ラルス・クリステンセン 「馬肉の経済学 ~『汚らわしい』から食べるのを法律で禁ずべき?~」(2013年2月15日)

アメリカのカリフォルニア州では、1998年に住民投票で馬の肉を人間の食用に供することが法律で禁じられた。馬の肉を口にするのは「汚らわしい」ので、誰であっても馬の肉を口にすべきじゃないと見なされたからだ。
画像の出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/26176690

今回取り上げるのは金融政策とは別の話題になってしまうが、どうしても我慢できなかった。ヨーロッパ各国の主要メディアで盛んに報じられているトップニュースの一つが「馬肉スキャンダル」だ。

CNNの報道を引用しよう。

スウェーデン、イギリス、フランスで牛肉100%のラベルが貼られて販売されていた食品の中に、馬肉が混ざっているのが見つかった。それぞれの国で食品の衛生管理を担当する機関が調査に乗り出したが、調査の対象になるサプライチェーンは(三カ国にとどまらずに)あちこちの国にまたがっている。

まっとうな経済学者であれば誰もが、馬肉のことについて聞くならノーベル経済学賞受賞者であるアルヴィン・ロス(Alvin Roth)(pdf)ってすぐにピンとくるだろう。

カリフォルニア州にあるレストランで、馬の肉や犬の肉を食べることができないのはなぜなのか? カリフォルニアには全世界から人が集まっていて、その中には馬の肉や犬の肉を食する習慣がある国の出身者もいるというのに、なぜ? カリフォルニアの多くの住人たちが馬の肉(や犬の肉)を食べたいと望んでいないからというのも勿論あるが、理由はそれだけではない。馬の肉を口にするのは「汚らわしい」と感じられて、誰であっても馬の肉を口にすべきじゃないと見なされたのだ。そして、1998年に住民投票で馬の肉を食べるなんていう「汚らわしい」行いが法律で禁じられたのだ。カリフォルニア州刑法第598条の一部を引用しよう。「人間の食用に馬肉を販売してはならない。レストラン、カフェをはじめ、大勢が集まって食事をする場所で馬肉を食用に供してはならない」。ちなみに、住民投票で票を投じたのは460万人以上で、馬の肉を人間の食用に供するのを法律で禁じるのに賛成したのは6割、反対したのは4割だった。

先の法律では、食用に供される動物の屠殺、販売、調理、販売時の表示方法に規制を加えて、消費者の安全を守ろうとしているわけではないことに注意してほしい。動物を惨(むご)たらしく扱うのを禁じているわけでもない。家畜の飼育や屠殺に規制を加える法律や、闘鶏を禁じる法律や、シカゴのレストランでフォアグラを出すのを禁じる法律(Ruethling, 2006)――つい最近成立したばかりだが、反対する声も依然として大きい――なんかとは別物だ。カリフォルニアでは、馬を殺害するのは違法ではない。カリフォルニアの法律で違法とされているのは、「そのいずれかの部位が人間の食用に供されると知りながら、あるいは、知り得ながら」馬を殺害するケースに限られている。馬肉を「人間の食用」に供するのが禁じられているのであって、馬肉が混じっているペットフードを売り買いするのはカリフォルニアでも依然として合法なのだ――とは言え、ヨーロッパで人間の食用として米国産の馬肉に対する需要が高まっているあおりで、ペットフードに馬肉を混ぜるのが控えられるようになっている――。

私がかつて提案した(ベーコンを通貨の価値の基準とする)「ベーコン本位制」にとっても見過ごせない問題の種になるかもしれないという懸念――豚肉に馬肉を混ぜたら、通貨の価値を引き下げる(インフレを起こす)こともできるかもしれないわけで・・・――を除くと、付け加えるべきことは何もない。


〔原文:“The Economics of Horsemeat”(The Market Monetarist, February 15, 2013 )〕

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