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Stephan Brunow, Antonia Birkeneder, Andrés Rodríguez-Pose「ドイツにおける創造的な労働者と科学志向の労働者、そしてイノベーション政策」(2018年7月21日)

Stephan Brunow, Antonia Birkeneder, Andrés Rodríguez-Pose “Creative and science-oriented workers and innovation policy in Germany” (Vox.EU, 21 July 2018)

 

研究はますます、都市、およびとりわけ大都市をイノベーションの現代的な駆動力にするための基本的な力として、創造的な労働者と科学志向の労働者の集中度の上昇を指摘するようになっている。このコラムでは、これがドイツでも当てはまるかについて検証する。結果は、創造的な労働者のイノベーションは企業の境界によって制約されるのに対して、科学志向の労働者は多くのイノベーションのスピルオーバーを生み出しているということを示唆している。ドイツにおいてイノベーションを生み出すための政策は、「クリエイティブな労働者」というよりむしろ「オタク」に焦点を置くことによってより多くのリターンを生み出す傾向にあり、イノベーション政策は、大都市を越えて、「オタク」にとって魅力的であると証明されたより広い範囲の領域に向かうべきである。

 

「創造的でイノベーティブで心の広いみなさん…この都市で機会を見つけてください。」このスローガンのもと、ベルリンは2008年にブランディングキャンペーンを開始した。キャンペーンの目標は、ベルリンのイメージを、観光客とより重要なことにはアントレプレナーを惹きつける事ができる、華やかで多様性があり寛容な大都市として磨くことだった。創造性とイノベーティブさは、このようにしてベルリンの経済のアジェンダのまさに最重要課題に据えられた。

しかし、ベルリンは、創造性と革新性に関する経済的評判を確立しようとする都市の中の例外ではない。事実上、すべての都市は創造性と革新を同じコインの両面とみなしている。野心的な「スマートな都市」は、イノベーションと経済のはしごを登るという目的で、創造的な階層をますます呼び寄せようとしている。それはしばしば現地の設備と住環境の改善という方法による(Florida 2004, Partridge 2010)。よりイノベーティブで創造的な都市はより一生懸命に考えている。それらはまた、将来の福祉と成長の拠点とも考えられている。したがって、創造性とイノベーションはより良い生存性と進歩のための前提条件とみなされる。したがって、創造性とイノベーションは、最もスマートな都市と都市開発戦略の中心となっている(Florida 2014, Lee and Rodríguez-Pose 2016)。

科学志向の労働者は、一般に、創造的な労働者ほど注意を引いてこなかった。科学志向の労働者は高度に熟練しており、頻繁にイノベーションをもたらす非日常業務を行う傾向が非常に頻繁にある(Hyde et al. 2008)。しかし、創造的な労働者を引きつけることを目標としたますます多くの公共政策――Florida (2004)にしたがえば――とは対照的に、科学志向の労働者の追求により慣れているので、都市や地域はこの課題を企業に任せている。それゆえに、後に残る疑問は、創造的な個人――Marrocu and Paci (2012)が「ボヘミアン」と呼ぶところのもの――あるいは理工系の分野で創造的な活動を行っている高度に熟練した専門家によってもたらされたイノベーションの利益のどちらがより多くあるのかと関連している。どのタイプの都市と地域がこれらの二種類の労働者を惹きつけるための政策から最も利益を得るのかに関する疑問もまた存在する。われわれは、ドイツに焦点を当てた近年の論文でこれらの疑問を探っている。

 

ドイツでは「ボヘミアン」と「ギーク」は同じ場所に入り混じっているのか?

学術的な研究においては、創造的な労働者と理工系の労働者の両者ともに、彼らの才能を発達させる最大の機会を提供する場所――すなわち都市――に群れるというのが支配的な見解であってきた。そしてより大きくより人口密度が高い都市ほど、より良い。しかしながら、このことはドイツには当てはまらないように思われる。図1は、NUTS 3レベル[1]でのドイツの地域全体の創造的な労働者および理工系の職業の地域シェアをマッピングしている。上の図は創造的な労働者の分布を描写している。二、三の例外はあるが、ドイツの創造的な労働者は、実際に、基本的には大都市の住民である。彼らは都市に集中している――そこでは彼らの割合は労働力全体の4%を超えている。下の図は理工系の労働者の分布を示している。ドイツの「オタク」は、対照的に、「ボヘミアン」に比べてはるかに都市に集中していないのである。科学志向の労働者は、バイエルン州やバーデン=ヴュルテンベルク州のような経済的に強い地域に位置している傾向にある。それは、それらの地域が彼らを好むか、あるいは彼らが連続して存在することがそれらの地域をより豊かにしたからである。対照的に、彼らの数はその数は主に農村地域ではかなり低く、そしてあるいはまたはドイツ東部と北部の地域に遅れている。ベルリンやミュンヘンのような大都市は創造的な労働者のシェアが高いが、それと比較すると理工系の労働者のシェアはかなり低い。

図1. 2014年の全ての労働者に対する創造的な労働者および理工系の労働者の地域分布)

a) 創造的な労働者

b) 理工系労働者

Source: IAB-ES data based on all regional employees in both groups to provide regionally representativeness.  BKG Geodatenbasis 2015.

 

創造的な労働者と理工系の労働者の間のこの違いはドイツにおいてイノベーションの地理に影響を与えているのか?

ドイツの「ボヘミアン」と「オタク」の地理の違いはドイツ企業がイノベーションをするための能力にどのような影響を与えるのだろうか。1998年から2015年の期間の11万5000以上の企業レベルの観察を網羅したわれわれの計量経済学的な分析では、実際に、ドイツにおけるイノベーションは、創造的な労働者および理工系の労働者の雇用のシェアと相関関係がある。より多くの「ボヘミアン」とより多くの「オタク」を雇用している企業は、そうでない企業に比べてよりイノベーティブである。この関係は、企業レベルのイノベーションにも影響を及ぼす多数の地域的、部門的、およびその他の施設関連の特性のコントロールに対して揺るがない。

しかしながら、創造的な労働者と理工系の労働者の役割は、企業という壁の外では大きく異なる。創造的な労働者は企業という境界の中でイノベーションをもたらしているようにしかみえないのに対し、理工系の労働者は、イノベーション能力を周辺の領域に拡張することが可能である――それに加えて、イノベーションに全体的な影響が強い。

 

創造的な労働者ではなく科学的な労働者のための公共政策

これらの結果は、ドイツの都市や地域においてイノベーションを駆り立てるために実施されてきた公共政策について思考の糧を提供する。都市や地方をよりスマートでよりイノベーティブにすることを目標とする地方の意思決定者にとって、この分析の結果は、方向性において、創造的な労働者と理工系の労働者を惹きつける政策は両方ともに、イノベーションという形で重要なリターンを生み出しうるということを指摘している。しかし、これに加えて限られたリソースに直面したとき、理工系の労働者を募集することは、独創的な労働者に専念するよりも、より大きな価値を提供しうる。創造的な労働者は主に会社内のイノベーションを促進するため、より多くの政策を導入することによる公的利益はより限定的になる。したがって、公共部門が民間企業によるイノベーションの創出と割り当てを助成するのではなく、個々の企業は、適切なスキルを持つ人材を採用することによって、創造性を高めるための努力を強化するだろう。対照的に、ドイツの理工系の労働者は、会社を超えて、同じ都市およびまたはあるいは地方の周辺企業や周辺地域に流出する恩恵を提供する。理工系の労働者はまた、最大規模の都市集積を超えたイノベーション能力を活発化させ、中小都市におけるイノベーションと経済的ダイナミズムにとってより大きな役割を果たしうる。このことは、結局のところ、ドイツの都市や町をよりスマートにするために、公共資源を使って理工系の労働者を引きつけることをより正当なものだと主張している。

 

References

Brunow, S, A Birkeneder and A Rodríguez-Pose (2018), “Creative and science oriented employees and firm-level innovation”, Cities 78: 27-38.

Florida, R (2004), The rise of the Creative class and how it’s transforming work, leisure, community and everyday life, Basic Books.

Glaeser, E (2005), “Review of Richard Florida’s The rise of the Creative Class”, Regional Science and Urban Economics 35(5): 593–596.

Hyde, J S, S M Lindberg, M C Linn, A B Ellis and C C Williams (2008), “Gender similarities characterize math performance”, Science 321(5888): 494-495.

Lee, N and A Rodríguez-Pose (2016), “Is There Trickle-Down from Tech? Poverty, Employment, and the High-Technology Multiplier in US Cities”, Annals of the American Association of Geographers 106(5):  1114-1134.

Marrocu, E and R Paci (2012), “Education or Creativity: What Matters Most for Economic Performance?”, Economic Geography 88(4):369–401.

Partridge, M D (2010), “The duelling models: NEG vs amenity migration in explaining US engines of growth”, Papers in Regional Science 89(3): 513-536.

 

[1]NUTS 3レベルとは、ドイツの地方行政区分の区分法の一つである。NUTS 1レベルは州(Land)単位で区分したもの、NUTS 2レベルは州の下にある県(Regierungsbezirk)単位で区分したもの、NUTS 3レベルとは県の下にある郡(Landkreis)や独立市(Kreisfreie Stadt)単位で区分したものを指す。


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