するのは,新しい動きだ(…)
ジョージタウン大学の安全保障・新興技術センターの研究者たちによれば,無人戦闘車両の運転・サイバー攻撃の検知と対応・陸・海・宇宙で標的を特定して攻撃できる AI 能力の試作を中国が進めているという.
これは,スペイン市民戦争中のゲルニカで用いられた空爆や,ノモンハンで日本軍を打ち負かしたソ連の戦車運用法に少し似たところがある.もしもアメリカ・中国・ロシア・ヨーロッパのあいだで全面戦争がはじまったら,AI が戦場での戦果を信じられないほど左右するはずだ.だからこそ,ペンタゴンと Anthropic のあいだであれだけゴタゴタと反目があってもなお,両者とも,なんとか亀裂を繕ってもっと密接に協力するすべを身につけようとする強力なインセンティブがはたらいているわけだ.(さいわいにも,Anthropic の CEO ダリオ・アモデイはものすごく愛国心がある.これがきっと助けになるだろう)
残念ながら,新しい軍事技術は未来の戦争のあり方を決めるだけにとどまらない――未来の戦争を引き起こす潤滑油にもなる.20世紀前半に,どうして世界は2回も世界大戦を戦ったんだろう? イデオロギーや帝国どうしの競争も確かに一因だったけれど,それだけでなく,工業技術の台頭によって既存の力の均衡が崩されたのも事実だ.
野砲の製造・兵站・鉄道によって,ドイツは1870年代にフランスを打ち負かせるほどの大国になった.これによって欧州大陸の力の均衡が崩れて,あちらこちらで同盟関係が結ばれ,やがて第一次世界大戦にいたる.戦間期には,航空戦力によってアメリカ・ドイツ・日本が力を増した一方で,戦車の台頭によってドイツとソ連が力をつけ,その分だけイギリス・フランスの有利が崩された.工業兵器の急速な発達によって,世界のどこが力をもちあわせているのか不明瞭になった.おそらくそのせいで,当時の大国たちが賽を投げてお互いに力を試す賭けに出るのもかつてほど厭わなくなった.
1世紀前にくらべて,いまの国々はもっと慎重かもしれない.核兵器はいまだに存在していて,大国による戦争をいくらか抑止している――もっとも,その昔に比べて核兵器は大幅に減っているし,AI とミサイル防衛によって,相手側〔の核ミサイル〕が着弾する前に打ち落とせる数は前よりも増えている.それに,いまの国々はかつてよりも豊かになっている.そのおかげで,経済的な観点から1914年に比べて戦争はいっそう魅力にとぼしくなっている.
それでも,AI とドローンの台頭にともなって,世界で最強の国がどこなのか誰にもよくわからなくなっている――「はたしてそれはアメリカなのか,中国なのか?」 地域内の力の均衡も――ロシア対ヨーロッパとウクライナ,イラン対イスラエルと湾岸諸国の力の均衡も――同様に不確実になっている.力の均衡がわかっている状況よりも,それが不確かになっている状況の方がおそろしい.
というわけで,第三次世界大戦がすぐそこに迫っているようには見えないけれど,そっちの方へじわじわと近づいていっているのかもしれない.忍び寄ってきた世界大戦が不意に鎌首をもたげたとき,ぼくらはきっとこう結論を下すだろう.「イラン戦争も,この大戦の前哨戦だったんだ.」
[Noah Smith, “Are we in the foothills of World War 3?“, Noahpinion, March 11, 2026: translation by optical_frog]