タイラー・コーエン 「格差の拡大が再分配の強化につながるのはどんな時? ~肝心なのは『水準』ではなく『構造』~」(2011年6月3日)

中間層と貧困層の所得格差が小さいようだと、中間層は貧困層に対していくらか仲間意識を感じて、 「偏狭な利他性」を発揮する。すなわち、貧困層のことを「自分と似ている」ところがある仲間と感じるがゆえに、再分配の強化を支持する――仲間のために利他的に振る舞う――方向に傾くのだ。
画像の出典:https://www.ac-illust.com/main/detail.php?id=23247761

ヘンリー・ファレル(Henry Farrell)が興味深い論文の概要を紹介している。

 American Political Science Review誌に掲載されているノーム・ルプ(Noam Lupu)&ヨナス・ポントゥソン(Jonas Pontusson)の二人の共著論文(pdf)で、格差と再分配の関係にメスが入れられている。社会全体の経済格差の「水準」が高まると再分配が強化されるかどうかをめぐって盛んに論争が繰り広げられているが、経済格差の「水準」よりも経済格差の「構造」の方が大事というのがルプ&ポントゥソンの論である。すなわち、経済格差の度合いを測る(ジニ係数のような)統計指標の値よりも、異なる所得層間の関係の方が大事だというのだ。 もっと具体的に踏み込むと、人種間/民族間の分断に関わる変数をコントロールすると、中間層(所得分布のちょうど真ん中)と貧困層(所得下位10%)の所得格差こそが再分配政策の帰趨を左右する鍵を握っているというのだ。

中間層と貧困層の所得格差が小さいようだと、中間層は貧困層に対していくらか仲間意識を感じて、 (ルプ&ポントゥソンの表現だと)「偏狭な利他性」(“parochial altruism”)を発揮する。すなわち、貧困層のことを「自分と似ている」ところがある仲間と感じるがゆえに、再分配の強化を支持する――仲間のために利他的に振る舞う――方向に傾くわけだ。その一方で、 中間層と貧困層の所得格差が大きいようだと、中間層は貧困層に大して仲間意識を感じないために、再分配の強化を支持する可能性が低くなる。

ルプ&ポントゥソンによると、アメリカは外れ値だという。中間層が貧困層に対して抱いている仲間意識が両者(中間層と貧困層)の所得格差の大きさから予測されるよりも弱いというのだ。ルプ&ポントゥソンの二人は、その理由を次のように率直に語っている。「所得分布の底辺に人種的・民族的マイノリティが集中しているのが原因なのは疑いない」。もっとぶっきらぼうな言い方をすると、最下層には黒人が多いので、アメリカの中間層は最下層に対してそこまで仲間意識を感じないのだ。


〔原文:“When does greater inequality lead to greater redistribution?”(Marginal Revolution, June 3, 2011)〕

Total
0
Shares

コメントを残す

Related Posts