●Tyler Cowen, “Restaurant economics”(Marginal Revolution, September 7, 2003)
商品の中には、他と比べて「マークアップ」――売値と原価の差額/利幅――が大きなものがある。それはどうしてなんだろうと長年不思議に思ってきた。映画館のポップコーンがあんなにも高いのはなぜなんだろう? 高級レストランのワインがあんなに値が張るのはなぜなんだろう?
ニューヨークを代表するシェフのダニエル・ブールー(Daniel Boulud)――ダニエル、カフェ・ブールー、DB ビストロ・モダンの経営者――が、最近出た回想録(『Letters to a Young Chef』)の中で、まさにこの疑問に答えている。彼が経営するレストランの売り上げ全体のうちでワインの売り上げは30%を占めていて、ワインのマークアップ率は200~300%にもなるという。
ワインの値が張る理由は、食事が終わってもなかなか帰ろうとせずに長居しようとするお客へのチャージ料代わりみたいなものなんじゃないかという説がある。ジョン・ロット(John Lott)(そう、「あの」ジョン・ロット)&ラッセル・ロバーツ(Russell Roberts)の共著論文(pdf)で提起されている説だが、(ワインの値が張る理由について)ブールーは価格差別に基づく別の説明を与えている。ブールーによると(pp. 62)、高級ワインに惹きつけられる客というのは、「大口顧客」(“a great clientele”)で「料理を堪能する気が満々」(“willing to indulge”)であり、新鮮なトリュフのような「最高級の食材」だけを使った料理を味わいたいと考えていて、その願いが叶えられるようなら惜し気もなくお金を払う用意がある。値の張る高級ワインをメニューに載せておくと、「大口顧客」がそのワインに引き寄せられて、大枚をはたいてくれるというわけだ。しかしながら、値の張る高級ワインだけを取り揃えておけばいいというわけではなく、ある程度お手頃な価格帯のワインも用意しておく(メニューに載せておく)必要があるという。「おいしいワインを嗜(たしな)みたいと思っているが、値の張るワインには手が出ないというお客もいる。店の将来は、そういうお客にもかかっている。高額なヴィンテージワインだらけのメニューで仰天させて、彼らの足を遠のかせてしまうわけにはいかないのだ」。
ブールーによると、優れたレストランはワインへの投資 [1] 訳注;後々になって市場で高値がつくようになるワインをまだ安値で手に入るうちにいち早く見つけ出す能力。に秀でていて、それだからこそワインが店の売り上げを支える貴重な柱になっているという [2] … Continue reading。
ブールーの回想録では、レストランの経営者や若手のシェフに向けて色んな種類のアドバイスが散りばめられている。例えば、「ナイフをいつでも鋭く保っておくべし」とか。例えば、「プロのシェフを喜ばせたければ、キャビアではなく、ブタの頭を調理して振る舞うべし」とか [3] 訳注;プロのシェフはプライベートでは何気ない料理を好むというのがその理由のようだ。。
●Tyler Cowen, “Should a restaurant require prepayment for meals?”(Marginal Revolution, September 16, 2014)
中国のレストランで「料金前払い制」を採用している店舗が多い理由について、Quoraで数多くの意見が寄せられている。そのうちの一つを以下に引用しておこう。
自分が経営しているレストランで実際に試してみたことがあります。「料金後払い」 [4] 訳注;食事がすべて終わった後に会計する から「料金前払い」 [5] 訳注;料理の注文と同時に(料理が運ばれてくる前に)会計を済ませる に変更したところ、テーブルの回転率が80%以上も高まったんです。
どうしてそうなるのかというと、料金が後払いだと、食事が終わった後もテーブルに居座り続けるのを正当化できるからでしょう [6] … Continue reading。料金が後払いだと、お客たちは食事が済んでもすぐには去りません。タブレット端末を取り出してフェイスブックを眺めています。何時間もぶっ続けでお喋りを続けます。ゆっくりと寛(くつろ)ぎます。料理を追加で注文する気があるのかどうかというのは、さして肝心な問題じゃありません。というか、料理を追加で注文するという選択肢があるおかげで、テーブルに居座り続けるのを正当化できる理由が一つ増えてしまうのが問題なのです。
その一方で、料金が前払いだと、食事が終わった後もテーブルに居座り続けるのを正当化できる理由がありません。料理を追加で注文するのは勿論可能ですが、「限界効用逓減の法則」 [7] … Continue readingに、(注文のたびに会計を済まさなくちゃいけないという)面倒臭さが加わって、追加で注文するのが億劫になります。食事が終わると何となく落ち着かなくなってきます。罪悪感を感じるようにもなります。そして、店を出て行くのです。
「料金前払い」が回転率を上げるかどうかは、ビジネスモデル次第というところがあります。低価格が売りのレストランであれば、「料金前払い」は客の回転を早める有効な戦法になるでしょう。その一方で、高級レストランだと、「料金前払い」は逆効果になるかもしれません。「ワイン1本に150ドルも払ったんだし、少しゆっくりしていくか」という結果になってしまうかもしれませんから。
情報を寄せてくれた Eduardo Pegurier に感謝。
References
↑1 | 訳注;後々になって市場で高値がつくようになるワインをまだ安値で手に入るうちにいち早く見つけ出す能力。 |
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↑2 | 訳注;ワインが店の売り上げを支える柱になる理由はワインのマークアップ率が高いためだが、ワインのマークアップ率が高い理由の一つは、後になってその評価が高まることになるワインをまだ安くてそれほど知られていないうちに手に入れるのに成功したから、ということ。 |
↑3 | 訳注;プロのシェフはプライベートでは何気ない料理を好むというのがその理由のようだ。 |
↑4 | 訳注;食事がすべて終わった後に会計する |
↑5 | 訳注;料理の注文と同時に(料理が運ばれてくる前に)会計を済ませる |
↑6 | 訳注;「食事が済んだのに、どうしていつまでもテーブルに居座り続けているのか?」という疑問に対して、「まだ会計が済んでいないから」という立派な(?)理由が存在する。 |
↑7 | 訳注;平らげた料理の量が多くなるほど(お腹が満たされれば満たされるほど)、そこから新たに料理を口にすることの有難味が徐々に小さくなっていく(限界効用が逓減していく)ため、追加で注文を頼む意欲が削がれていく、ということ。 |