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ド・ブロムヘッド&アイケングリーン&オルーク 「1930年代の大恐慌下において極右勢力の台頭を支えた要因は何か?」

●Alan de Bromhead, Barry Eichengreen and Kevin O’Rourke, “Right-wing political extremism in the Great Depression”(VOX, February 27, 2012)


<要約>

世界的な経済危機が長引くにつれてあの1930年代と同じように政治的な過激主義の台頭がもたらされることになるのではないかとの恐れが人々の間で抱かれつつある。この論説では、政治的な分裂状況が生じたり過激主義が台頭する危険性は次のような特徴を備えた国において高くなるとの研究結果を明らかにする。すなわち、民主主義を採用してからの歴史が浅く、極右政党が既に議会にいくつか議席を得ており、新たに作られたばかりの政党が議会で議席を獲得する上でのハードルが低い仕組みの選挙制度を持った国においてその危険性は高くなるのである。しかしながら、そんな中でも経済の低迷が長きにわたって放置されている国においてこそとりわけその危険性が高いのである。

世界中を巻き込む格好となった今般の経済危機は単に経済の次元にとどまらないインパクトをもたらしている。例えば、次のような事例を挙げることができるだろう。

  • 代議制、大統領制のいずれの民主主義国家においても政権与党が選挙で敗北を喫することになった。
  • 経済的に厳しい状況の発生に伴ってナショナリストや右翼政党――その中には現状の政治制度への敵意を包み隠さず露にしている勢力も含まれている――に対する支持が高まりを見せることになった。

このような事例は人々の間にある恐れを抱かせる格好となっている。すなわち、あの1930年代がそうであったように、このまま経済的に厳しい状況が続くことになれば政治的な過激主義が育まれる格好となってしまうのではないかとの恐れが人々の間で抱かれつつあるのである。

1930年代の記憶は現下の経済に関する議論(例えば、Mian et al(2010)Giuliano and Spilimbergo(2009)〔拙訳はこちら〕を参照せよ)だけではなく、現下の政治に関する議論に対しても多くの示唆をもたらしているが、次のような疑問についてはこれまでのところ系統立ったかたちでは研究がなされてきてはいないと言えよう。すなわち、戦間期に発生した大恐慌や経済危機は当時の政治的な結果や反体制派である右翼政党の台頭に対して正確なところどのように影響を及ぼしたのだろうか?

この疑問に取り組むために、この度我々は特に反体制派の政党――我々の研究では、既存の政治制度の転覆を包み隠さずに提唱している(あるいは目的に掲げている)政党を指して「反体制派の政党」と定義している(de Bromhead et al 2012(pdf))――に対する支持の変遷に着目するかたちで第一次世界大戦と第二次世界大戦の間に各国で実施された選挙の分析に乗り出すことになった。我々の研究では反体制派の政党の中でも左翼ではなく右翼の政党に焦点を合わせている。その理由は、1930年代に実施された選挙で厄介ながらもはっきりとしたかたちで躍進を見せたのは右翼の政党だったからである。このことは現在に関しても当てはまることであり、今般の経済危機下において(反体制派の中で)最も大きな躍進を遂げているのはまたもや右翼の過激派政党(極右政党)なのである(Fukuyama 2012)。

1930年代における極右勢力の台頭に関する諸理論

1930年代になぜ極右政党が台頭することになったかを探る理論はいくつか存在するが、そのような諸理論をグループ分けすると大きくは次の5つのカテゴリーに分類できるだろう。

  • 第一のカテゴリー;過激派政党への支持の高まりや民主主義体制の動揺を戦間期における厳しい経済状況(経済の低迷)に関連付ける理論(Frey and Weck 1983, Payne 1996)

二つ目のカテゴリーでは社会内部における亀裂に強調が置かれることになる。

  • 第二のカテゴリー;民族や宗教、階級の間の亀裂(cleavage)の存在が社会全体でのコンセンサスの形成を困難にし、経済危機に対して社会全体が一丸となって対応することを妨げる障害となった(Gerrits and Wolffram 2005, Luebbert 1987)

この第二のカテゴリーに沿った議論は第一次世界大戦後のヨーロッパ情勢をテーマとする文献の中でよく持ち出されるものである。第一次世界大戦後のヨーロッパでは民族や宗教の違いについて大して顧慮されることもなく新たな国家が建設されたのであった。

  • 第三のカテゴリー;戦間期の政治情勢を彩る要因として第一次世界大戦の遺産に注目を寄せる理論(Holzer 2002)
  • 第四のカテゴリー;政治制度や憲法の構造に着目する理論。ある特定の形態をとる政治制度や憲法を持つ国では反体制派の政党が影響力を得る上で一層大きな余地が生み出される格好となった。

第四のカテゴリーに関しては例えばレイプハルトの議論(Lijphart 1994)を挙げることができるだろう。小規模政党や新しく作られたばかりの政党に対してその国の政治制度がどの程度開かれているか――政治制度の開放度は、選挙に比例代表制が導入されているかどうか、(比例代表制選挙において)政党が議席を獲得する上で最低限どれだけの得票率(閾値)が必要かなどに基づいて測られることになる――が過激派政党への支持の高まりを決定づける上で重要な要因となったとレイプハルトは論じている。

  • 第五のカテゴリー;政治制度の安定性(耐久性)を決定づける重要な要因として政治文化の役割に着目する理論(Almond and Verba 1989)

第五のカテゴリーに沿った議論では民主主義の安定性を支える重要な要素として「シビック・カルチャー(市民文化)」(‘civic culture’)に特に注目が寄せられることになる。この線に沿った議論によると、シビック・カルチャーは家庭や学校、コミュニティーを通じて世代を超えて伝播されることになるが、その伝播は民主主義それ自体に触れることによっても生じることになるとされる。つい最近のことだが、ペルソン&タベリーニ(Persson and Tabellini 2009)は「デモクラティック・キャピタル」(democratic capital)という新たな概念に基づいて次のように主張している。民主主義を採用してからの歴史が長い国ほどデモクラティック・キャピタルの蓄積が進む格好となり、その結果として国民が既存の政治制度を引き続き支持する可能性が高まることになる、と。以上の議論からは、過激派勢力がより一層の影響力を獲得する可能性があるのは大恐慌を経験した国の中でも成熟した政治的な伝統を欠いており、デモクラティック・キャピタルの蓄積が貧弱な国においてであることが示唆されることになろう。

我々の研究を通じて明らかになったこと

我々の研究では1919年から1939年までの時期にかけて28カ国で実施された計171の選挙が分析の対象となっている。サンプルとなっている国はヨーロッパに偏っているが、それは戦間期に選挙が実施された国がヨーロッパに集中しているためである。しかしながら、北アメリカやラテンアメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなど情報を得ることができた範囲ですべての選挙の観察データを分析対象に含んでいる。我々の研究では反体制政党(反体制派の政党)をサルトーリ(Sartori 1976)に倣って「政権の交代ではなく、既存の政治制度の転換(政府の転覆)を目指す」政党と定義している。反体制派として括られる右翼政党の例としては、ドイツの国家社会主義ドイツ労働者党(NSDAP;ナチス)は言うまでもなく、ハンガリーの矢十字党(Arrow Cross)やルーマニアの鉄衛団(Iron Guard)を挙げることができよう。

我々の研究における主要な関心は、大恐慌が投票パターンにどのようなインパクトを持ったか、すなわち、1929年以降において各政党の得票率がどのような変遷を辿ったかという点にある。我々の計量経済学的な分析結果によると、大恐慌はファシストにとって恵みをもたらすものであったことが示されている。中でも、1914年以前の段階で民主主義を採用していなかった国や1929年以前にファシスト政党が既にいくつか議席を得ていた国、 第一次世界大戦の敗戦国、1918年以降に国境線が書き換えられた国において特にそうであった1 ことが示されている。

当時のドイツは今挙げた特徴をすべて備えており、実際にもファシスト政党(ナチス)の得票は大きな伸びを記録したわけだが、そこで読者の中には次のように疑問に思う人がいるかもしれない。上に挙げたような特徴を備えた国で特にファシスト政党への支持が高まりを見せたという結果が出ているのは単にドイツの経験だけを反映したもの(ドイツの経験に引きずられたもの)なのではないか、と。ここでは細かい点にまで触れられないが、その疑問に端的に答えておくと「ノー」である。

ここで重要な点について指摘しておこう。過激派勢力の台頭を左右する経済の状況といった場合に問題となるのは、選挙を控えた一時的な期間にわたる経済成長のパフォーマンスではなく、累積的な経済成長のパフォーマンス、もっと適当な言い方をすると、累積的な低迷(経済の落ち込み)の程度だということである。景気の低迷が1年程度続くだけでは過激主義の大きな台頭をもたらす上では十分ではない。言い換えると、数年間の長きにわたって続く不況(depression)こそが過激主義を大きく台頭させることになるのである。

以上の結果は様々なコントロール変数――期間ダミーや都市化変数、閾値2 など――を加味した上で回帰分析を行っても異なる手法で計量分析を行っても依然として成り立つことが判明している。また別の特定化を行った回帰分析でも、経済の低迷が(過激主義の台頭に対して)持つインパクトはファシスト政党が(1929年以前に)既に議会に議席を得ていたり、民主主義を採用してからの歴史が浅い国において一層大きいとの結果がまたもや得られている。我々の分析結果は政治文化の役割を重視するアーモンド&ヴァーバ(Almond and Verba 1989)の主張やデモクラティック・キャピタルの役割に関するペルソン&タベリーニ(Persson and Tabellini 2009)の議論――民主主義を採用してからの歴史が長い国ほどデモクラティック・キャピタルの蓄積が進んでおり、それゆえ既存の政治制度に対する脅威に耐え得る可能性が高い、という議論――に合致したものだと言えよう。

最後になるが、我々の分析結果では反体制派の右翼政党が選挙で成功を収めるかどうかはその国の選挙制度によっても影響されることが見出されている。(比例代表制選挙において)政党が議席を獲得する上で必要となる最低限の得票率(閾値)が高い水準に設定されている国ほど泡沫政党が議席を手にすることが困難であり3 、そのためファシスト政党が選挙で手にする便益も小さくなるのである。

結論

我々の研究結果によると、政治的な分裂状況が生じたり過激主義が台頭する危険性はそれぞれの国が備える特徴によって異なっており、具体的には次のような特徴を備えた国においてその危険性が高いことが示されている。

  • 民主主義を採用してからの歴史が比較的浅い
  • 極右政党が既にいくつか議席を得ている
  • 新たに作られたばかりの政党が議会で議席を獲得する上でのハードルが低い仕組みの選挙制度を持っている

そんな中でも経済の低迷が長きにわたって放置されている国においてこそとりわけその危険性が高いのである。


<参考文献>

●Almond, GA and Verba, S (1989, first edition 1963), The Civic Culture: Political Attitudes and Democracy in Five Nations (邦訳 『現代市民の政治文化-五ヵ国における政治的態度と民主主義』), London: Sage.
●de Bromhead, A, B Eichengreen and KH O’Rourke (2012), “Right Wing Political Extremism in the Great Depression(pdf)”, Discussion Papers in Economic and Social History, Number 95, University of Oxford.
●Frey, BS and Weck, H (1983), “A Statistical Study of the Effect of the Great Depression on Elections: The Weimar Republic, 1930–1933(JSTOR)”, Political Behavior 5: 403–20.
●Fukuyama, F (2012), “The Future of History”, Foreign Affairs 91: 53–61.
●Gerrits, A and Wolffram, DJ (2005), Political Democracy and Ethnic Diversity in Modern European History, Stanford: Stanford University Press.
●Giuliano, P and A Spilimbergo (2009), “The long-lasting effects of the economic crisis”, VoxEU.org, 25 September.
●Greene, W (2004), “Fixed Effects and Bias due to the Incidental Parameters Problem in the Tobit Model(Taylor & Francis Online)”, Econometric Reviews 23: 125-47.
●Holzer, J (2002), “The Heritage of the First World War,” in Berg-Schlosser, D and J Mitchell eds, Authoritarianism and Democracy in Europe, 1919–1939: Comparative Analyses, New York: Palgrave Macmillan, 7–38.
●Honoré, B (1992), “Trimmed Lad and Least Squares Estimation of Truncated and Censored Regression Models with Fixed Effects(JSTOR)”, Econometrica 60: 533–65.
●Lijpart, A (1994), Electoral Systems and Party Systems: A Study of Twenty-Seven Democracies, 1945–1990, New York: Oxford University Press.
●Luebbert, GM (1987), “Social Foundations of Political Order in Interwar Europe(JSTOR)”, World Politics 39: 449–78.
●Mian, A, A Sufi and F Trebbi (2012), “Political constraints in the aftermath of financial crises”, VoxEU.org, 21 February.
●Payne, SG (1996), A History of Fascism: 1914–1945, London: Routledge.
●Persson, T and G Tabellini (2009), “Democratic Capital: The Nexus of Political and Economic Change”, American Economic Journal: Macroeconomics 1: 88–126.
●Sartori, G (1976), Parties and Party Systems (邦訳 『現代政党学-政党システム論の分析枠組み』), Cambridge: Cambridge University Press.

  1. 訳注;大恐慌(経済の低迷)がファシストの台頭に力を貸すことになった []
  2. 訳注;比例代表制選挙において政党が議席を獲得する上で必要となる最低限の得票率 []
  3. 訳注;たとえある程度の数の票を獲得したとしても得票率が閾値を超えず、そのため議席を得ることができない []

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