アダム・トゥーズ 「『サンタのおもちゃ工房』の内幕 ~エルフは強制的に働かされている奴隷なのか?~」(2023年12月24日)

エルフたちは、「サンタのおもちゃ工房」で強制的に働かされている?
画像の出典:https://www.ac-illust.com/main/detail.php?id=24486156

クリスマス特別版である最新のポッドキャストでは、「サンタのおもちゃ工房」の内幕に真っ向から迫っている。

https://podcasts.apple.com/gb/podcast/santa-claus-economics/id1584397047?i=1000639437710

まずはじめに取り上げているのは、北極における領有権争いというお堅い話題だ。本題に入る前のつかみだ。

上の地図は、偵察衛星の映像をもとにして(イギリスの)ダラム大学(pdf)が作成したものであり、北極における領有権争いがどうなっているかが可視化されている。色んな国が「北極点のこのあたりは、我が国の大陸棚の一部だ」と言い争っているのだ。

注目すべきことは、2023年2月に国連(国際連合)の大陸棚限界委員会(CLCS)がロシアの言い分については認める一方で、デンマーク――デンマークは、自治領であるグリーンランドを絡めて北極における領有権を主張している――やカナダの言い分については判断を保留していることだ。

サンタクロースも参与しているような「ギフト経済(贈与経済)」を支えている論理とはいかなるものかというのが(ポッドキャストの進行役である)キャム(キャメロン・アバディ)によって投げ掛けられている次なる問いだ。「ギフト経済」という仕組みは、いかにして可能になっているのだろうか? この問いについては真正面から答えずに、ジョルジュ・バタイユ(Georges Bataille)が 『The Accursed Share』(邦訳『呪われた部分』)で展開している「過剰性の経済学」(蕩尽論)――ならびに、その応用でもあるところの(第二次世界大戦後の)マーシャル・プランについてのバタイユ流の分析――に言及してお茶を濁しておいた。バタイユが言うところの「普遍経済」の観点からすると、サンタクロースが全世界を舞台にして展開しているギフト経済というのは、不可解な謎なんかではなく、グローバルな政治経済システムの根幹をなしていると見なせるのだ。

いよいよ本題に入ることになるが、「サンタのおもちゃ工房」の内幕はどうなっているのだろうか? 「サンタのおもちゃ工房」で膨大な数のおもちゃ(プレゼント)を作る上で欠かせない投入物(生産要素)と言えば、働き手としてのエルフたちだ。このあたりから雲行きが怪しくなってくる。キャムも指摘しているように、エルフたちは「サンタのおもちゃ工房」で強制的に働かされている「不自由な」労働者(奴隷)だと広く信じられているのだ。神話に深く根差している説だが、ここ最近だとハリー・ポッターシリーズもこの説(「エルフ=奴隷」説)に加勢している。「屋敷しもべ妖精(ハウス・エルフ)」がそれだ。10年前にアメリカ人を対象にして行われた調査によると、「エルフたちは、強制的に働かされている奴隷だ」と信じている人の割合が何と過半数に上(のぼ)っている。ゾッとする話じゃないか!・・・って感想を漏らして終わりにせずに、さらにもう一歩踏み込むとしよう。エルフたちが仮に強制的に働かされているのだとしたら、どういう理由でそうなっているのだろう? エルフたちは、どうしたって強制的に働かされる奴隷になるしかないのだろうか? 本当にそうなのかと詳しく探りを入れているのが、パシフィック・スタンダード誌のこちらの優れた記事だ。「土地」が広大(豊富)な一方で「人手」(労働)が稀少という地理的な条件を備えている北極では、「不自由な」強制労働が蔓延(はびこ)りやすいのかどうかについて探られているが、玉虫色の結論が出されている。

サンタクロースには、エルフの他にも助けが必要だ。移動手段がそれだ。そう、トナカイだ。トナカイをどう分類するかというのは個人的にお気に入りの話題なのだが、大雑把な見立てによると、ユーラシア大陸に生息するトナカイ(レインディア)の数は100万頭で、北米大陸に生息するトナカイ(カリブー)の数は300万頭に上るらしい。

トナカイが群れをなしてどのあたりに生息しているかを大まかにまとめたのが上の地図だ。地図上の数字がそれぞれどこを指しているかというと、以下の通り。1. 西部北極圏(ヤマアラシカリブーの生息地帯)/2. ポーキュパイン川(ヤマアラシカリブーの生息地帯)/3. ブルーノーズ湖(不毛カリブーの生息地帯)/4. バサースト岬(不毛カリブーの生息地帯)/5. ビバリー湖(不毛カリブーの生息地帯)/6. カマニジュアク湖(不毛カリブーの生息地帯)/7. リーフ川(森林カリブーの生息地帯)/8. ジョルジュ川(森林カリブーの生息地帯)/9. タイミル半島(ツンドラトナカイの生息地帯)/10. レナ川オレニョーク川(ツンドラトナカイの生息地帯)/11. ヤナ川インディギルカ川(ツンドラトナカイの生息地帯)/12. スンドルン川(ツンドラトナカイの生息地帯)。

おそらくは、北極圏で暮らしている人のうち10万人くらいが生計のかなりの部分をトナカイの放牧によって立てていると思われる。そのため、残念なことに、おもちゃが積み込まれたソリを引かせるために使えるトナカイの数は限られることになる。さらには、まことしやかにささやかれている説によると、サンタが乗ったソリを引っ張る8頭のトナカイたちに漏(も)れなく角(つの)があるようなら、どういう名前で呼ばれていようと――「Dasher(ダッシャ-)」と呼ばれていようと、「Dancer(ダンサー)」と呼ばれていようと、「Prancer(プランサー)」と呼ばれていようと、「Vixen(ヴィクセン)」と呼ばれていようと、「Comet(コメット)」と呼ばれていようと、「Cupid(キューピッド)」と呼ばれていようと、「Dunder(ダンダ-)」と呼ばれていようと、「Blixem(ブリクセム)」と呼ばれていようと――、みんな女の子(メス)だと考えられるという。そう考えられる理由については、・・・ポッドキャストをお聞き願いたいと思う。


〔原文:“Chartbook 257: Santa’s workshop economy and the question of unfree elvish labour.”(Chartbook by Adam Tooze, December 24, 2023)〕

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